マーケティングコラム
お客さまを知る!ショッパーマーケティングとは。
公開日:
エンバイロセルジャパン株式会社
代表取締役
福田 弘二
ここ数年、「ショッパーマーケティング」、「ショッパーインサイト」といった言葉をよく耳にする。我々が日本で“エンバイロセルジャパン”という購買行動調査の専門会社を立ち上げた10数年前には、これほどまで「ショッパー」という言葉は広がっていなかった。それまでは、ショッピングに関わるマーケティング用語としては、「カスタマー」、「顧客」といった言葉に代表されるように、「購買」という行動の結果、すなわち、「商品」を所有されたお客さまにフォーカスした呼び方が付けられているのが中心であった。このように、これまでのマーケティングでは、「購買結果」という事実を捉えたものが多く、「購買以前=POS未満」の実態に目を向けた調査やマーケティングは少なかったといえる。
何故ショッパーマーケティングなのか?
では、何故ここにきて、「ショッパー」という言葉が注目されてきたのだろうか?それは、ひとつには、お客さまの購買への意欲を掻き立てていく上での重要なマーケティングツールであった、マス広告の効果が弱まってきていることも影響しているといえる。同時に、いつでもどこでも同じ商品を手にすることができ、インターネットなどの情報の氾濫によって、商品の差異化も難しくなってきており、「購買結果」を基にした調査データ(従来の物差し)だけでは、お客さまの商品選択・決定プロセスを把握することが難しくなったためとか思われる。そのため、購買の結果から読み解くのではなく、お客さまの“店頭での購買に至る過程=POS未満”の行動や心理を把握する必要性が高まるようになり、購買時のお客さまを「ショッパー」として、フォーカスしはじめたのである。
お客さまの固定観念がさまざまな誤解を生んでいる
さて、お客さまの購買行動を考える際、注意しなくていけないポイントは何であろうか?それは、お客さまに商品を選んでもらう土俵に上がっているかどうかということである。いかに店頭でお客さまに興味を感じてもらい、商品や売場を意識して見てもらえるかどうかということである。近頃の購買行動をみていると、商品を選び、吟味(検討)してもらうどころか、目も留めないといった行動の方が多いのである。長年、お客さまの購買行動を調べていると、ある事実に気付くことになる。それは、“店頭におけるお客さまの買物の時間が短くなってきていること”である。とりわけ、スーパーやドラッグストア、家電量販店など、日常的に利用される業態や店舗でよく見られる傾向である。この現象はあらかじめお目当ての商品を決めて来店しているお客様が増えているからという理由によるものではない。商品の差異化が難しくなっている現在、どれも同じに映り、目新しさを感じられない(すなわち、商品や売場を意識しない)お客さまが増えていることが強く影響しているといえる。
さまざまな情報が氾濫し、商品情報に触れる機会が多い現代では、お客さまはある種の耳年増になっており、知ったつもりになっていることが多く、結果的に、新しい機能や特徴を持った商品であっても、それらの特徴に気付かず、いつもと同じ商品なんだろうという誤解が生じているのである。
小さなPOPで“タッチパネル対応モデル”と告知する程度では、展示全体から感じる印象の方が強く、従来からのイメージは払しょくできない(新しい機能を想起させられない)ことがよく起きてしまうのである。
このように、店頭での買物では、事前に認知されていない新たな商品や機能は意識されず、そのまま見過ごされてしまう確率が高まりやすいといえる。また、日頃と同じような展示を繰り返していると、具体的な説明や情報を読む前に、展示全体の印象を受けて、いつもと同じという感覚が強くなり、商品選択の土俵に乗っていないことがよく起きてしまうのである。この行動はお客さまが意識して行っている行動ではないため、アンケートで聞き出そうとしても、答えることが出来ない(言葉にならない)事象であり、従来の方法だけでは把握できないことなのである。
知らないことは聞けない!
このような購買行動の特徴は商品選択だけの問題ではない。お客さまへの接客対応にも大きく影響してくるのである。研修を通じて、お客さまへの商品説明力を高めようと努力している企業は多い。個々のスタッフの説明能力を高めることは販売力アップには重要なポイントといえる。これからのリアル店舗では、間違いなく、人間らしさを感じさせる環境が生き残りへの魅力要因になると思われる。しかし、説明能力以前に、ニーズを聞き出す力を強化している企業はどの程度存在しているだろうか。「説明=お客さまの質問にしっかりと答えること」と誤解をしている人は少なくないのではないだろうか。実は、お客さまが質問していることは、お客さまが知っていることの範囲の中で行われているということに気づかなくてはならない。お客さまは知らないことは聞けないのである。しかし、この知らないことの中に、新たな発見があるのも事実なのである。お客さまの質問に正確に答えることばかりに満足していると、接客でお客さまの新たな感動を喚起する機会をロスすることにつながりかねないのである。
「こんな機能があるのをご存知ですか?」、「自分も知らなかったんですが、こういった使い方をしている人がいるんですよ!」といったように、お客さまに刺激を与える言葉が、新たなニーズの聞き出しのきっかけになっていくことも多いのである。
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