マーケティングコラム
気づきマーケティング(7) 「ばあば銀行」の利息??
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株式会社ユーティル取締役会長
“気づき”マーケティング研究所所長
辻中 俊樹
9月の中旬から末日までの期間で、「三世代のコミュニケーションと行動」というテーマで調査をやることになった。シニア世代の親とその娘、そして孫の間の三世代の関係を理解するために、サンケイリビング新聞社の行う調査の分析、監修をお手伝いしたのである。この三世代が日常的にどのような共通の行動を行ない、それにともないどんなコミュニケーションが発生しているのかを把握するために生活日記による生活動線調査を実施したのである。加えて、その間に関係した物品や、メールやラインなどのコミュニケーションの要素を写真で残してもらうというものである。
いわゆる"気づき"マーケティングの基本パッケージである生活日記と簡略なエスノグラフィー調査をやってみた訳である。結果、もちろん様々な発見や"気づき"があった訳だが、今回はその中からエピソードを少々紹介することに。
いわゆる"気づき"マーケティングの基本パッケージである生活日記と簡略なエスノグラフィー調査をやってみた訳である。結果、もちろん様々な発見や"気づき"があった訳だが、今回はその中からエピソードを少々紹介することに。
シニア世代の親とその娘、そして孫の間の三世代の関係を理解するため
その中で今回面白かったのは、「今日はシルバー割の日なので買い物に行かない?」といったシーンがでてくることだ。シルバー割をしているスーパーは、一体誰に対してセールしているのだろうか。シルバー割ということは結局「三世代セール」をやっているということになるが、スーパーはそのことに気づいてやっているのだろうか。

「シャインマスカット」や「巨峰」が買われた訳
これを純粋に経済的行為としてみれば、シニアからママ世代への日常的なサポートいうことに尽きる。ところが、そのこと以上に重要なのが「贈与と返礼」という情緒的行為なのである。もっと踏み込んでいえば一種の宗教的行為ということだとみれる。
経済的には500円程度の日常的買い物の対象物にすぎないが、何しろ旬の「巨峰」であり「マスカット」である。これには経済的利得などをはるかに超えたばあばの「霊威」の伝達というものがあるのだ。だからこそ、この贈与には「返礼」というものがともなうことになる。ほぼ同等の経済的価値の対象物をお返しするのではなく、これは感謝という「霊威」を返礼とすることである。
孫がおいしそうに食べて、「ごちそうさま」といっている写メがラインで送られてくる。神に捧げものをし、その神の「霊威」をうけとり、3~4粒のおさがりの「巨峰」をいただくことで、ばあばは満足するというようなことになる。
ばあば銀行の利息
これは昔からよくあったような話だが、この私的銀行である「ばあば銀行」は何しろ利息が20%もつくそうである。ママ銀行に預けておいても利息は当然つかないから孫は預けない。「ばあば銀行」にはママは預けることができないというように、セグメントが厳格である。
この利息で孫はばあばに贈り物をしたという訳だが、考えてみればばあばは自分のお金で自分に贈り物をしたに過ぎないというのが、純粋な経済学である。ここに「贈与と返礼」という別の価値増殖の筋道が参加することにより全く新しい関係性を生み出すことになるのだ。
マルセル・モースが『贈与論』で述べた“ポトラッチ(儀式)”やマリノウスキーがトロブリアンド島(ニューギニア)の原住民の行為から“クラ(交易)”を発見したように、「贈与と返礼」という“気づき”なしには三世代の関係は解けて行かない気がしてしまう。
合理的な思考と解釈ではまったくわからないように生活は非合理に満ちている、ということなのである。