マーケティングコラム
“気づき”マーケティング(14) 「りんご」と「みかん」、どっちを食べる?
公開日:
東京辻中経営研究所
同社代表取締役マーケティングプロデューサー 株式会社ユーティル研究顧問
辻中 俊樹
このコラムで“気づき”を作りだす方法として「生活日記」、「フォトハント」、そして「生活者2次データ」の3つの重要性を繰り返し述べてきた。加えて、どうしても謎が残ることについてはインタビューをしてみるということがある。どちらにせよこの3つは、生活の実態や事実というものについて、「可視化」「見える化」をして、それを観察して“気づき”をつくるということになる。だから、それらを総合して「エスノグラフィ」的方法という言い方をすることもある。
生活の事実から見える面白さ
この方法を実践的に身につけるために「エスノグラフィ講座」ということでワークショップを開催もしている。受講生の方々は自分自身で「生活日記」を書いてみて、その中から自分というターゲットに対する“気づき”を作ってみる。そして、参加者同士でお互いの「生活日記」を観察して“気づき”を相対化するのである。また、「フォトハント」は「スナップショット」という言い方をしているが、テーマを決めて日常の生活動線上で目に飛びこんできた状態を写メにとって蓄積していく。そして、お互いの「スナップショット」したビジュアルを相互観察して“気づき”を作っていくのだ。この2つは日常生活の中の生活動線の上で行なわれる作業なので、それほど特殊なことではない。それよりもそこで「可視化」された生活の事実から、どんなことに“気づき”を持つかというワークショップに面白さがあるといってもよい。
迷いの海で溺れないために
そんな細々とした事実の中で、たとえば「みかん」や「りんご」を食べたということがあったとする。この事実はたまたま個体差が「可視化」されただけのことなのか、そんなことに迷うこともある。それはたった一人の一回だけのことなのかどうかと…こんな迷いの海で溺れないためにも、「生活者2次データ」というものを使ってみる習慣をつけることが大切なのだ。この「生活者2次データ」というものは、人口動態や婚姻率といった公官庁が整備している統計を活用することで得られるものである。こういったマクロデータといわれている統計情報を処理して、生活動線上出現する細々とした生活の事実の背景を「可視化」することは普段の生活では全くといっていいほどやらないことである。 この「生活者2次データ」を自分で作ってみるということも、この講座のワークショップで必ずやっていることの一つだ。普段の生活ではほとんどやらない作業なので難敵でもあるのだが、やってみて慣れると面白くてみんなはまることになってしまう(笑)。
今回も「私たちは、ほんとうは何を食べてきたのか」というテーマを「可視化」してもらうというワークショップが進行中だ。とはいってもどうしていいかがわからないというのが普通だから、「食糧品別国内消費仕向量」の推移という、私たちが作った一つのフォームを示して、それを補足してもらうことにしている。とはいっても公官庁のデータを扱うことは経験ゼロでは困難なものだ。
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生活背景を「可視化」することへのチャレンジ
でも、受講生の皆さん、けっこううまいのである。企業人たちはことごとく地頭とスキルはあるのだ。これに“気づき”のセンスが加わればいいだけのことなのだ。ただ、何十年も前からこれをやっていた私たちと、現在の環境はずい分異なっているのも事実だ。検索すれば、かなりのデータがピンポイントでかわる。たとえば、「私たちは野菜をどれくらい食べているものなのだろうか」とか「昔と今ではどう違っているものなのだろうか」とか、「りんごとみかん、どっちが果物の王者なのか」、こんなことを示してくれるデータがすぐにわかるのだ。それもネット上でPCの画面にあっさり表示される。私たちが始めたころは分厚い原資料である統計本を何十冊もめくるはめにおちいっていたのだ。
そしてそれをエクセルで処理すれば自由自在、ましてやグラフ表示ソフトをうまく使えばいろいろなことがまたたく間に「見える化」されるということになる。私たちは手書きで数字を抜き、電卓をたたき、グラフ用紙に点を打ち定規でつないでいたし、間違えると消しゴムでゴシゴシ。泣きたくなるような徹夜の朝を迎えていたものだ。
ツールが手助けしてくれるのだから、どんどん疑問を抽出してはやってみるといいのだ。案外自分自身の気づかない立ち位置を明示してくれるものだ。「りんご」も「みかん」も王者ではないものの、やはり王者の風格はあるものだ。受講生たちが楽しく作ってくれたものを少しだけ紹介してみよう。
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自分の生活の背景を「可視化」すると楽しいものである。これが“気づき”をふくらませていく1つのポイントだ。皆さんもチャレンジしてみられたら。
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