市場調査とマーケティングリサーチの違いとは
中小企業診断士/MBA/魅力発信ブランディングコーチ
株式会社アイリスプランナー代表取締役
外資系ブランドで27年のマーケティングの経験からマーケティング専門の経営コンサルタントとして、
クリニックや起業家250社以上の経営戦略・マーケティング支援・オンラインビジネス化をサポート。
奥野 美代子
市場調査とは?
市場調査とは「数字や数値で現在の市場を把握し、マーケティング戦略(どうすれば製品が売れるかの作戦)を立てること」を指します。例えば、新しい車を開発しようとしていたとします。売るためには、顧客のニーズを理解して製品を作らねばなりません。市場調査では、そのために知っておくべき情報やトレンドを収集し、分析し、製品開発に役立てます。
例としては、以下のようなことを調べます。
・国民の車の所有率
・一人当たりの所有台数
・一台にかける値段
・購入してから何年目で買い換えることが多いのか
・購入する車のどのような部分を重視しているか
・現在、車を販売しているメーカー(競合他社)の数
・車産業において、各メーカー(競合他社)の市場占有率
市場調査にはさまざまな様式がありますが、一般的に初期段階では個人の意見や事実を重視し、アンケートなどの調査を行ってデータを取得します。その後、より具体的に分析する段階で顧客全体の傾向や統計的な数字を重視することが多いと言われています。
また、市場調査にはいくつかの調査方法があります。その中で代表的な調査方法をご紹介します。
定量調査
消費者や見込顧客に対して、対面・郵送・電話・Webなどを用いてインタビューやアンケートを行い、データを収集します。市場調査の最も代表的な方法といえます。よく使われている手法はインターネット調査で、インターネットを通じてアンケート回答を依頼します。メリットは、インターネット上で行うため回答者の負担が少なく、他の調査と比べて低コスト・短期間で効率的に多数のサンプルを集めて調査できることです。文字だけでなく、画像や写真・動画を使って調査することができる点も強みです。デメリットは、高齢者などネットを利用しにくい世代の回答を得ることが難しい、商品やサービスと回答者の関係性が低い場合は回答の信頼性が低くなる、機密性の高い情報の調査は難しいことなどがあります。定性調査
属性(年齢・性別・職業など)が共通するグループにグループインタビューを行い、顧客の本音や本人が認識できなかった意見を引き出す調査手法です。具体的には、4~6人の調査参加者に集まってもらい、モデレーター(インタビュアー)と呼ばれる進行役がインタビューを行います。メリットは、アンケートではわかりにくいユーザーの意見や感想など定性的な情報を得られることです。回答者の返答によってその場で質問を変えることもできます。デメリットは、会場設定や参加者を集めるための時間と費用が発生します。また、影響力の大きい参加者がいた場合、その他の参加者の考え方が左右される可能性があります。覆面調査
第三者が消費者として実際にサービスを利用し、依頼主に情報提供する方法です。目的は現場では気づかない部分まで現状を客観的に把握し、質の向上につなげることで、飲食業などのサービス業でチェーン展開する店舗の実際を上層部が把握するために有効な手段として知られています。近年では「ミステリーショッパー」などとも呼ばれ、世間的にも認知されているほか、歴史あるフランスのミシュランガイドなども、昔からこの方法で調査を行っています。具体的には、調査員が一般客として店舗を利用し、商品・サービスや接客の質、満足度を評価します。商品を注文する段階から商品の到着、実際の利用までといった全行程の調査をする場合もあります。メリットは、課題に合わせて調査項目を設定し、調査レポートをもとに商品・サービスの改善に生かせることです。デメリットは調査結果があまり良くなかった場合、覆面調査に対応した従業員のモチベーションが下がったり、調査自体がハラスメントだと捉えられたりする可能性があることです。統計データ調査
政府や大学など公的機関が調査・公表している統計データをもとに、ターゲットとなる顧客の属性(年齢・性別・職業など)に合わせて、数値の割り出しや統計データを調査します。デスクリサーチとも呼ばれ、Webサイトや社内にある既存の資料を使ってデータをもとにリサーチすることもできます。調べたいテーマの市場や業界動向を調べる場合に適しており、「調査したいキーワードでネット検索」「Webで既存資料・統計を収集する」などの方法が一般的です。メリットは、時間をかけずに幅広く情報を集めることができること。デメリットは、情報の真偽性が不明であったり、著作権の制限があったりした場合はデータが活用できないというリスクがあることです。これらを組み合わせることによって、市場調査は行われます。
マーケティングリサーチとは?
上記で説明した市場調査は、マーケティングリサーチの一部とも言えます。現在の日本では同じ意味に使われることが多いですが、厳密に言えば市場調査は「データや数値で現在の市場動向を知る」のに対し、マーケティングリサーチではもっと広義的に「未来の市場動向に対する予測や分析、考察」を行います。また、一部の専門書では、「市場調査は統計学的に、マーケティングリサーチは国語的に市場を検証すること」だとも説明しています。
過去から現在については、数値という形でさまざまなデータが存在します。しかし、あす以降の市場の動向は過去のデータを用いて予測し、“あたり”を付けて意思決定しなくてはいけません。その際には、上記で挙げた市場調査で用いられる方法がマーケティングリサーチにも応用されますが、結果をどう活用するかにおいて明確な違いが生まれます。
例えば、「現在持っている車に満足していますか?」という質問を行ったとします。
その際、「満足している」と答えた理由について「デザインが気に入っている」という回答があった場合、潜在的な顧客ニーズを計り、既存の製品よりもさらにデザインが優れた製品を開発すれば、売上につながる可能性が高くなります。このように、集めたデータから因果関係を察知し、まだ現れていない顧客のニーズを洗い出すのが、マーケティングリサーチです。
マーケティングリサーチには以下のような方法があり、市場調査とは違って製品の内容以外に広告や流通などの調査も行います。
製品テスト
顧客に新製品またはすでに販売されている対象製品を実際に使用してもらい、顧客の評価を探る調査方法です。顧客が新製品に対してどんな印象を持つか、どこを改良すればより売り上げを伸ばすことができるかなどの課題が浮き彫りになります。事前事後調査
イベントなどの広告キャンペーンを実施前・実施後で調査し、その結果を比較して宣伝効果を測定したい場合などに使われる調査方法です。また、製品テストで、製品を試用する前後での購入意向の変化を見る場合などもあります。ホームユース・テスト
製品テストのひとつです。テスター(試供品)を各家庭に配ってしばらく使ってもらい、結果を記録してもらいます。テスト期間終了後にその記録を提出してもらい、補足質問を行って製品に対する意見を求めます。日常生活の中で行われるテストであるため、より製品の実際の使用状況に近い形で顧客の意見が聞ける、有用な調査方法です。パッケージ・テスト
製品容器のデザインや色合い、使いやすさ、材質などに関してのテストです。顧客にパッケージについての評価や、実際にその商品を購入したいか、店頭で目立つかどうかなどの意見や感想を集めて商品開発のヒントとします。ネーミング・テスト
いくつかの候補の中からどの名前がその製品に適切か、複数の候補の名前に対する意見、印象を顧客に尋ねるテストです。テスト・マーケティング
新製品を実際に販売して、その売り上げの様子を観察するテストです。中規模都市をターゲットに、全国発売と同等の環境に置いて、宣伝、広告、販促イベントなどの反応を見ます。その期間、顧客や小売店への調査を並行して行い、製品の認知度や購入率、シェア、小売店の取り扱い率、宣伝効果などを計測します。この結果にもとづいて全国発売の対策を練り、将来の販売数や売り上げなどを予測していきます。市場調査とマーケティングリサーチの違い
市場調査とマーケティングリサーチの違いは、調査結果の活用方法です。市場調査は、数値やデータでマーケット(市場)の現状を把握(実態把握)するため、つまり「過去から今」のこれまでの商品・サービスを調査する目的で行われます。
それに対し、マーケティングリサーチは「数値やデータからこれからの商品・サービスの市場動向を予測し考察すること」です。つまり「今から未来へ」向けてのニーズ探索です。
ゆえに、市場調査はマーケティングリサーチで使われる調査のひとつといえるでしょう。
どういった場面で使用するのか?
市場調査はどのような製品を作るかという指針にするべく行われる調査であり、開発製品の原案や初期段階で使用されます。それに対し、マーケティングリサーチは製品開発の全体において行われ、主に開発後のテストや流通に対して使用されるケースも多いです。市場調査とマーケティングリサーチは、内容としてはほぼ同じものですが、調査が「いつ」「なんのために」行われるかという部分で棲み分けができます。
市場調査やマーケティングリサーチを効果的に行うポイント
市場調査やマーケティングリサーチを効果的に行うために有効な事前準備について解説します。必要なのは、市場調査なのか、マーケティングリサーチなのかを意識した上で、具体的な取り組みを決定する前に下記のポイントをチェックしましょう。調査目的を事前に明確にする
最初に考えるのは、調査を行う目的です。目的が曖昧なまま調査方法やターゲットを検討し始めると予算や時間の無駄になります。調査をすることで達成したい課題や、調査する目的、考えられる仮説を社内でしっかり検討して書き出します。このとき、曖昧な言葉になりがちなので、「どんな課題を達成するために、何を行いたいのか、そのために市場調査で何を明らかにする必要があるのか」を言語化もしくは図で書き出しましょう。
依頼する会社を見極める
調査の目的を明確に言語化もしくは図式化しておくと、依頼する会社の選定や依頼内容が明確になります。この段階では、具体的な調査方法やターゲットの絞り込みなどの詳細は決めておかなくても構いません。市場調査・マーケティングリサーチ会社といっても専門性や持っているノウハウ、対象とする企業規模などの特徴が異なります。調査会社のサービス内容や得意分野、対応地域については、HPの公開情報をもとに調べます。価格だけではなく調査設計や内容についてしっかり相談できる会社を複数選び、比較検討することが重要です。
調査会社とのコミュニケーションは頻繁に行う
調査会社に依頼するにあたっては、目的と調査内容、スケジュール、成果物の仕様など、十分なすり合わせを行うことが大切です。
発注後は調査会社に任せっぱなしにせず、定期的にコミュニケーションを取ることが成功のカギとなります。調査会社から提案される具体的な調査企画・調査方法・スケジュールについて、自社で行うことと調査会社が行うことを確認し、社内で共有します。自社からの情報提供の遅れや急な追加要望は、費用や期間が予定外に増えたり延びたりする原因になるので注意しましょう。
市場調査やマーケティングリサーチを実施する際の注意点
実際に市場調査やマーケティングリサーチを実施する際の注意点をまとめます。
・事前に予算と期限を明確にしておく
・消費者の本音を引き出す最適な調査方法を検討する
・定期的な調査か、一時的な調査か明確にする
市場調査やマーケティングリサーチは、ある程度の枠組みを決めておかないと調べる内容や項目がどんどん増えてしまいがちです。そのような失敗をしないために、達成しようとしている課題に対して、いつまでにどこまでの調査が必要なのかを明確にして、予算と期限を決めます。
調査方法はいろいろありますが、大事なのは自分たちの求める情報に対する社会情勢の変化なども考慮しつつ、消費者の本音を引き出す調査方法を判断することです。
その上で一回だけの調査で完結するのか、または定期的に調査を行い、情報の更新性を保つ必要があるのかを明確にします。
市場調査の活用事例
市場調査とは、具体的にどんな形で行われるのでしょうか。クロス・マーケティングで実施した調査をもとに活用事例を2件紹介します。
1. CORE(生活者総合ライフスタイル調査)
生活者の意識・価値観の傾向について30年以上にわたり継続的に実施している調査です。毎年10月に首都圏在住の3,000人(男女・年代別)に対して生活意識と行動項目についてアンケート調査しています。
調査開始の30年前は平成時代の始まりでバブル景気が終焉を迎え、それから不況・好況の時代を繰り返し、調査当初に働き盛りだった団塊世代が現在リタイアの時期を迎えました。30年間、定点観測することで、同年代の意識の変化や世相との関連を見ることができます。
下記は、調査結果の一例で30年間の給与額と生活意識の変化をグラフに表したものです。2000年代から、貧富の格差が拡大したと思う人の割合が増えていることがわかります。
出典:
株式会社 クロス・マーケティング|消費者インサイトを探る「CORE(生活者総合ライフスタイル調査)」
2. シニアレポート
政府の公開データと独自の市場調査を組み合わせて作成されたシニア生活者の全体像を把握できるレポートです。シニア世代の経済状況、生活意識と行動、健康、食生活、暮らしなどがまとめられています。
自社で市場調査を行う場合、このようにすでに調査された資料を活用し、不足する部分だけを追加調査したり、他の調査資料と組み合わせて分析したりする方法が有効です。
公開されている政府統計もたくさんあります。代表的なものは、総務省の「国勢調査」「家計調査年報」、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」、厚生労働省の「国民生活基礎調査」などの4つです。このような調査資料は、政府統計のポータルサイト「e-Stat」から閲覧できます。
出典:
株式会社 クロス・マーケティング|これ一冊で令和のシニア像がわかる「シニアレポート」
政府統計の総合窓口 e-Stat|統計で見る日本
https://www.e-stat.go.jp/
マーケティングリサーチの活用事例
マーケティングリサーチのひとつである会場調査ですが、調査の目的や対象によってさまざまな種類があります。ここでは、その事例を紹介します。
1. 体験アンケート収集
自社商品の会場調査として参加者の反応を観察しながらアンケート調査を行なった事例です。アンケート結果を得られるだけでなく、会場で参加者を観察することによって個々の反応など言語外の情報も収集することができます。
2. 味覚調査
定番商品の味覚改良のために、リニューアル時に味覚調査を行った事例です。製品そのものの違いを感じてもらうために調査対象者として、ターゲット顧客である商品の愛用者のみを集めただけでなく、調理スタッフや材料なども統一するなど、調査の精度を高める工夫をしています。
まとめ
市場調査とマーケティングリサーチにはさまざまな方法があり、マーケティング施策の検討と実施に不可欠です。ニーズが多様化している現代では、市場がどんどん細分化されており、マーケティングを行っても調査方法によってはあまり有効ではないこともあります。最新の情報や調査事例を活用しつつ、専門家の手も借りながら時代に合わせたマーケティング施策を実施していきましょう。