マーケティングコラム
コロナでブランディングは変わったのか?今後のブランディングの指標とは
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新型コロナウイルス感染症によって企業や店舗の倒産や閉鎖が相次いでいます。自由に外出して買い物や飲食するというライフスタイルが制限される中で、新たな生活様式を求められる時代に適合するブランド指標について検証します。
ブランディングとコロナウィルス
ブランディングの再確認
ブランディングとは、自社や自社商品に対して、ユーザーが共感したり信頼したりしてくれることによって価値を高めていく企業や組織のマーケティング戦略の一つです。誰もが欲しくなるブランド名を冠した製品やロゴは、ブランドの指標として分かりやすいでしょう。また、世界が抱える諸問題に対して企業が取り組む活動や提案なども大切なブランド戦略です。例えば、海洋汚染の原因のひとつであるプラスチック製品を使わないことをいち早く決めたショップは、世間から地球環境保護の意識が高いという良い評価を得られます。企業の良いイメージを作り上げることでブランド力のアップにつながるのです。
ブランド力を高めることは、市場競争で有利に作用するからこそ企業は力を入れてきました。具体的なブランディング指標の柱として3つの要素が挙げられます。だれもが驚くような新奇性、使い勝手が良いなどユーザーの感動や関心を得る利便性、その時々のトレンドや時代の流れを反映しているかの社会性です。この3要素をうまくかみ合わせて、最大効果を生むのが基本でした。
ブランディング戦術にコロナはどう影響を及ぼしたか
こうした従来のブランド戦略には大前提がありました。それは、人々は行動し、実店舗に行き、物を買う、サービスを受けるという自由かつ流動的な消費性向です。しかし、爆発的に蔓延した新型コロナウイルス感染症によって人々の行動は制限されました。飲食店や観光業界などは深刻な経営難に見舞われ、閉店に追い込まれた企業も少なくありません。今後もしばらくは感染症のリスクを常に意識せざるを得ない状況が続くという見方が強く、人が動くことを前提としている従来のブランディング指標のうち、人々の命と健康を守るために役立つかどうかという社会性の要素が突出してきました。コロナ禍は、企業のブランド戦略の根本的見直しを迫るほど大きな影響を与えているのです。
今後重要になるブランディングの指標
社会性といっても、従来はビッグデータの活用や新しい働き方の提案といったテーマが目立っていました。しかし、今後は感染症の終息につながるテーマの優先度が高くなります。自社商品であろうが、自社に関する情報であろうが、感染症に関連する情報こそが現時点では最もユーザーの関心を集める情報です。新奇性や利便性も不要になるというわけではありませんが、未曽有の感染症リスクと戦う社会において、有用な社会性を認識できるブランドの創造がより重要になります。非接触でも伝わる企業の良さ
経営難に陥っている産業の中にも、伸びている企業はあります。キーワードの一つは非接触です。できるだけ人と接触しないで済むツールの提供や、接触回避を実現するサービスを展開している企業の株価は上昇しています。例えば、人工知能と一緒に学ぶオンライン教材を学校や塾に提供している企業や、オンラインの診療システムを手掛けている企業などの株価は急速に上がりました。非接触サービスの導入は、消費者が感染リスクを防げるだけでなく、企業がそこで働く社員を感染から守る対策を講じているというブランディングにもなります。しかし、重要なのは従来の接触型とは違っても、消費者のことを考えた付加価値のあるサービスを提供していくことです。
例えば品ぞろえを充実させることで消費者が少ない移動でほしいものをすべて手に入れられる、店内を一方通行にするなど人の流れをコントロールすることで感染リスクに配慮した店内環境を整えるなどです。
衛生面の強化
今、消費者にとって重要なのは、企業の商品やサービスが衛生面で問題がないかどうかということです。ホテル業界でも、フロントなど随所に手指用アルコール消毒液や飛沫防止用のついたてを設置するといった衛生面強化をアピールしたり、アプリを使った事前チェックインや自動チェックイン機を導入して接触リスクを極力減らしたりする対策を採っています。ウィズコロナであっても、アフターコロナであっても、消費者が企業に求めるのは安全面への信頼性です。企業がどんなに衛生面に注力していても、取り組みが消費者に伝わっていなければブランディングにはなりません。例えば自治体や政府が推奨している基準を満たしているなど、どういった取り組みを行っているのかを消費者がわかる形でアピールしていくことが大切です。それが企業に対しての安心感につながり、効果的なブランディングになるでしょう。
コロナ禍で実施された企業のブランディング
需要が一気に高まったハンドウォッシュ製品などを手掛けるユニリーバは世界規模で手洗い啓発キャンペーンを展開しました。自社製品でなくてもよいから手をしっかり洗いましょうというメッセージを伝えるCMを流し、途上国のバス停に手洗いステーションを設置してせっけんを使った手洗いの有効性をアピールし、自社に対する消費者の評価を上昇させることによって企業価値を上げています。英国最大手のスーパーマーケットチェーンであるテスコは、消費者の購買行動をコントロールして必要な物資の需給バランスを安定させることに貢献しました。また、医療従事者が買い物困難者になっている実情を解決するため、優先的に店舗で買い物ができる時間を設定するといった対策によって信頼度を高め、消費者との良好なコミュニケーションを形成してブランド力を高めました。
スポーツ全般が自粛を強いられるような環境が続く中で、スポーツ用品の大手ナイキは外出制限を余儀なくされた中国の人々にアプリを提供し、室内でエクササイズをするよう促しました。さらに、米国ではこのアプリの利用料金を無料にし、著名なアスリートたちを起用して、家の中で運動しようというキャンペーンを実施しています。
これらのブランディングは、爆発的感染症拡大に乗じて自社商品を売りつけるようなことはせず、むしろ疫病禍にあえぐ全世界の人々に、社会貢献という形で寄与する戦略を展開することで、消費者の高い評価や信頼を得ています。