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【後編】自社の得意領域を伸ばすことが、SDGs貢献につながる
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住友化学はもともと、銅の製錬の際に生じる有毒な排出ガスから肥料を製造し、煙害という環境問題を克服しながら、食糧の増産への貢献も図ることから誕生した企業だ。SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)にも、日本企業としてはかなり早い段階から取り組み、「石油化学部門」「エネルギー・機能材料部門」「情報電子化学部門」「健康・農業関連事業部門」「医薬品部門」の各事業で成果を上げている。今回は、コーポレートコミュニケーション部の山内利博氏に、特に社内外のコミュニケーションにおけるSDGsの取り組みについて伺った。
SDGsの本当の浸透はまだまだこれから
堀:サステナブルツリーのような社員参加型のプロジェクトをこの規模で実施しているのは、国内ではまだ珍しいのではないかと思います。実は、先日弊社で調査を行ったところ、SDGsの国内での認知度は社会人で14.7%とまだまだ低いと言わざるを得ない状況でした。御社ではずいぶん違いそうですね。山内:そうですね。サステナブルツリープロジェクトも2018年で3回目になりましたので、社内でのSDGs認知度はかなり高いです。
ただ、国内と海外のグループ会社で比べれば、まだ意識に差があることも事実です。サステナブルツリーへの投稿も、6:4くらいで海外の方が多いのです。社員数は国内の方が多いことを考えると、本当に意識に浸透するのはこれからという気持ちでいます。
社内外でも、意識というものは急には変わらないと思います。たとえば健康・農業関連事業で開発しているバイオラショナル〔編集注:天然物由来などの微生物農薬、植物生長調整剤、微生物農業資材等や、それらを用いて作物を病害虫から保護したり、作物の品質や収量を向上させたりするソリューション〕は、生産者側でもソリューションの導入に準備が必要です。少しずつ、消費者側も含めて意識が変わっていってこそ、初めて社会全体の意識が変わっていくのだと思います。
堀:微生物農薬の研究は、SDGsでは「2.飢餓をゼロに」「13. 気候変動に具体的な対策を」などに当てはまりますね。御社ではほかにも、環境に貢献している製品をつくり、認定を与えるような独自の制度があると伺いました。
山内:「Sumika Sustainable Solutions」ですね。第三者機関のアドバイザリーを受けながら、当社の研究所や工場、グループ会社から推薦された製品・技術について、革新性、環境貢献度などの認定要件に合致するものを認定しています。
これまでに、44の製品・技術を認定しており、これらの売上実績は2017年度で3,357億円でした。「Sumika Sustainable Solutions」の売上規模を増やすことが、そのまま持続可能な社会に貢献することにつながると考えているので、総合化学メーカーとしてこれまで培ってきた多様な技術を生かしていければと思っています。
【Sumika Sustainable Solutions 認定製品の一部】
17のゴールは、世の中全体で達成する
堀:前回の記事でご紹介いただいた「オリセット®ネット」もそうですが、御社は、もともと持ってらっしゃる技術をSDGsへの貢献に活かすのが大変うまいのではないかという印象を受けます。これは、商品開発の段階から、SDGsへの貢献を考えているということでしょうか。山内:ことさらSDGsを意識した商品開発を行っているわけではありませんが、もともと住友化学には「社会問題の解決を目指すという」事業精神がありますので、社会のニーズと市場性を考えて研究開発を行っています。
例えば、大きな課題となっているプラスチック廃棄問題について、社会は3R(Reduce、Reuse、Recycle)によるゴミ削減を求めています。そこは化学企業として率先して対応していくことが必要であり、当社では注ぎ口を手で簡単に切れる特性を持った、洗剤などの詰め替え用パウチ包装に使用されるポリエチレンの開発に注力しています。
これは他の企業さんでも同じことが言えるでしょうが、社会の要請であるSDGsの目標が達成されない会社は、そもそも事業を続けていくのが困難と思います。本質的にはどの会社であっても持続可能性を意識した取り組みをするべきだと思います。
【愛媛工場での取り組みの様子】
山内:これは、お答えになっているかわからないのですが、全ての目標に取り組むことを当社として目指しているわけではないです。世の中にはたくさんの企業や団体がありますから、それぞれが自分の強みを持った領域の課題について取り組み、それが積み重なることで全体の目標が達成されればよい。すべてをコンプリートすることを目的にするのではなく、今できていることを確実にしっかり取り組んでいくということが、この先100年、200年続けていく上では大事だと思います。基本的には自社の得意領域を伸ばしていくのがいいのではないかと思います。
堀:おっしゃる通りかと思います。得意領域とはいえ、技術の進歩や社会的な意識の移り変わりもありますので、取り組みを続けていくのは簡単ではありませんよね。
山内:はい。SDGsへの取り組みも、普段の経済活動と同じように、分業して取り組むことが結果的には早道なのではないでしょうか。
それと関連しますが、社内のSDGsへの意識も、今はある程度高い状態を保てていますが、一度取り組みをやめてしまえば、また同じ水準まで戻すのは容易ではないと思います。その意味でも、当社の場合は現状行っている取り組みを、今後も地道に、確実に続けていきたいと思います。
堀:山内さんのお話からは、日本企業が今後SDGsと自社の取り組みを紐づける際のたくさんのヒントがあったように感じます。今回は貴重なお話ありがとうございました。
山内:こちらこそ、ありがとうございました。
<Point> SDGsを社内外のコミュニケーションに活かすために
■ SDGsをうまく使って、自社の取り組みを「可視化」していく
■ トップのリーダーシップのもと(T:Top)、事業を通じて(S:Solutions)、全社員が参加(P:Participation)するという「T・S・P」の考え方
■ 社内への浸透は、ある程度の「ゆるさ」をもって
取材後記「インサイトスコープ」
「事業を通じて持続可能な社会の発展に貢献する」というCSR基本方針をグループ全体で推進するためにSDGsを上手く取り入れています。会社でスローガンを掲げるだけでなく、トップが自ら日常の生活の中で取り組んでいる。そして活動を社内で見える化しています。社員全員が自分ごと化している事の先進的な事例でした。堀 好伸(株式会社クロス・マーケティンググループ)
住友化学株式会社
コーポレートコミュニケーション部長
山内 利博
株式会社クロス・マーケティンググループ
リサーチ・コンサルティング部 コンサルティンググループ コンサルティングディレクター
堀 好伸
<プロフィール>
生活者のインサイトを得るための共創コミュニティのデザイン・運営を主たる領域とする生活者と企業を結ぶファシリテーターとして活動。生活者からのインサイトを活用したアイディエーションを行い様々な企業の戦略マーケティング業務に携わる。「若者」や「シミュレーション消費」を主なテーマに社内外でセミナー講演の他、TV、新聞などメディアでも解説する。著書に「若者はなぜモノを買わないのか」(青春出版社)、最近のメディア出演「首都圏情報 ネタドリ!」(NNK総合)、「プロのプロセスーアンケートの作り方」(Eテレ)