マーケティングコラム

シリーズ 消費者エスノセントリズム(3)東南アジアにおける「消費者エスノセントリズム」

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第1回目・第2回目のコラムで語られたトランプ大統領の「アメリカファースト」政策は、対米貿易比率の高いASEAN(東南アジア諸国連合)においても他人事ではなく、今後の貿易政策に対しASEAN内で分断さえも起きつつあります。
第3回目のコラムでは、上記のような渦中にあるASEAN主要国における一般消費者の「自国第一主義」に対する意識を理解するにあたり、過去に行った自主調査結果をベースにご紹介したいと思います。
※前回のコラムはこちら⇒第1回目第2回目

当自主企画調査は2015年にタイトル「東南アジアにおける日本ブランドアセスメント調査」として、東南アジア5ヵ国(ベトナム、フィリピン、タイ、マレーシア、インドネシア)に日本を加えた6ヵ国にて、各国300サンプル(男女20代、30代、40代を各50サンプル)で実施し、第2回コラムでも紹介のあったShimp and Sharma(1987)のCETSCALEを用いて各国の「消費者エスノセントリズム」に関し分析を行いました。
分析結果を要約すると、対象6ヵ国において消費者エスノセントリズム「自国経済のために消費者が抱いている外国製品およびブランドに対するネガティブな反応」(朴 2012)が最も高いのはインドネシアであり、次いで、フィリピン、同率でタイとベトナム、そして日本、マレーシアという順でした。

インドネシアやフィリピンが上位に挙がる背景として、経済、政治的要因もありますが、同様に歴史や民族、宗教などが絡み合う社会的、文化的要因による影響も大きいと思われます。同様な視点で最もスコアの低いマレーシアを見てみると、マレー系(イスラム教)、中国系(仏教)、インド系(ヒンドゥー教)などの複数人種・宗教で構成される点などから、国という集団への帰属意識は相対的に低い可能性もうかがえます。
また、インドネシアやフィリピンと同様に島国という地理的特性を持ち単一民族である日本のスコアが相対的に低いことに関しては、神道(森羅万象)・仏教(多神教)が混ざった価値観や戦後の経済発展の中で、外国文化や商品を受け入れてきた背景なども影響していると思われます。

消費者エスノセントリズムは外国の製品やブランドの知覚態度や購入態度に影響を与える一方、それらの態度は商品カテゴリ別に違いも見られました。自国製品を強く好む商品カテゴリは食品・飲料や一般消費財が中心であり、マンガ・アニメなどのコンテンツや家電・自動車・二輪などの耐久消費財は外国製品(特に日本製品)を好む傾向が見られました。これらは自国に既存する産業、あるいは自国(食)文化を反映した産業などは自国のものを好み、自国に無い産業のものであれば影響を受けにくいということが考えられ、Nijssen and Douglas(2004)の調査結果と同様でした(朴 2012参照)。

このように東南アジアと一括りにいっても、各国の人種、宗教、経済力、文化なども違えば、上記のように外国製品に対する意識も異なります。したがって、東南アジアにおけるグローバル・マーケティング戦略を策定するためには、我が国と東南アジアの各国文化の同質性と異質性を理解するための調査が欠かせないでしょう。各国文化の同質性と異質性を理解することによって、現地の消費者を理解し、現地に最適なグローバル・マーケティング戦略を開発することができると考えられます。

今後の日本企業にとって東南アジア市場の位置付けは、ただ魅力的なマーケットというだけでなく、少子高齢化や経済成長の鈍化などから飽和状態にある国内マーケットの今後を考えると、必ず成功しなければいけない最重要マーケットと言えます。しかし、これまでの東南アジア市場では、化粧品や家電、ドラマなどのコンテンツで韓国が、パソコンや飲料で米国が先行しており、近年では家電などを中心に中国製品も流入してきている状況であり、日本企業が成功しているとは言い難い状況です。品質の良さを背景にした日本式のやり方を貫くだけではなく、かといって現地適応にこだわり過ぎることもなく、市場状況や現地消費者を理解しつつ、柔軟なマーケティング戦略を展開することがより重要になると思われます。

林 直紀
株式会社クロス・マーケティング
リサーチプランニング本部 グローバルグループ マネージャー

林 直紀

朴 正洙
駒澤大学 グローバル・メディア・スタディーズ学部 准教授

朴 正洙



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