マーケティングコラム
“気づき”マーケティング(17) シニアの『朝食はパン』は何故?
公開日:
東京辻中経営研究所
同社代表取締役マーケティングプロデューサー 株式会社ユーティル研究顧問
辻中 俊樹
つい最近、60人近くのシニア層の日記調査の結果を集中的にみる機会があった。70代を中心にして60代、80代の男女であり、3割近くは単身者である。いつみても発見と“気づき”が豊富にあるものだが、今回も様々な“気づき”に溢れてはいたのだがその中からいくつか。
シニアは保守的?
8月の頭の1週間が対象であり、とにかく猛暑の真っ際中ではあったがよく出かけているのには驚いた。加えて、食欲も落ちるだろう猛暑なのにほとんど三食が欠食なく食べられていた。これは間違いなく元気の源といっていい。また、水分補給にはとにかく気をつけておられるようで、外出時には家からお茶を持参したり、ペット飲料をかかさず携帯したりしている。その中でも、単に水分だけを補給していると塩分が逆に不足して低ナトリウム症になるといった情報が効いているのか、ナトリウム補給系の飲料がほんとに多く登場していたのである。具体的な商品としては「ソルティライチ」が圧倒的に登場、一日一本は消費しているようだった。
高齢になればあまり新しいことには挑戦しないし保守的だとはよく言われることだが、極めて新しい情報には敏感で、チャレンジャブルであることがわかる。80代のじいちゃん、ばあちゃんがそうなんですよ。
シニアの食生活の実態
私自身は長年日記を見ているし、シニア層の生活や食実態はよく観察している方なので、それほどの大きな驚きではなかったが、朝食に関しても全く欠食はなく、恐らく猛暑とは関係なくしっかりと食べられていた。そしてその大半がいわゆる『パン食』だったのである。私たちが『パン食』といっている類型は、パンがアイテムとして選択されているといった意味で、その対極は『ごはん食』である。『ごはん食』は、ごはんがアイテムとして選択されているという意味で、いわゆる和食ではない。もちろん、ごはんが選択されているという点でみそ汁が組み合されたりすることが多くはなるが、ハムエッグでもサラダでも組み合されることも多い。
『パン食』だからといってハムエッグが必ず組み合されている訳でもないし、残り物のきんぴらや煮物が一緒に登場することだってあるのだ。
さて、この『パン食』が朝食全体の約3/4を占めているのだ。1週間の7食がずっと『パン食』の人が多いのだが、週に2回くらいは『ごはん食』が混合したりすることもある。シニアだからといって、朝はごはんを中心にした和食っぽい食事を想定するのはとんだ誤解だといっていい。
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“時短”“簡便”という思い込み
様々な定量データをみていてもこの傾向はある程度は確証のあるものだといっていい。シニアの『朝食はパン食』ということは明確に認めておかなくてはならない実態なのである。この実態にどうしても異議のある方はしっかり調査し観察してみるべきだ。ただポイントはこの先にある。シニアが朝食をパン食にする理由が何かということである。「パンの方が手間もかからないし、準備も簡単だ」、「後片づけも手間取らないし、お皿洗いもなくてすみそうだ」、「他に手間のかかるおかずなどの準備もいらない」、そんな理由と背景でシニアはパン食を選択しているのだろうか。
体力も落ちてきている高齢者にとって、“時短”“簡便”というニーズに適合しているからパン食であるという思い込みが多いようだ。実際、このような選択肢しか用意されていない定量調査の結果などをみていると、どうもそんな理解が当たり前のように横行している。
結論から言うと、これは全くの嘘だし曲解だとしかいいようがない。本当に『パン食』が簡便という理由なのかどうかを読者の皆さんは一度考えてみていただけませんか。今回は結論を述べるのは留保しておきます。
ただしヒントになる事実をいくつか。今回見ていて明確にわかったことの一つ。シニア層の朝食は決して忙しくはないということ。もちろん早起きの傾向はあるのだが、どうやら8時頃を中心に前後1時間くらいの幅のところが朝食タイム、30分から1時間は時間をかけている。テレビをみたり音楽を聴いたりしながらの時間だ。
もう一つ、パン食とはいいながらそこに登場してくるアイテムが多彩であること。まずコーヒーをドリップしてゆっくり飲みながらヨーグルトを食べる。それからおもむろに卵料理を作ってトーストを食べる。季節の野菜を必ず食べるのでミニサラダにしてみたり、温野菜にして食べたりすることもある。そして当然季節のフルーツも食べる。今回のような8月の頭だから、すいか、そして桃が必ず登場していた。それから食べ残していたバームクーヘンを少しつまんでもう一杯コーヒーを飲む。
これがシニアの『朝食はパン食』の実態で、季節やその日の彩りを感じる。どこが“時短”“簡便”なのだろうか。
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