日本における出生率の推移は?低下している原因や政府の対策も解説
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出生率は、少子高齢化や日本の未来などを語る上では欠かせない指標のひとつです。日本の出生率は少しずつ低下しています。なぜ低下しているのでしょうか。今回は、出生率の定義から低下している要因、出生率を上げるための政府の取り組みなどについて解説します。
出生率と合計特殊出生率の定義とは?
そもそも、出生率や合計特殊出生率はどのような数値のことを指すのでしょうか。ここでは、出生率と合計特殊出生率の定義を紹介します。
出生率の定義
出生率とは、人口1,000人に対する1年間の出生数の割合のことです。式としては、年間出生数を10月1日時点の日本の人口の総数で割り、1000を掛けて導きます。
ただし、この方法では出産できない層(高齢者や男性、幼児など)も含まれるため、正確な出生率を把握するのには適していません。そのため、より実態を反映する指標として、「合計特殊出生率」が用いられます。
合計特殊出生率の定義
合計特殊出生率は、15歳~49歳までの女性の年齢別出生率を合計した数値で、「1人の女性が生涯で産む子どもの数」の指標となります。合計特殊出生率には、期間合計特殊出生率とコーホート合計特殊出生率の2つの出生率があります。
期間合計特殊出生率は、ある期間(1年間)の15歳~49歳の各年齢の女性の出生率を合計したものです。単純にその年の出生率を表したものであり、1年ごとの比較や国際比較、地域比較などの数値として使われています。
コーホート合計特殊出生率は世代ごとの出生率のことで、同じ世代の女性の各年齢時の出生率を表したものです。合計特殊出生率の定義である「1人の女性が生涯に産む子どもの数」はこのコーホート合計特殊出生率を指します。
しかし、この集計方法だと各世代が50歳に到達するまで結果がわかりません。それではリアルタイムな合計特殊出生率がわからないため、コーホート合計特殊出生率の代わりに期間合計特殊出生率を使うのが通例です。
結婚や出産の年齢にばらつきがある昨今の状況では、各年齢の出生率が世代ごとに異なっているのが当たり前です。そのため、期間合計特殊出生率とコーホート合計特殊出生率は異なる結果が出てしまうことを覚えておきましょう。
日本における合計特殊出生率の推移
日本の合計特殊出生率はどのように推移してきたのでしょうか。ここでは、日本の合計特殊出生率の推移について時系列で見ていきましょう。
日本は1971年に第二次ベビーブームを迎えました。このときの合計特殊出生率は2.16で、第二次ベビーブームの終焉となる1974年までおよそ横ばいの状態でした。しかし、その10年後の1981年には1.74まで低下し、少子化が社会問題として注目され始めました。
日本には、丙午の年に女の子が生まれることを良しとしない慣習があります。実際に、1966年は丙午の年で、合計特殊出生率は1.58と前後の年に比べると大幅に低下しました。1989年はこの丙午の1.58を下回る1.57となったことで、少子化が広く認知され、本格的な少子化対策が打ち出されました。
2025年2月に公表された「人口動態統計速報(令和6年12月分)」によると、2024年の出生数は72万988人でした。この速報の出生数には外国人も含むため、日本人のみの出生数は例年通りに推移すると69万人程度になると予想されます。国立社会保障・人口問題研究所が2023年に公表した「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によると、日本人のみの出生数が70万人を下回るのは2038年になると推計しており、予測よりも約15年早く少子化が進むことになります。
また合計特殊出生率も2023年に1.20と過去最低でした。しかし、2024年はそれよりもさらに低い1.15を割り込むと予想され、少子化に歯止めがかからない状況です。
出典:
厚生労働省「令和5年(2023)人口動態統計(確定数)の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei23/dl/15_all.pdf
厚生労働省「人口動態統計速報(令和6年12月分)」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/s2024/12.html
日本総研「2024年の出生数は68.5万人、婚姻数は47.5万組の見通し」
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=109244
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」
https://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2023/pp_zenkoku2023.asp
【都道府県別】合計特殊出生率ランキング
合計特殊出生率は、国全体の数値も大切ですが、地域ごとの数値にも気を配る必要があります。ここでは、合計特殊出生率の都道府県別ランキングを紹介します。
まずは2021年、2022年、2023年の上位10位の都道府県と合計特殊出生率を紹介します。
次に、2021年、2022年、2023年の下位10位の都道府県と合計特殊出生率を紹介します。
この表を見比べると、合計特殊出生率が高い都道府県は西日本に多く、低い都道府県は東日本に多いことがわかります。また、高い都道府県も低い都道府県も、数値が年々大幅に下がっています。この表を見ただけでも少子化が深刻な状態であることが読み取れるでしょう。
出典:
厚生労働省「令和5年(2023)人口動態統計(確定数)の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei23/dl/15_all.pdf
政府統計の総合窓口「人口動態調査 人口動態統計 確定数 出生 」
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003411598
日本の合計特殊出生率が低下している原因
日本の合計特殊出生率が低下している主な原因は、未婚化や晩婚化、晩産化が進んでいることです。経済的な負担や価値観の多様化により、結婚や出産を選ばない人が増えています。
それぞれの原因について詳しく解説します。
理由1|経済的な負担
結婚や出産、育児は常に経済的な負担をともないます。大きな金額が一気に出ていく不安もあり、なかなか踏み切れないという若者もたくさんいます。また、男女の賃金格差が埋まらないと感じる方も多く、貯蓄できない不安などを抱えている方も多いでしょう。
女性は、妊娠すると産前産後休暇を取る必要があり、その後の育児休業も合わせると1年程度仕事を離れることになります。その結果、妊娠していなければ得られたであろう所得を失うことになり、経済的な不安がさらに強まることもあります。
理由2|価値観の多様化
若者の価値観の多様化も、晩婚化や晩産化、未婚化の一因とされています。法律婚に限らず、同性婚や事実婚などを選択する人が増え、家族の形の概念も変化しているのです。
かつては結婚して家庭を築くことが一般的とされていましたが、現在では性別を問わず、キャリアを築きながら生活をする人が増えています。一方で、子育て支援が十分でないため、キャリアとの両立に悩む人が多く、結果として出産時期を遅らせる傾向も見られます。
また、結婚や育児以外の選択肢を重視し、自分の時間を大切にする若者も増えています。1人でも充実した生活を送れる社会になったため、未婚化や晩婚化が進んでいるのです。
日本の合計特殊出生率低下への対策
合計特殊出生率の低下を食い止めるため、日本政府はさまざまな対策を講じています。2023年12月には、2026年度までの3年間を集中取組期間とした「こども未来戦略」を閣議決定しました。そのメイン政策として「こども・子育て支援加速化プラン」を打ち立てています。
「こども・子育て支援加速化プラン」は、下記の4つの柱に基づいて走り出しています。
・経済的支援の強化
・すべてのこども・子育て世帯への支援
・共働き・共育ての推進
・こども・子育てにやさしい社会づくりのための意識改革
総額3.6兆円というこれまでにない大規模な予算を投じ、合計特殊出生率の低下に歯止めをかけるべく取り組んでいるところです。ここでは、具体的な内容について解説します。
出典:こども家庭庁「特集② 次元の異なる少子化対策について」
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/0357b0f6-8b14-47fc-83eb-2654172c2803/6798e91e/20241009_resources_white-paper_r06_14.pdf
子育ての経済支援
子育て世帯への経済的な支援として、さまざまな支援策が用意されています。児童手当の拡充や妊娠・出産時の経済的負担の軽減などは、妊娠して子どもが生まれればすぐに必要になる支援です。また、大学の学費に対する支援や子育て世帯への住宅支援など、子どもを育てるにつれて発生する経済的負担への支援も充実しています。
すべてのこども・子育て世帯を対象とする支援の拡充
政府は、より柔軟に通園できる「こども誰でも通園制度」の試験運用を開始し、すべての子どもや子育て世帯への支援強化に取り組んでいます。
また、子どもを安心して預けられる環境づくりとして、保育所の質の向上を進めています。具体的には、76年ぶりの職員配置の改善や保育士の処遇改善に加え、放課後児童クラブの設置数を増やし、受け入れ体制の充実を図る方針です。
さらに、子どもや子育て世帯の支援ニーズは多様化していることを踏まえ、政府は児童扶養手当の拡充、貧困や虐待の防止への対策、障害児・医療的ケア児など、幅広い施策を推進しています。
共働き・共育ての推進
共働きや共育てを推進し、夫婦が協力して子育てに取り組めるような施策も打ち出されています。まずは、男性の育児休業取得率を2030年までに85%に引き上げるという目標を掲げ、育児休業取得率の開示制度を拡充し、企業への助成を強化しています。
また、育児休業中は手取り額が減少し、所得の低下が妊娠や出産への意欲に影響を与えるため、給付率を手取り100%相当に引き上げる施策も導入されました。
さらに、子育て世帯の働き方にも着目し、柔軟な勤務形態を選択できるような施策も進められています。時短勤務に切り替えた場合の給付や、小学校就学前までの柔軟な働き方を支援する措置を講じています。
まとめ
日本の合計特殊出生率は年々低下しています。経済的負担や価値観の多様化が原因で子どもをもつ夫婦が減っている現状では、人口減に歯止めがかからなくなってしまいます。
国は子どもや子育て世帯への支援を強化するために「こども・子育て支援加速化プラン」を打ち出し、子どもや子育て世帯にやさしい社会づくりの実施を目指しています。子どもや子育て世帯をターゲットとしたマーケティングにおいては、こうした社会の動きを読み取りながら広告を打つことも重要であるといえるでしょう。
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