マーケティングコラム
フォーカスグループインタビュー(定性調査)の意義と価値
公開日:
株式会社ユーティル取締役会長
“気づき”マーケティング研究所所長
宇田川 信雄
先ずは懐かしい話からです。今は デプスインタビュー(In-depth Interview/In-detailed Interview)を使うことが増えているようですが、昔はフォーカスグループ(FG)の方がはるかに多かった気がします。なぜかなと理由を考えてみたらすぐに結論が出たんですが、その昔は訪問面接が定量調査の主流であり、訓練されたインタビュアーが肝心な質問(特にOA)では結構細かいところまでプルーブをしてこちらの知りたい所を聞き取ってくれていたのであえてOne-to-Oneのインタビューセッションをする必要がなかったからなのでしょう。それと、当時のインタビュアーの質は相当高かったように記憶していまして、ベテランと云われる百戦錬磨のオバちゃんがたくさんいましたね。
Face-to-Faceインタビューの価値
定性調査の定番: フォーカスグループ
(※フォーカスの意味は二元的:1)特定のテーマに焦点を当てる、2)特定の対象者グループを集めて行う)
ところで、フォーカスグループの本来の形や意味は何処にあるのでしょう?私が考えるに、それは“井戸端会議”であり、或いは、“座談会”、そして“お茶会”ではないかと思います。実際、フォーカスグループの会場で「座談会はこちらです」といった案内板を今でもよく見かけますね。自由な会話の場で他の参加者の刺激を受けながら自分の意見を述べる。特に、形式ばらないリラックスした雰囲気で行われることが重要で、私も実際に何度か参加したことがありますが、欧米(アメリカやイギリス)ではスーパーバイザーの自宅の居間でお茶やお菓子を食べながら行うことが多かったですね。
したがって、これからのマーケティングにおいてSocial Mediaの活用はSocialMediaプラットフォーム(facebook, Twitter , mixiなど)内での拡散だけでなく、きっかけをSocial Media内で醸成し、如何に自社メディア、キャンペーンサイトに来てもらうかが重要なわけです。この一連の流れそのものにお客様の時間が詰まっているのです。
ここで少し横道にそれますが、フォーカスグループには“オピニオンリーダー”がいることが多く、彼らの意見に他の参加者が振り回されて真の意見が聞き出せない、或いは、グループダイナミズムが歪むからフォーカスグループは好きではないという意見があります。気持ちは分かりますがこの話には少しばかり異論があります。何故なら、現実の生活でも周りに“オピニオンリーダー”はいっぱいいます。そして、その影響を受ける人もいますし、受けないでしっかりと行動できる人もいます。普段の状況で話ができる事が大切なわけですからこれはこれで意味があるわけです。それでは、こういった“オピニオンリーダー”がいるフォーカスグループを管理する作法では何が大切なんでしょうか?月並みなこととしては「モデレーターが交通整理をして他の参加者にも十分に話させる」ことがありますが、私が注目するのは声に出さずとも自分の意思を表わしている人の表情や行為をつぶさに観察することです。目や首のふりかた、顔の表情でどの様に考えているかが分かります。オピニオンリーダーがどんなに強い事を言っていても“この人は違う意見を持っているな”と云うようなことが分かるのです。これらをモデレーターが見逃さずに上手く言葉として発言させてあげることや、アナリストがレポートで報告することがポイントですね。
この様に、ある新商品の評価に関するフォーカスグループであれば、メーカー(作り手側)が送り出したコミュニケーション(製品やサービスの説明)が個々の参加者にどの様に咀嚼されているかを知ることから始まり、それらが他の参加者の意見でどの様に変容するかのプロセスを一部始終にわたって観察することが出来るわけです。これによってコミュニケーションのキーポイントを確認、或いは、探り出すことが可能になります。これは、AIDMAの中で起きている、自分の持っている情報や理解と他者(世間)のそれを摺り合わせるプロセスであり、AISASではSearchとShareで明確に定義されていますね。このプロセスが生活者の最終判断(Action)に与える影響は大きく、この因子の重要性を紐解ける大きなチャンスなのです。
※AIDMA: Attention(注意が喚起される) ⇒ Interest(興味が生まれる) ⇒ Desire(欲求と摺り合わされる) ⇒ Memory(記憶に残る) ⇒ Action(行動をとる)
※AISAS: Attention(注意が喚起される) ⇒ Interest(興味が生まれる) ⇒ Search(検索から理解を深める) ⇒ Action(行動をとる) ⇒ Share(経験を共有する)
生活者の見える化の推進者
クライアントと調査会社の接点
企画書を作る段階に始まり、ディスカッションフローの確定、モデレーターとのブリーフィングセッション、そして、最も気を使うけど価値があるのが実際のフォーカスグループセッションの観察と終わった後で行われる各セッションごとのラップアップミーティングですね。また、その後で食事を一緒にしたりすることで距離はぐっと縮まります。この長時間にわたって行われるプロセスを共に過ごすことでクライアントさんと調査会社の間に多くのコミュニケーションが生まれ、ビジネス上の課題やネクストステップなどの理解が深まるのです。それと同時に、普段会う機会の少ない、リサーチ担当者以外のクライアントさんの関係者と接点を持つことが出来る非常に有意義なイベントなのです。
これはゴルフと似ていますね。長い時間一緒に過ごすことでお互いの気心が知れ、クライアントさんの抱えるBusiness Case(課題やチャレンジ)を聞いたり触れたりする機会が生まれますし、クライアントさんが何をやりたいのかが理解でき次の仕事がスムーズにいくことが多くなるのです。逆も正なりで、クライアントさん側からも調査会社の担当者のレベルや考え方を理解することができるわけですね。この様に、調査会社のリサーチャーにとってもクライアントさんにとってもお互いに大切で貴重な機会なんです。
それでは、フォーカスグループの良さを知ってビジネスチャンスをどんどん広げてください!今回はここまでにしますが次回の機会があれば「ディスカッションとインタビューの違い」、「モデレーターの技術とマナー」、そして、「実際に起きた成功例と悪例」などをお話ししたいと思います。