マーケティングコラム

生活者の真のインサイトを探る -継続的なプロダクトイノベーションのために-

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株式会社ユーティル取締役会長
“気づき”マーケティング研究所所長

宇田川 信雄

オリンピックを6年後に控えているからでしょうか、最近“日本の近未来予測”という言葉をよく耳にします。先日もある方から近未来を予測するときに注目すべきキーワードは何でしょうかねと尋ねられました。“少子高齢化”、“経済再生”、“経済、文化のボーダレス化”、そして“女性の活躍推進”などがあると思います。ただし、科学技術(特に、情報通信)とインフラがますます高度化する中で突然予期しなかったニュースが生まれる社会ですから予測は難しいですね。 

日本の近未来予測

 2001年1月1日(元日)の日経新聞の特集で、21世紀に起こるであろう様々な技術革新や変化の予測が出ていたように記憶しています。その中で特に注目したのが「癌の撲滅:2010年」と云う項目でした。あれから13年余り経ち、癌の研究は相当に進み、様々な方法の治療法が見つかり治癒している方が増加しているのは事実ですが、未だに撲滅の技術の完成には至っていないようです。癌の罹患、その発生と転移のメカニズムのパターンがあまりに複雑なのでしょうね。そんな中、2020年には日本人の二人に一人が癌で死亡するなどといった数値も出始めています。まあ、これは寿命が長くなったが故の出来事だとは思いますが、、、

 ことさらに予測というものは難しいですね。特に経済予測ですが、あれだけ多くの学者や評論家がいますがなかなか当たらないですね。需要予測モデルや公式もその昔からいろいろと考えられてきましたが、きちんと当たるものはなかったのではないでしょうか。不思議なことですが、特に短中期のものは難しいようです。もし完成していれば経済評論家はいなくなるのですかね?!それだけ、変数が多く複雑に絡み合った社会、そして、ますますグローバル化が進む現代社会では影響しあう因子が多すぎてシンプルに回答を導き出すことが不可能なのでしょうね。

人口と経済成長

 ところで、本題に戻りますが、日本の近未来予想のハイライトとして大方のコンセンサスを得ているのは人口と経済成長の関係でしょう。少子高齢化の歯止めがきかない様子でもあり、また、この課題は社会システムや経済環境に与える影響が計り知れないゆえに研究者も多く、いろいろな論点で語られていますが、特に気になるのが経済成長との関係ですね。

 従来から私は、経済成長を支える大きな要因の一つが人口増加であると考えています。日本の総人口は、1973年に109百万人、1993年に125百万人、そして、2013年には127百万人。第一次オイルショックが起きた1973年から1990年初頭まで人口は大きく伸び続け、その後急激に伸びが鈍化し、20年間で200万人しか増えませんでした。また、労働人口(15歳~64歳)も似た推移を示し、1973年に7,400万人であった労働人口は高度経済成長を支えた20年の間に8,680万人(1993年)へと1,280万人も増加、ところが、その20年後の2013年には7,970万人と710万人も減少しています。

 さて、経済成長はどうだったでしょうか?労働人口が著しい上昇を続けた1973年から1993年の20年間、日本経済も著しい成長をとげ、実質GDPは230兆円(1973年)から467兆円(1993年)へと倍増、年率(年次成長率)でも3.6%もの成長をし続けました。ところが、労働人口が減少に転じた1993年からの20年間に勢いは衰えましたが成長を続け、2013年度の実質GDPは529兆円と、20年間で年率0.6%の成長をし続けたことになっています。要するに、失われた20年間、そして人口増加が止まった期間でも成長を続けていたのです。人口の増減と経済成長が単純にはリンクしていないのです。

 そして、少子高齢化が過激に進むと予測されている将来でも、日本のGDPは伸び続ける予測が出ています。ゴールドマンサックスの予測では、2010年度の日本のGDPは米国、中国に続き世界3位ですが、2050年には8位へと後退します。2050年の日本の人口は9,700万人と現在から3,000万人も減少しているにも関わらずGDPは1.5倍になっています。(但し、米国のGDPは2.6倍、そして、中国は何と15倍の伸びと予測されている) ところが、一人あたりのGDPでみると、2050年でも日本は米国に続き世界2位なのですね。われわれが悲観的に見るほど35年後の日本の地位は落ちないようです。

経済成長を支える「プロダクトイノベーション」

 それでは何が経済成長を支えるのでしょうか。先日、古川洋氏(東京大学/経済産業研究所)の「少子高齢化と経済成長:2011年1月」というレポートをみて以前から考えていたことがハッキリと繋がったのですが、日本の高度経済成長を生み出した原動力が農村から都市部への人口移動とそれに伴う世帯数の増加であった事は事実でしょう。このことは弊社の顧問で、人口動態分析の第一人者でもあり、「東京移民」などの言葉を生み出した辻中俊樹氏も唱えていたことです。そして大切なことは世帯の増加に伴って需要が増大した耐久消費財が経済成長の原動力であったし、それを支えてきたのが“プロダクトイノベーション”であったとする古川氏の考え方が非常に興味深いところです。

 日本の世帯数は以下のテーブルに見えるように、単身者世帯が増加するために2020年までは総数が増え続けそうですが、その後減少に転じ、単身者世帯も2030年をピークに減り始める様です。これを見た時に経済成長への赤信号を感じるのですが、“プロダクトイノベーション”が成功裏に進めば経済成長を支える事が可能とする考えは正しいかと考えます。古川氏もレポートの中で、「既存の商品はプロダクトイノベーションが起こらない限り成長し続けることは出来ず、持続的な経済成長を生み出す究極的な要因は新しいものやサービスの誕生である」と述べています。


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 ところが、基礎科学の分野、特に、医学や物理学の世界では様々なイノベーションが起こっているにもかかわらず、身近な消費経済社会では、この“プロダクトイノベーション”に課題が見え隠れしています。生活者の価値観や嗜好、そして、消費デマンドの変化に対応する際に表層的な市場トレンドに振り回され、また、生活者ニーズの充足に差別化が見いだせずに競合企業の後追い戦略をとる傾向が見られ、市場に繰り出される製品はますます同質化が進み、生活者から見ても製品の違いは分かり難く、価格競争の激化など、負のスパイラルが継続してはいないでしょうか。

 そのような状況の中、ビッグデータをはじめとして企業内部には様々なマーケティングデータが溢れ、益々その分析が複雑になってきています。生活者の行動結果からでは見出しにくい革新的なマーケティング仮説(プロダクトイノベーション)を創造するために、生活者の真のインサイトや行動パターンを深堀する必要性が高まっています。

 一人の生活者(n=1)の生活動線(行動パターンやスタイル)を深く観察(日記調査とエスノグラフィー)、そして、デプス・インタビューによって背景や理由を探り出す“<n=1>リサーチモデル(気づきマーケティング)”が注目を集めています。クロス・マーケティンググループでは、10月22日に“気づきマーケティングモデル”のセミナーを開催します。エスノグラフィー調査をはじめ、生活者の行動パターンから「気づき」を発見するための調査、分析、コンサルティング活動を行う辻中俊樹氏の豊富な経験を紹介するとともに、「日記、エスノ、デプス」を組み合わせた“気づきマーケティングモデル”の実施例を紹介します。

 次の機会にはこのセミナーの内容を抜粋したレポートをお送りする予定です。

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