Future Marketing

【前編】SDGsは長年の取り組みを可視化するチャンス

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住友化学はもともと、銅の製錬の際に生じる有毒な排出ガスから肥料を製造し、煙害という環境問題を克服しながら、食糧の増産への貢献も図ることから誕生した企業だ。SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)にも、日本企業としてはかなり早い段階から取り組み、「石油化学部門」「エネルギー・機能材料部門」「情報電子化学部門」「健康・農業関連事業部門」「医薬品部門」の各事業で成果を上げている。今回は、コーポレートコミュニケーション部の山内利博氏に、特に社内外のコミュニケーションにおけるSDGsの取り組みについて伺った。

事業精神とマッチしたSDGsの考え

堀:御社は2004年という早い段階でCSR基本方針をまとめるなど、早くからサステナビリティを意識した活動で知られています。そうした社会貢献活動に力を入れているのには、どのような背景があるのでしょうか。

山内:もともと住友グループには、自利利他 公私一如(じりりた こうしいちにょ)、すなわち、「事業は自らを利するとともに、広く地域や社会を利するものでなければならない」という事業精神があります。それに加え、住友化学は別子銅山での煙害の克服というところから始まった企業でもあるので、ある種企業のDNAとして、SDGsがこれほど盛んに言われるようになる前から取り組んできたという自負があります。
 実際、SDGsの前に国際社会の共通目標であったMDGs(Millennium Development Goals:ミレニアム開発目標)に対しても、いくつかの方面から取り組んできました。その取り組みの中の一つが、当社独自の防虫剤を練りこんだ「オリセット®ネット」という蚊帳です。



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 この製品は、蚊によって媒介されるマラリアの蔓延を防ぐため、UNICEFやWHOなどを通じてアフリカ各国へ供給されました。タンザニアのメーカーに製造技術を無償提供することで現地での量産体制も整え、80以上の国々に供給されています。このプロジェクトによって得られた売り上げの一部は、タンザニアやケニアなどの国々で小中学校の建設資金に充てられています。
 これは一例ですが、この事例だけでも(SDGsの枠組みに当てはめると)「貧困」「教育」「健康と福祉」「経済成長(雇用)」など、複数の目標に貢献しており、これらの統合的な取り組みにより、マラリア撲滅による死者は半減したと言われています。

トップのコミットメントと社員の参加を促す仕組みづくり

堀:創業時の精神が受け継がれ、こういった取り組みにつながっているのは理想的だと思います。ただ企業の規模が大きくなると、同様の精神を社内に浸透させるのは難しいのではないでしょうか。

山内:社内に浸透させる仕組みづくりとしては、サステナブルツリーというプロジェクトに2016年から取り組んでいます。これはSDGsで設定されている17の目標に対して「社員自らが仕事や生活において何ができるか」を、自社の専用ウェブサイトに投稿する仕組みです。



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 2015年は当社の開業100周年の節目でした。これを画期として、「次の100年に向け、企業として何をしていけるのか」ということを考える機運が高まっていました。ちょうどMDGsがSDGsに切り替わるタイミングでもあり、SDGsの勉強会を開いたり、SDGsとは何か、総合化学企業グループとして世界の課題解決にどう貢献できるかを学べるマンガを作成し、11カ国語にて全グループ社員にメールで配信したりもしました。
 このようなトップのリーダーシップのもと(T:Top)、事業を通じて(S:Solutions)、全社員が参加(P:Participation)するという「T・S・P」三位一体の考え方により、社内への浸透を図っていきました。

堀:トップのコミットメントが重要だというお話は、前回の記事で、ユニリーバさんも強調していました。社員全員が「やらされ感」を感じるのではなく、あくまで自発的に取り組めるような仕組みはありますか?

山内:サステナブルツリーへの投稿は強制ではありませんが、グローバル全体で3万人を超える社員がいる中で、2016年の6月から10月の100日間では6000件を超える投稿がありました。この数には、チームや部署ごとの投稿も含まれるため、実際に参加した社員はさらに多いはずです。



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 投稿のテーマは毎年更新していて、最初の2016年は事業を通じてというより、身近なことで、まず何でもいいから、この17の目標の中でやっていることがあったら投稿しましょうよ、という考え方で始めました。それこそ、「買い物行くときはエコバッグを持っていく」「食べ物は残さないようにしています」というような小さなことから投稿していって、なんとなくそういうプラットフォームがあることが周知されていきました。そうすると、自分が投稿するときに他の人の投稿を見る習慣がついていき、普段の業務でなかなか関わりのない人とも「ああ、この人、こんなこと書いているのね」という社内のコミュニケーションのきっかけにもなっていきました。

 2017年はそこからもう少し発展して、自分の業務を通じて、何をどう取り組んでいますか、というようなことを投稿しようと呼びかけました。「工場で環境に配慮した製品を作っています」など、個人だけでなく、製造のチームや研究グループからの投稿も増えてきました。
 3年目の2018年は、グループ会社ごと巻き込んでいき、「うちはe-ラーニングを実施しています」といったベストプラクティスが可視化され、またそれが横展開されていきました。こうしてみると、個人単位の努力による取り組みから、徐々に組織化されたものに変わってきていますね。



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堀: SDGsの目標を掲げても、なかなか社内の空気が変わっていかないという企業も多いと思います。そのような企業に、なにかアドバイスのようなものがあればお伺いしたいです。

山内:やはりまずはトップが本気になる、というのは大前提だと思います。規模の大小にかかわらず、トップが変わらなければ組織が変わらないというのは共通していますよね。そのうえで社員の参加ですが、これはそこまできつく縛らず、ある程度の「ゆるさ」をもって運用していくというのも重要ではないかと思います。
 先ほどご説明したサステナブルツリープロジェクトでもそうですが、無理やり社員全員を参加させるという仕組みを、当社では採用していません。各人のなかにはもともと、社会全体を良いものにしたい、という気持ちがあると思います。それを可視化し、SDGsの目標に紐づけてあげるのが、トップの役割だと思います。

堀:最初からハードルを上げてしまうと、参加自体が敬遠されてしまう。そうではなくて、もともとの個人や事業が持っている良い性質に光を当てていく。この方向性であればどんな企業でも実践に移しやすいかもしれませんね。

~後編に続く(2/22公開予定)~
山内 利博
住友化学株式会社
コーポレートコミュニケーション部長

山内 利博

堀 好伸
株式会社クロス・マーケティンググループ
リサーチ・コンサルティング部 コンサルティンググループ コンサルティングディレクター

堀 好伸


<プロフィール>
生活者のインサイトを得るための共創コミュニティのデザイン・運営を主たる領域とする生活者と企業を結ぶファシリテーターとして活動。生活者からのインサイトを活用したアイディエーションを行い様々な企業の戦略マーケティング業務に携わる。「若者」や「シミュレーション消費」を主なテーマに社内外でセミナー講演の他、TV、新聞などメディアでも解説する。著書に「若者はなぜモノを買わないのか」(青春出版社)、最近のメディア出演「首都圏情報 ネタドリ!」(NNK総合)、「プロのプロセスーアンケートの作り方」(Eテレ)



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