マーケティングコラム

フォーカスグループ(定性調査)の意義と価値(2) モデレーションの難しさ?!

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株式会社ユーティル取締役会長
“気づき”マーケティング研究所所長

宇田川 信雄

先月の続きですが、今回は“フォーカスグループのモデレーションの難しさ”について書いてみます。

モデレーターがやってはいけないミス

 突然ですが、その昔、フォーカスグループセッションをマジックミラーの裏から観察していた時でした。その場に一緒にいたマーケティング・ディレクターのアメリカ人が凄く嬉しそうに、「やったね、このストーリーボードなら考えていた通りのコンセプトコミュニケーションが出来る!」と云うので、私が「なぜ?」と聞くと、「だって、あの参加者が“味がすごく軽いみたい”と言っていた」というので、「ああ、あれは同時通訳がモデレーターの使った言葉を訳したモノで、あの参加者が発した言葉じゃないよ」と説明すると、ものすごく怖い顔で「冗談だろ、何故モデレーターがあの表現を使っちゃうんだよ?!それじゃ、このエクゼキューション(Execution:制作設定)のコミュニケーションが正しいかどうか分からないじゃないか!」と、まさに正論中の正論を私にぶつけてきました。【このストーリーボードは、某たばこブランドのTVCFで、「このおいしさ別世界」をコピーラインに、たばこのパッケージを空間に浮かべ軽さを表現する様に考えられたものでした。当時は健康意識の高まりと共にたばこのタールやニコチン量がどんどん軽くなる傾向があり、「軽さ」はたばこブランドにとって重要なコミュニケーション要素でした。】

 この事故は同時通訳を使ってフォーカスグループセッションの会話を理解しなくてはいけない、日本語を外国語とするオブザーバーが経験する典型的な問題例でした。優れた同時通訳者でも込み入った会話を全て訳すことが難しいと共に、「今のはモデレーターの発言、そして、今度のが参加者Aさんです」と解説してくれませんしね。もし、あの場に私、或いは誰かヘルプできる人間がいなければ、そして状況を明確に説明できなければ彼の誤解を指摘できなかったわけで、マーケティング戦略上の決定を間違える可能性もありました。



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 それでは、なぜモデレーターが自ら大切な言葉を発してしまったのでしょう?実際に彼女を問い詰めた際の結果は、「すみませんでした、参加者から「軽いという言葉/表現」が直接出てこなかったので、つい、確認のために使ってしまいました」というモノでした。このモデレーターは調査主題の一つである「軽さ」の領域での会話に早く入りたかったのですね。会話の焦点を絞り込んで、“聞くべきことを聞いてしまいたい”と言うように、調査目的を早く達成したかった為に自ら言葉を使ってしまったのです。モデレーターがやってはいけない幾つかのルールのうち2つ、(1)会話に出て来ていない言葉で論旨をまとめてしまう、(2)リードをする(話をある方向に恣意的にもっていく ⇒ 想定外の発見や広がりがなくなる)を破ってしまったのですね。

 その結果、調査依頼クライアントさんが知りたかった、参加者(生活者、ターゲット消費者)の素直な理解を探り損ねたわけです。限られた時間の中でディスカッションフローに記されている課題領域を、それも、クライアントさんがマジックミラーの向こう側で観察している状況で全てカバーしなくてはいけない、といったプレッシャーを感じたモデレーターさんが無意識の中でついやってしまったミスでした。

多数決の挙手を促してしまう

 もう一つ、よく見かける事例は定性調査にも拘らず定量的なニュアンスで結果を示そうとする、例えば、グループセッションの途中で多数決の挙手を促してしまうのもモデレーションの課題かと考えます。もちろん、クライアントさんから請われてする事もあるのでしょうが、ある意味、定性調査の意義を逸脱するものだと思います。



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 ある質問(テーマ?)に関して手を上げさせて人数を確認し参加者の理解や同意をはかる行為ですが、定性調査と定量調査をごちゃまぜにしてはいけませんね。それに、他人の前で意思をはっきり表現することが苦手な人は当たり障りのない態度をとる事が多く、多数につられて手を挙げてしまいがちです。間違いとは言いませんが、手法の本質を取り違えているような気がします。なぜこの様な事をするようになって来たのでしょうか?“定性調査はリーズナブルなコストで結果が早く得られる”と云った理解が背景にあるように思われますが、原因の一つは、マジックミラーの向こうでフォーカスグループを観察している調査会社やクライアントさんの担当者にあるのかも知れません。その場(各セッションそれぞれ)でハッキリとした答えが欲しいといった姿勢を見せるがゆえにモデレーターが「Yes/No」を数で見せてしまおうとするサービス精神から始まった事かもしれません。(白黒がハッキリしてレポートが書きやすくなると云ったニュアンスもあるのかな~?!)

 でもベースがたった6人の場合、3人が「Yes」で2人が「No」、そして、残りの一人が分からないといったところで何の意味があるんでしょうか?参加者はこの結果からバイアスを受けその先の会話が難しいと感じるでしょうし、関係者はこの結果を見て“対象者の50%がこのコンセプト商品が良い/買いたいと云っていた”と喜んで報告するのですかね?

 この様なケースに出会った時に問題を指摘したところ、“でも、トータルで6グループ行うのでサンプル数が36人になるからいいんですよ”と云われたことがあります。これは恐ろしい勘違いですね。定性調査の中で対象者の反応を数値化すること自体に課題がある事は調査を学んできたものであれば誰もが理解している事だと思います?!その昔、こんなことをしていたら先輩や上司から相当怒られましたね!

定性調査の在り方

 調査は経営判断をするための道具の一つであり、判断そのものではありません。道具(手法)の意味や価値を正しく理解して使うことは大切です!最後になりましたが、ここに、弊社の井上昭成、定性調査部顧問の考える“定性調査の在り方”のごく一部を紹介します。

■定性調査とは、“結果としてのYes/No”や“まとまった回答を求める”ものではなく、どうなると、或いは、どういうプロセスを経るとYesなのか、またNoになってしまうのか、どのような要因や思考経路で参加者がそのような態度になるのかを構造的に明らかにする為に行われるべきだと考えます。定性調査の結果分析には必ず、参加者の言動を全体から理解した結果で可能となる「解釈」が入るはずで、発言の行間を読んだりタテマエと本音の識別をしたりすることが必要です。

■そのためには、参加者にテーマに関して自由に話しあってもらうことが必要だと思いますが、定量調査(アンケート)のOA質問の補完レベルのようなグルインでは、秩序だって構成的(structured)な一問一答型のインタビューが多いため、ディスカッションフローにおとされた設問のはざまや言葉のやり取りから読み取ろうと調査企画者が考えた参加者の真意や態度が見えないということが多々起こっているように思います。

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