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社会とつながりたい? ひとりでいたい? 揺れ動く若者の心
第6回 「見せびらかし消費」は過去のもの

太田 恵理子
キリン株式会社
キリン食生活文化研究所 所長

太田 恵理子

2013 / 06 / 14

#コミュニケーション,#生活 文化

社会とつながりたい? ひとりでいたい? 揺れ動く若者の心<br>第6回 「見せびらかし消費」は過去のもの

“社会(誰かと)”と“ひとり”との間で揺れ動く若者たち。最終回は「自分らしさ」と「空気を読む」の間を行き来しながら、自分の居場所を探す若者について、私なりの仮説をお話しします。

“社会(誰かと)”と“ひとり”との間で揺れ動く若者たち。最終回は「自分らしさ」と「空気を読む」の間を行き来しながら、自分の居場所を探す若者について、私なりの仮説をお話しします。

人間関係や自分の幅を広げたい

これまで5回にわたり、“経済停滞”と“ゆとり教育”のベースの上で“SNS”に彩られた若者の意識・行動を見てきました。そこでは「家族や気安い友人とは楽しく過ごす、それ以外の人とのつきあいは気疲れするのでひとり行動を好む」という様子がうかがえました。

では若者は、家族や昔からの仲間など、閉じた人間関係だけで満足しているのでしょうか。前回同様MROC(マーケティング・リサーチ・オンライン・コミュニティ)という手法で聞き取った若者の生の声には、人間関係や自分の幅を広げたいという欲求が見え隠れします。“街コン”と“シェアハウス”についての考えを聞いたところ、ポジティブな評価として、街コンに行けば「いろいろな人に出会えて楽しそう」、「人脈が広がりそう」、シェアハウスのような深いつきあいからは「自分以外の価値観を知ることができる」、「人間的に成長できそう」との期待が寄せられました。

「自分らしさ」と「空気を読む」の間で

揺れ動く若者の気持ちと行動を考えるにあたり、2つの軸を置いてみました。1つは「他人の視線」。自分らしさを重視するのか、それとも世間の基準にあわせようとするのかという縦方向の軸で、今までお話ししてきた“つながり欲求”や“同調圧力”と関連しています。もう1つは「がんばる」。物質的・精神的な未充足を、努力して充たしていこうとする横方向の軸です。達成感や自己実現など人間にとって普遍的な動機づけとなる軸として設定しました。2つの軸の原点に近い左下が“素のままの自分”の位置となります。

高度経済成長期の日本では、特に物質的な未充足が多く、“いつかは○○”という、国民が共通して持つあこがれに向かって、左下から右上への強いベクトルが働いていたと考えられます。それは3種の神器のような家電や車であったり、欧米の有名ブランドのようなファッションだったり、さらには一戸建てのマイホームだったりしました。これらをせめて人並みに得たい、できればよりよいものを手に入れて周囲の称賛を得たい、とがんばっていたわけです。この時代は、左下の“素のままの自分”は必ずしも「自分らしさ」を表さず、右上にある国民的あこがれの“モノ”を得てはじめて「自己表現」できると考えていた人も多かったと思われます。左下から右上へ、一方向の強いベクトルが働くこの時代においては、世間からはずれた特殊な趣味を追求する真横への動きは“オタク”として揶揄され、仲間とつるんで意味もなく騒ぐ真上への動きは、“チーマー(徒党を組んでたむろする不良グループ)”のように眉をひそめられる存在だったのではないでしょうか。

2方向のビジネスチャンス

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バブルがはじけた現代の若者をとりまく環境は、“モノ”に関してはほぼ充足していると同時に、がんばればより豊かになるという期待も持てない状態です。“今”に充足しているわけですから、左下の「がんばらず」「自分らしく」いられるところ(=ホームベース)で、家族や同級生など将来も失う恐れの少ない人たちと確実な人間関係を築きながら内ごもりしつづける若者も男子を中心に見られます。

とはいえ、本来は生命力にあふれる若者。街コンやシェアハウスに対する考え方からうかがえるように、ホームベースを拡張したいという欲求も持っています。コラムを通じて見てきた、“みんなで楽しむ”と“自分本位で楽しむ”という2つの楽しみ方を考えると、拡張の方向も2つありそうです。 1つは「他人の視線」を気にしつつ出張っていって、みんなでワイワイ楽しむ方向(上方向)。仲良し同士で盛り上がる“女子会”や、不特定多数から気の合う人を探す“街コン”などはこの方向です。ここでは「がんばっていることを見せる」のはNGです。場の空気を読みながら、適切なコミュニケーションをとることが求められるため、ちょっとつらいと感じる人もいるでしょう。

もう1つは「がんばって」好きなことを極めようとする行動(右方向)です。MROC調査の中で“幸せを感じる瞬間”を聞いたところ、「絵を描く」、「メイクの技を磨く」、「アイドルの追っかけ」、「カメラ」、「ゲーム」、「自転車一人旅」など、実にたくさんの、そして多様な趣味や自分なりのこだわりにかかわる回答が集まりました。1人で、あるいは同じ趣味の仲間がいる場合は複数で、打ち込んで没頭している時間が幸せなのです。特に、既に充足している“モノ”ではなく、体験を通じた心の満足を求めているように感じました。そこには、かつての“オタク”のような暗さや疎外感は見られません。自分らしく「がんばる」ことで、必ずしも他人からの承認を必要とせず、自己を肯定できるのでしょう。話題の“1人カラオケ”や、同じ趣味を持つ人同士が集まる“コンセプト系のシェアハウス”などはここに位置づけられそうです。


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いかがでしょうか。ホームベースとその外側を行きつ戻りつしながら、人間関係や自分の幅を拡張しようと揺れ動いている現代の若者の気持ちが少し見えてきませんか。 ところで、ホームベースと対極にある、「他人の視線」を気にして「がんばる」行動は、バブルの名残を引きずっていて“イタイ”とされます。ここに位置づけられたものは、真性の“○○離れ”と言えそうです。若者に向けて商品・サービスを展開する際は、左下から真上方向の“つながり欲求”か、真横方向の“自己肯定欲求”を意識することが成功の確率を高めるのではないでしょうか 連載コラム「社会とつながりたい?ひとりでいたい?揺れ動く若者の心」は今回で終了です。 これまでお読みいただき、ありがとうございました。

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