BtoBは売上データの統合がカギ!Webマーケティング部の “インテリジェンス組織化” の課題と展望
公開日:

近年、BtoB企業においてWebマーケティング部への期待が飛躍的に高まってきています。従来のデジタルチャネルを通じたリード獲得や顧客育成だけでなく、売上への貢献をデータドリブンに評価できるようにすることや、会社全体をデータドリブンな組織へと変革を牽引する役割を担うことが期待されるようになってきています。
本記事ではそういったWebマーケティングの近年のトレンドを背景から解説し、実際に取り組んでいくうえで出てくる課題とその解決方法についてご紹介します。
1. 数段上のデータ活用を求められるようになったWebマーケティング部
PVやCV、CPAなどを確認していればよかった従来のWebマーケティング
Webマーケティングの現場では、Googleを中心としたプラットフォーマーが便利なマーケティングツールを提供してきたため、何もしなくてもすぐにデータを確認できて簡単にPDCAサイクルを回せるような環境がありました。具体的には以下のような指標がよく挙げられます。
- サイトのアクセス状況を分析できるGA4(Google Analytics 4)では、ページビュー(PV)やセッション数(SS)、ユニークユーザー数(UU)などの指標
- 自然検索による流入状況を詳しく分析できるGoogle Search Consoleでは、表示回数(インプレッション数)やクリック数などの指標
- Web広告でよく使われるGoogle広告やYahoo広告 などの広告媒体のダッシュボードでは、表示回数やクリック数に加えて、コンバージョン数(CV)、CVR、CPA、CPC、CPMなどの指標
こういった指標を確認してPDCAサイクルを回していくというのが、Webマーケティングにおけるデータ活用の基本でした。
経営層から求められるようになったLTVやROASという指標
昨今では、コロナ禍によって社会経済に大きな影響をもたらし、現在もなお変化し続ける市場や顧客ニーズに企業として対応していく必要があります。その一方で、労働人口の減少によって従業員の確保が難しくなってきており、こうした状況の中で、1人あたりの生産性を向上させることが重要な課題となっています。売上の増加や利益の拡大を目指すための新たな活路として、Webマーケティングの重要性がますます高まっています。
その結果、ただコンバージョンを増やせばよい、ただコストパフォーマンスをよくすればよいというわけではなく、売上にいかに貢献しているかを、経営層から求められる現場が増えてきました。具体的には、LTVやROASといった指標によるレポーティングが求められるようになってきているのです。
- LTV - Life Time Valueの略で、顧客生涯価値とも呼びます。長期で1人の顧客からどれくらいの利益を創出できるかを表す指標です。業態にもよりますが、サブスクリプションビジネスでは1人あたりの利益を解約率で割って算出したりします。リピート率や継続率が高くて長期的に利益をもたらしてくれる顧客を評価するための指標で、顧客を獲得・維持するための費用をLTVがどれくらい上回っているかが1つの基準になります。
- ROAS - Return On Advertising Spendの略で、広告の費用対効果とも呼びます。売上金額を広告費で割った指標で、100%を超えていれば、広告費を最低限回収ができたと判断する基準になります。業態にもよりますが、200%~400%あたりが目標に設定されることが多いです。
LTVやROASといった指標をうまく活用することで、広告費がどれくらい売上に貢献しているのか、短期の利益ではなく長期的な利益としてどれくらい重要な顧客なのかを分析することができるため、組織のP/L(Profit and Loss、つまり損益のこと)を意識する経営層に向けてより論理的なレポーティングができるようになります。
2. 売上への紐づけとアトリビューション効果の評価という課題
広告運用データと売上データの紐づけという技術課題
しかし残念ながら、LTVやROASは、Looker StudioなどのBIツールを導入し、データソースに接続するだけで活用できるわけではありません。
LTVやROASの指標を算出するためには広告運用のデータと売上データを紐づける必要があり、この点が多くの企業のWebマーケティング部にとって大きな壁になってきます。というのも、タグを入れるだけですぐに使えるGA4やGoogle Search Consoleなどとは異なり、各種データをデータウェアハウスに蓄積したうえで、有効なIDでデータを統合する必要があるからです。
売上データや有効なIDの仕様は、企業によって千差万別です。ウェブサイトを管理するCMSや、売上を管理しているシステム、場合によっては導入しているMAツールなどの状況によっても変わってきます。そのため、簡単にツールを導入できるケースが非常に少なく、企業ごとのシステム事情に合わせてカスタマイズすることが、技術課題として立ちはだかってくるのです。
売上に紐づけたら売上だけを追ってしまうジレンマ
一方で、いざ売上に紐づけてLTVやROASを使って効果検証ができるようになったときに陥りがちな問題として、売上だけを追ってしまうようになるというジレンマがあります。というのも、BtoB企業では組織内のパワーバランスは営業組織の方が強い企業が多く、Webマーケティングを売上で評価できるようになると、とにかく売上に直結する施策ばかりが優遇される場合があるのです。
その結果、Webマーケティングの担当者であればすぐに想像がつくのは、ニーズが顕在化している顧客に対してはコンバージョンを重視した広告が重要視されるという展開です。認知を増やす、興味関心を湧きあがらせるといったブランディング重視の広告が減ってしまうと、短期的に売上は増えたとしても、長期的には新たな顧客のパイを増やせずに成果が出なくなってしまいます。こういった展開はなんとしても避けたいところです。
長期的な貢献を評価するアトリビューション分析というもう1つの課題
このジレンマを解決する方法の1つとして、アトリビューション分析があります。これは、コンバージョンした最後の広告だけを成果評価するのでなく、最初に接触した広告や、途中で接触した広告にも成果を割り振って評価する分析手法です。
アトリビューション分析には、線形モデル(リニアモデル)やポジションベースモデル、データドリブンモデルなど様々なモデルがあります。連携するだけですぐに分析ができるツールを導入する場合もあれば、データウェアハウスに蓄積したデータを直接分析できるように開発するケースもあります。
いずれにしても、売上を紐づけたときにコンバージョン重視の広告ばかりに傾倒しないよう、アトリビューション分析を意識して一緒に進めることで、WebマーケティングのPDCAサイクルをデータドリブンにバランスよく回せるようになります。
3. Webマーケティング部のインテリジェンス組織化で見えてくるDXの旗振り役
Webマーケティングのデータを売上データに紐づけられ、アトリビューション分析もできるようになったとき、Webマーケティング部の”インテリジェンス組織化”という新しい展望が見えてきます。
実は営業部門にこそ活用されるマーケティングデータの基盤
というのも、BtoBの営業部門にとって、売上に紐づいたマーケティングデータは施策に直結するデータになることが多いです。営業部門は、1人1人のお客様に日々接するため「そのお客様」については非常に詳しくなりますが、「全体のトレンドについての情報」や「まだお話しできていないお客様」についての情報は少なくなりがちです。
そこでマーケティングデータの出番です。どのようなページのアクセスが増えているか、どのような検索ワードで流入が増えているのかを読み解くことで、「全体のトレンド」が見えてきますし、このようなデータはセグメントごとに分析することでより強力な洞察を得ることができます。営業活動で注力するところを調節したり、商談でのアイスブレイクに使用したりするなどの活用ができるようになります。
また、営業が「まだお話しできていないお客様」についても同様です。サイトのアクセスログから興味関心のあるサービスやテーマにあたりを付けて初回商談に活かしたり、久しくお会いしていないお客様が情報収集を再開していることを素早く察知してこちらからご連絡したりなど、営業活動を立体的に推進することができるようになります。
膨大なデータを持つWebマーケティング部だからこそできる ”インテリジェンス機能”
営業部門もそのデータを使うようになれば、Webマーケティング部の中だけのデータ基盤という小さな位置づけではなく、顧客理解の推進のために部門を横断して、全社で活用したいデータ基盤という大きな位置づけが見えてきます。
顧客理解を推進するためのデータ基盤として注目されることで、マーケティングデータという膨大なデータを有するWebマーケティング部が、全社的なデータ活用プロジェクトをリードできる可能性が出てきます。ウェブサイトの管理やWeb広告の運用を遂行する運用組織から、データを用いて顧客理解を深めることでビジネスを推進する “インテリジェンス組織” への変革です。
4. 先手を打てる知見を持ったデータ活用支援会社を選定する重要性
しかしながら、Webマーケティング部の “インテリジェンス組織化” と言うのは簡単ですが、売上データを紐づけてデータ基盤を構築すればよいわけではありません。実際に推進しようとすると実現までには数多くのハードルが立ちはだかります。特に以下の3つが大きなハードルになりがちです。
- マーケティング特有のデータ特性と指標に対する知見 - マーケティングの施策やツールによって異なるデータの癖を見抜いたデータ設計ができるかどうか。また英語の略字が多い膨大な指標を正しく理解して集計できるかどうか。
- 会社特有のマーケティング運用に対する理解 - 会社特有のマーケティング概念やツールの運用方法に合った集計方法を設計できるかどうか。
- データ活用の段階に応じた調節能力 - データ活用を立ち上げる段階、運用を安定化させる段階、利用を拡大させる段階、抜本的な見直しをする段階のそれぞれを考慮したプロジェクトに調節できるかどうか。
こういったハードルにぶつかるたびに右往左往していてはプロジェクトの進捗が著しく遅くなり、会社としては「全社のデータ基盤として使うのは難しいだろう」という判断になりかねないため、先手を打って対策して推進できる知見が必要になります。 一方で、こういった知見を持つ従業員が社内にいる場合は非常に稀であり、実際には外部のデータ活用支援会社に依頼するケースが多くなります。会社の選定の際には、もちろん「データ基盤を作れる会社か」の見極めは必要ですが、プロジェクトを成功させるうえで重要な見極めポイントは以下の3点になります。
- データベース構築の作業が得意なだけではなく、マーケティング領域における知見も十分に持っているか?
- ヒアリングを通じて会社特有のマーケティング事情に大きく踏み込んで理解しようとしているか?
- 先を見通した複数段階でのプロジェクト提案があるか?保守段階での支援の選択肢はあるか?
弊社クロス・マーケティングでは、マーケティング領域を出自としてカスタマイズ性の高いデータ活用プロジェクトを遂行してきた経験が多く、こういったご要望をお持ちのWebマーケティング部の方に合ったデータ活用プロジェクトのご提案ができるのではないかと考えています。もしご興味がおありの場合は、ご相談・お見積りフォームより是非お問い合わせくださいませ。