マーケティングコラム

【新しい時代のリサーチ 第6回】「RDIT マーケティング領域での活用法」

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(株)クロス・マーケティンググループ
クロスラボ 研究員

岸田 典子 (きしだ のりこ)

第5回のコラムでは、世界で科学誌『NATURE』に取り上げられたRDITを利用したグローバル調査「精神疾患への偏見についての世界調査」”World survey of mental illness stigma”、 米国での『自殺リスク要因』についての研究など、学術研究での利用事例をご紹介しました。


第6回となる今回は、既存の調査手法と比較したRDITの特徴的な仕組みのほか、RDITを用いた調査企画上の留意点やマーケティング領域での活用法についてご紹介したいと思います。

既存の調査手法では調査対象者の偏りが大きな課題に

「全人口」の偏りのない調査を今の時代にあったスケジュールとコスト感で実施する方法は、現在ほとんど見当たりません。
郵送調査では調査結果を得るまでのスケジュールの長さを我慢しなければなりませんし、面接調査では実施する地域が主要都市部に限定されるケースが多くなります。また、調査協力者パネルを利用する場合は、あらかじめ調査に協力するために登録した人とその関係者のみに対象を限定することになります。特定のサイトを見た人に調査を依頼するリバーサンプリングでは、限定されたオンライン上の接点で調査協力に同意した人に対象が限定されます。

若年層、一人暮らし、オートロックマンション住まい、固定電話を持っていない人などからの調査協力はますます難しくなっています。調査に協力しない人を調査対象にできない以上、そのためにサンプルがどの程度偏っているかを測ることもできません。このように、通常はどの調査手法においても「調査に協力するという前提で成り立っている特定のタイプの人『調査に協力的な人』しか対象にできない」偏り(バイアス)が存在しています。
このことは今まで調査に携わる人たちの誰もが、変えることのできない当たり前のこととして捉えてきたことです。しかし現実には、以前のコラムでもご紹介したアメリカ大統領選でのトランプ氏の勝利のように、調査協力者だけから構成される偏りが世論調査と実際の結果とのズレを生み出す大きな要因となっているのです。

オンラインユーザーからのランダム性

RDITは、従来の調査では協力が得にくい属性も含めてランダムに幅広く回収することが最大の特徴です。RIWI社の特許には、「代表性のあるオンライン調査サンプルを得る手法」と書かれています。

なぜRDITが「代表性のあるオンライン調査サンプル」を得られるのか、その仕組みについてRIWI社のCEO シーマン教授は、次のように述べています。
「私たちのリサーチも、数多くのインターネット企業、商標保護関連の企業や規制機関、IT企業が実証していますが、世界中のWebサイトには、ついうっかりと間違ったWebサイト名を入力する膨大な数のインターネット・ユーザーがいます。これらのユーザーは、ときたま元のサイトにリダイレクトされることもあるので間違ったURLを入力したということに気づきません。
しかしながら、間違ったドメインが商標登録されていない場合や、存在しない、または、ばらばらの文字列や数字からなる場合は、よくあることですが、そのユーザーはRDITの調査に導かれるかもしれません。このようなランダムマイズされた特許をもつアプローチが、呈示されたサンプルのカバレッジバイアスを取り除きます。」

RDITを実施・運営しているRIWI社は、100万近い自由に利用できるドメインを保有し、上記のような方法で無作為で多様な人々にランダムに調査に誘導しています。広告のようにポップアップで調査画面が表示されるのではなく、Webページ全体が調査画面になるため、回答者には安心感があるようです。日本での過去の実施では、調査のトップページ(性別・年齢の質問)への回答率は20%程度あります。

RDITで使用する調査サイトは、固定されておらず瞬間的に切り替わるため、RDITの調査の回答者は偶然にそのドメインを開いた人が対象となります。そのため、調査回答者が選ばれるプロセスに恣意性が入り込む余地がありません。

RDITを使用した調査企画の留意点

RDITの特徴を踏まえた上で、実際にRDITを用いた調査を企画する際の留意点を5つの項目別でまとめてみました。

1.回答デバイス
RDITでは、パソコン、スマートフォン、タブレット、ゲーム機など、インターネットにアクセスするデバイスすべてが対象となり、どれも同様の調査画面となります。
そのためパソコンの普及が進んでおらず、モバイルでのインターネットアクセスが中心の発展途上国では、モバイル回答者の比率が高くなります。

また、利用しているWebブラウザ(ユーザーエージェント)、OS(オペレーション・システム)による制限もありません。ボット(不正プログラム)は検出し、除外します。 インターネットにアクセスしている人からの自然回収となります。
日本国内のデータでは、インターネット接続機能のあるゲーム機やスマートテレビ、LINEやフェイスブックのアプリからの流入も含まれています。このようなインターネット調査は他に例がありません。

2.回収サンプルの構成比・ウエイト付け
RDITは、インターネットの非ユーザーを対象とすることはできません。「全人口」ではなく「インターネット利用者」が母数となるため、回収結果は、女性よりも男性の比率が高く、若年層比率が高くなります。
そのため、対象国の国勢調査のデータを用いて性別・年齢別の構成比のウエイトづけがされています。ウエイト付けされたデータは自動算出され、回収途中でもダッシュボード上で表示されます。

3.地域
通常の調査では、回収エリアが偏らないよう地域別に割付を行うことが多いですが、RDITは、電話調査のRDDのように、元々のランダム性を生かして自然に回収します。そのためエリア別の割付数などの実施準備や回収状況のチェックに時間をかけずに、調査することができます。ただしRDITは、国単位が基本で、国内の対象地域を限定する調査にはあまり適していません。

4.取り上げるテーマ
RDITに適したテーマとしては、全国レベルである程度の認知率があるものか、一般の人が回答できる行動や意識に関する内容になります。
RDITでは、年齢条件を絞ることは可能ですが、出現率の低い特定条件のターゲットのみを割付けて回収する調査には向きません。
ターゲットを絞った調査が目的の場合は、通常の「調査モニターによる調査」をおすすめしています。特定のターゲットのみに対象を絞ることは、せっかくランダムに回収したサンプルから条件外のサンプルを捨てることになるので、可能ではありますが、費用対効果が悪くなります。

5.質問内容
インターネット上の通行人からの回答を得るためには、よりシンプルでわかりやすい質問である必要があります。一般のインターネット上の通行人の多くは、細かい字の冗長な質問文や注意書き、数多くの項目を読まなければならない調査には回答しません。
また、即答できないような質問をすると間違いが多くなり、脱落が増え、回収に時間がかかります。このようにRDITは、データの正確さ、ランダム性を重視する方のための調査手法です。社会調査・世論調査にもご利用いただけます。
誰でも回答できるようなシンプルな質問に限られますが、そのデータの正確さ、継続的な調査を行う場合のデータの安定度は、これまでにご紹介した世論調査などで実証された通りです。

マーケティング領域での活用法

それでは、マーケティング領域でRDITに向いている調査とは、具体的にどのようなものでしょうか。ここではRDITに適した調査の例をご紹介します。

a. KPI指標の把握とそのトラッキング
基本的な使用実態調査、認知率やシェア、主要競合ブランドとの比較やその推移、キャンペーン浸透度調査の事前・事後調査では、信頼できる安定したデータの取得が可能です。

キャンペーンの事前・事後調査において、対象者群を同質に、同じ人を含まないように(フレッシュサンプル)コントロールすることは、通常の調査協力者パネルを利用した調査では、モニター数の関係で難しいですが、RDITでは、その点について悩む必要がありません。 景気が上昇傾向なのか、下降傾向なのかといった消費者の景気実感の質問は、景気指標となります。

安定したデータを継続的に取得することによって予測が可能になります。RDITのオリジナル・ダッシュボードでは、調査の途中経過を確認しながら、調査を中断することなく、常に最新情報を見ることができ、長期に実施を継続することが可能です。

b. グローバル
何十ヶ国の同時調査のような大規模調査であってもRDITという1つの調査プラットフォームで実施できます。世界中どこでも同じ手法で実施できるという一貫性は、世界を比較する上で、重要な要素です。どの国に課題があるのか、どの国のポテンシャルがより高いのかの判断材料として、グローバル市場を掴むのに適しています。公的データが不十分であったり、信頼できなかったりする新興国も多い中で、RDITのデータは新市場への進出・開拓するときの信頼できる市場情報になります。
そのような複数国の情報を1つのダッシュボードから、いつでも回収したての最新情報を見ることができるというのは、これからの新しいデータの活用方法といえるでしょう。


最後に、RDITに向いているテーマをまとめます。
このようなテーマの中から判断材料として本当に重要かつ必要なものだけの「ミニマムな質問票」を作ります。弊社ではこのような質問の作成についてのご相談も対応しています。


KPI指標の時系列変化

使用実態
認知率・使用率・保有率・利用頻度・購入頻度・使用量など
→市場規模の把握
→ある特定の商品・サービスのシェア・競合との比較
受容性把握

→ある特定の商品・サービスへの関心度・利用意向
広告の浸透度

→キャンペーンの事前、事後調査
人々の意識・考え方

→世論調査、社会問題に対する意識
景気指標・消費マインド

その他

ポイント謝礼・インターネットバンキング関連
→謝礼支払いシステムの利用による影響がない
自動取得される情報の活用
→利用ブラウザ、OS、回答デバイス、回答エリア



今回は、RDITの特徴的な仕組みと調査企画の際の留意点、マーケティング領域での活用法についてご紹介しました。

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