「働く人」を対象にした大規模な学術調査も簡単に短期間で実現。高品質なデータで心理学の研究に活用
写真中央)桜美林大学 リベラルアーツ学群 領域長(人文)教授 種市 康太郎様
写真左)弊社 カスタマーソリューション本部 学術調査担当グループ 星
写真右)弊社 カスタマーソリューション本部 学術調査担当グループ 鴇巣
心理学の研究では、調査対象者の心理を探るためのアンケート調査を行います。働く人のメンタルヘルスをテーマに研究している桜美林大学の種市康太郎教授は、これまで様々な企業の従業員を対象に調査・分析・研究されてきましたが、2017年ごろからクロス・マーケティングの学術調査も大いに活用して心理学の研究をされています。今回はクロス・マーケティングの学術調査を利用した研究の内容や、種市教授の考える心理学におけるデータ品質の重要性について取材しました。
桜美林大学
1966年に開学。前身となる崇貞学園から数え、2021年に創立100周年を迎えた歴史ある私立大学。創立当初から掲げる「キリスト教精神に基づく国際人の育成」という建学精神を引き継ぎ、学生の自主性を尊重した「学群制」や「メジャー・マイナー制度」を採用しつつ、グローバル人材の育成に注力している。
桜美林大学
リベラルアーツ学群 領域長(人文)教授
種市 康太郎様
早稲田大学第一文学部卒業。同大学院を経て、博士(文学)。早稲田大学助手、聖徳大学講師、准教授を経て、現職。専門分野は臨床心理学(キーワード:産業心理臨床、産業精神保健、キャリアの心理学) で企業従業員メンタルヘルスやストレス調査についての研究に従事。
日本公認心理師協会 常務理事/日本産業ストレス学会 常任理事/日本心理臨床学会 理事
プロジェクト概要
課題
・働く人のメンタルヘルスについて大規模な調査をするときは、企業の協力が不可欠であった
・調査会社を使うことで、企業に頼らずに、研究テーマにあった大規模なアンケート調査を実施したい
・分析のノイズとなる「不適切な回答」を排除し、質の高いデータを集めたい
【取り組み】
・クロス・マーケティングの学術調査サービスの利用を決定
・調査票作成や分析は研究者自身が実施、クロス・マーケティングにはアンケートシステム、モニター選定、アンケートデータの回収・納品などを依頼し、コストを最適化
・事前に調査対象者数、回収量を想定。狙い通りの調査を可能に
【効果】
・企業の協力がなくても、研究したいテーマ、調査規模、予算に沿った調査が可能に
・トラップ設問の配置や不適切な回答の除去によって、データ品質が向上
Interview
産業領域における調査は企業の協力が不可欠。自由に大規模な調査を実行するには?
――桜美林大学についてお聞かせください。
種市康太郎教授(以下、種市教授) 桜美林大学は、学部ごとに特定の分野のみを習得する「学部制」ではなく、他分野の学問領域を習得しやすい「学群制」を導入している私立大学です。その中で私が主として所属している分野は、大学の「リベラルアーツ学群」ですが、大学院の「国際学術研究科 」でも教えています。
リベラルアーツ学群では、「人文」「社会」「自然」、そしてそれらをまとめた「統合領域」という4つの学問分野があり、30のプログラムが用意されています。入学した学生はそれらを自由に組み合わせて学べるのが特徴です。
国際学術研究科では、臨床心理学を担当しています。臨床心理学とは、実際に心の悩みを抱えた方、精神疾患を抱えている方に対して、心理的な支援を行うための学問です。
――種市教授の研究テーマ、ライフワークについてお聞かせください。
種市教授 研究領域は「臨床心理学、産業臨床心理学、ストレス心理学、キャリア心理学」となります。簡単に説明すると「働いている人の心の健康、メンタルヘルス」ですね。
みなさんも感じていると思いますが、社会の形が変われば働いている人たちのメンタルヘルスにも影響が生じます。例えばコロナ禍では、ソーシャルディスタンスが呼びかけられ、テレワーク、リモートワークが増えました。このような流れを受けて、働く人のメンタルヘルスはどう変わってきたのか、そういう心理的な問題などを研究しています。
――働く人を対象とする心理学では、どのように調査を行ってきたのですか。
種市教授 企業からの依頼で研究することが多かったですね。例えば、「当社の従業員のストレスチェックをしたい」という依頼から調査が始まり、そのデータを私の研究にも活用するといった形です。あるいは逆に、私から「こういうテーマで研究したい」と企業に協力を呼びかけ、それに応えてくれた企業を対象にデータを集めるというケースもありました。
――心理学の研究に用いるデータには、どういった特徴や注意点があるのですか。
種市教授 心理学の研究に必要なデータをそろえようとする場合、実際に人々と接し、アンケートやインタビューなどの回答を得てデータにします。その際に重要になるのが、「その人が感じている主観的な要素が、得られたデータに反映されていること」です。
ところが、たくさんの人にアンケートを採ると、不適切な回答をする人も含まれてしまいます。例えば、「質問に対して5つの選択肢が用意されている」アンケートで、「すべての質問に1と回答している」人。あるいは、あまり考えずに適当に回答しているのか、ありえないような短い時間でアンケートを終えている人。
このような回答は、その人が感じている主観的な要素が反映されず、回答の妥当性が疑われることになりますので、研究、分析する上でノイズになりかねません。
――先生の研究におけるデータ収集の難しさはどのようなところにあるのでしょうか。
種市教授 心理学の研究論文を見ると、学生を対象にしてデータを集めているものが少なくありません。それは大学には学生がたくさんいるからアンケートを取りやすいという事情もあるのですが、私の研究テーマは「働く人のメンタルヘルス」「産業領域での労働者の心理」なので、学生を対象にするわけにはいきません。
そこで企業に呼びかけて調査に協力していただくことになるわけですが、当然企業側にも研究のニーズ、メリットが感じられないと協力を得るのは難しくなります。
期待を上回るスピード感と品質、利便性の高さが継続利用の決め手に
――クロス・マーケティングとのお付き合いのきっかけについてお聞かせください。
種市教授 クロス・マーケティングに依頼するようになったのは、そういう課題を解決したいと考えたからでした。2017年ごろ、企業に頼らずデータを集める方法として「調査会社を使ってみたらどうだろう」と思いついたのです。
そこでいくつかの調査会社に見積もりを依頼したところ、予算内に収まったのがクロス・マーケティングでした。そのときは1回だけ使ってみるつもりだったのですが、実際に利用してみるとクロス・マーケティングの良さがわかりました。
1つ目のメリットはスピード。1週間程度で調査が完了し、求めている品質、調査した人数が得られました。
2つ目は使いやすさ。例えば準備段階での調査対象を絞り込むスクリーニングのしやすさ。あるいはWebアンケートの画面の見やすさ。使いやすければ、アンケートの対象者もスムーズに回答できますし、私たちにとっても分析しやすくなります。
3つ目はデータの品質。先ほど挙げたような不適切な回答への対策、手立てが多いので、研究に用いるデータとして安心して利用できます。
クロス・マーケティングに依頼することで、これまで困難だった産業領域で、大規模なアンケート調査も簡単に、かつ短期間で実現できるようになり、それから何度も依頼しています。
――クロス・マーケティングとしては、ご満足いただくためにどのような点に注力していますか。
鴇巣 早く納品するには、準備期間を短くすることがポイントになります。そのためにクロス・マーケティングでは、チーム体制を敷いています。
例えば、本来の担当者が忙しくても、他のメンバーが協力することで、スピーディーに準備できるようにしています。またアンケート画面を作るチームも、東京、福岡と複数の拠点を設け、手が空いているスタッフをタイムリーにアサインできるようにしています。
星 学術研究という目的に応えるために、何よりデータの品質には気を使っています。「同じ選択肢の連続」となっているような回答は納品時にフラグを立てて識別できるようにする、きちんと質問文を読まないと正確な回答ができない「トラップ設問」を用意するなど、対象者の方がちゃんと考えて回答できる仕掛けも施しています。
鴇巣 クロス・マーケティングでは、年間800件以上の学術調査を行っています。そのため、「研究者の方々にとってどういうアウトプットが最適か」という点については、これまでの実績と経験則から体系化できています。
そうやって体系化したフローをスタッフ全員で回していることで、スピーディーな調査が実施できていますし、データ品質の向上につながっていると思います。その結果得られる調査データは、多くの研究者の方々にご満足いただけるというのは、私たちにとってもやりがいとして感じています。
――学術調査という面から見て、クロス・マーケティングを利用するメリットはいかがですか。
種市教授 クロス・マーケティングは、狙ったターゲットに対する調査を実施しやすいところに魅力を感じています。
例えば、働く環境、働き方には地域差がありますが、調査対象を「全国に広げるべきか、首都圏に絞るべきか」と悩むことがあります。そのようなときにクロス・マーケティングに相談すると、「全国だとこれくらい、首都圏だとこれくらい」と想定される人数、回収できる人数の見込みを教えてもらえますので、その情報を参考に方針を決められます。
また予算の面で調整しやすい点も長所です。予算を伝えると「ここまではできるけれども、ここから先は難しい」と率直に回答してくれます。そのうえで「この部分は研究室で行うので、この部分を依頼したい」と調整できるので、予算内に収めやすい点も安心感につながっています。
――クロス・マーケティングとして、学術調査のために工夫している点、配慮している点はありますか。
星 調査終了後には、「サービス満足度調査」というアンケートを実施して評価をいただいていますが、学術調査の場合、サービス満足度調査だけでは伝わりにくいところがあります。そこで、クロス・マーケティングでは先生方に直接お話を聞かせていただいて、データ品質の向上につなげています。そういうアフターフォローも重視している点です。
時流を捉える迅速な調査報告で、想定外の発見が得られた
――最近実施した調査「テレワークの量と従業員モチベーション変化について」の目的、概要についてお聞かせください。
種市教授 2020年からコロナ禍に入り、テレワークが急速に普及しました。テレワークにおける働き方は、健康面で言えば、「睡眠時間を確保しやすい」「通勤時間が短くなる」などのメリットがある反面、「上司が部下の働きを評価しにくい」「オンラインになってコミュニケーションが取りにくい」といったデメリットも生まれます。また1対1の面接も、直接の対面とオンラインでは、コミュニケーションの質が変わってくるでしょう。
特に私が興味を持ったのは従業員のメンタルヘルス、やる気、本人の満足度の問題です。その点に興味、関心があったので、研究に取り組みました。
――調査はどのように進めたのでしょうか。
種市教授 まず私のほうで、「どのような調査項目を用意するか」を設定し、対象を決めました。例えば、年齢層は「18歳から60歳までにするのか」「上限を65歳までにするのか」、エリアは「全国全部にするのか」「関東、関西といった都市圏にするのか」、そのほかにも「どの業種にするか」「男女比は」「正社員に限定するのか、契約社員や派遣も含むのか」などをある程度決めていきました。
こうして調査の方向性を設計した後に、クロス・マーケティングに依頼、調整していくという形になります。
その後、アンケート画面などを作っていただいたり、協力を依頼するモニターの属性を決めていったりしながら進めていきました。
――回答はどれくらいの期間で集まるのですか。
種市教授 調査を依頼して回答データが得られるまでは全体で2週間半程度ですね。最初の依頼から調査を実施するまでの準備に1週間から10日程度。その後アンケートが開始され、モニターが回答し始めて、求めている人数に達するまで2、3日。それで1000人程度の回収量がありますから、驚くほど早いです。
――データの品質という意味ではいかがでしたか?
種市教授 非常に納得できる品質で納品いただいています。特にありがたいのは、欠損値がないことです。通常「ある設問の回答を飛ばした」というような欠損値のある回答は1割程度出るものなのですが、クロス・マーケティングでは基本的に欠損値がないので、その後の分析がしやすいというメリットにつながっています。
星 クロス・マーケティングでは納品前に欠損値にあたるデータが含まれないように、極端な短時間回答はシステム上でカット、フリーアンサーの乱雑回答については1つ1つを目視チェックし、取り除いています。1サンプルでも異質なデータが含まれると分析結果に影響が出てしまいます。そのため弊社ではデータクリーニング専門の部署もあり、データ品質の確かさは弊社の強みの1つです。
――調査データからどのような分析ができたのでしょうか。
種市教授 想定通りだったところもあれば、意外な結果もありました。
調査では、リーダーと部下のコミュニケーション、情報提供とモチベーションに関するアンケートも採ったのですが、コロナ禍以前からコミュニケーションや情報提供がうまく行われていた場合は、テレワークに変わっても、部下のストレスが少なく、やる気を持って仕事を進んでいます。つまりテレワークによる悪影響は現れていなかったのです。
一方、コミュニケーションを苦手とするリーダーの場合は、対面とオンラインの差が大きく、テレワークに移ると部下がやる気を失いやすくなる可能性が示唆されました。
こうした発見が多く得られたこともあり、今回の調査データは私の研究にも大いに役立っています。
データの品質の高さはもちろん、モニター誘導やセルフアンケートツールでコストの調整もしやすい
――これまでを振り返って、クロス・マーケティングに対するご意見、ご評価をお聞かせください。
種市教授 心理学にとっては、分析に利用する調査データの品質は、研究の成果に大いに関わるので、非常に重要です。これまで何度も依頼しているので、クロス・マーケティングの調査の品質、進め方もわかってきています。今後もクロス・マーケティングに調査をお願いするのが一番安心であると感じていますので、他社に依頼することは考えていません。
――他の研究者の方からも関心を持たれることがあるのでしょうか。
種市教授 私の発表を見た研究者から「このデータはどうやって取ったのか」と質問されることがあります。特に産業分野のデータ収集は難しく、このように大規模な調査結果を取れる機会はそうそうありません。その研究者が困っているときはクロス・マーケティングを紹介しています。
学生、院生の場合には研究費あるわけではないので、予算上、制限があります。
星 ご予算を抑えるには弊社のモニターの方たちを別アンケートサービスで回答してもらう「モニター誘導」や弊社独自のセルフアンケートツールである「QiQUMO(キクモ)」などをおすすめしています。QiQUMOはアンケート画面作成や回収をユーザーの方が自分で操作して行うツールです。
つまり、アンケート画面の作成、データ収集は学生や院生の方ご自身でお好きなものをご用意していただき、調査対象となるモニターをクロス・マーケティングから誘導するわけです。このようにご予算に応じたサービスを提案させていただいております。
種市教授 定点観測的に同じアンケートを何度も繰り返すときなども、QiQUMOは便利です。例えば長く続くコロナ禍で、働く人のメンタルヘルスがどう変遷しているのかを定期的にリサーチし続けることもあります。その場合、1回あたりの費用はなるべく抑えたいわけですが、QiQUMOはそういう用途にも向いていますね。
鴇巣 種市先生からは、長年にわたってご指導いただき、本当にありがたく思っています。私たちクロス・マーケティングにとっても、学術調査の領域は重要な事業の一つです。研究のバックボーンから共有させていただくことで、調査のやり方、データ品質も向上しています。今後ともご指導ご鞭撻、ご助言いただければ幸いです。