マーケティングコラム
商品(ブランド)価値のコミュニケーション
公開日:
株式会社ユーティル取締役会長
“気づき”マーケティング研究所所長
宇田川 信雄
この20年、いろいろな領域でブランド管理論が取り沙汰されてきましたが、その引き金となったのが多くの製品領域で商品がコモディティ化(製品性能、品質や技術水準、そして見え方に格差がなくなる)してきたことではないでしょうか。特に日本では、少子高齢化という言葉に代表される、人口や世帯構造の変化に伴う消費構造の変化や長く続いたデフレ環境下で市場の成熟化が進んだことも背景にあり、商品の差別化戦略が厳しさを増してきたように思われます。こういった環境では誰しもが強いブランドを望むのだと思います。
ブランドパフォーマンスに対する消費者の目
安倍自民党政権の復活で失われた20年の経済環境に改善の兆しはあるものの、実体経済の回復はいまだ道半ばといったところでしょうか?!この様な環境の中で驚くべき出来事が日本や世界を代表する超優良ブランド(ソニー、資生堂、ホンダ、、、)の中で起きているようです。それらの多くは世界的な経済や市場の環境変化に影響を受けたものですが、日本市場においても突然の業績の変動が多くの企業で起こりえないとは言えません。強いブランドにも厳しい環境が生まれているのです。それでは、強いブランドとはどういったブランドのことなのでしょうか?優良企業の商品、財務パフォーマンスの良さ、業界ナンバーワン、、、いろいろな見方があるでしょうが、これらの基準を揺るがす出来事も起こり始めているようです。マクドナルドの昨年来の出来事や、この20年間に起きた食品企業の品質管理問題に起因する業績の悪化は製品への信頼や企業の対応に対する消費者のアンチテーゼであることは間違いないのですが、これらの出来事が先ほど触れた、「製品のコモディティ化」にも関係していることを決して忘れてはいけないと考えます。コモディティ化された市場の中でブランドパフォーマンスに対する消費者の目は厳しさを増し、たとえ製品に高い評価を得られたブランドでも一度不祥事を起こすと取り返しのつかない出来事になりうるということを経験させてくれました。
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ブランド価値の創造に大切な一つの要素
そこで今回は、私が携わってきたブランド管理経験からブランド価値の創造に大切な一つの要素を解説します。この要素を十分に理解、そして日頃のブランド管理に注力することで、トラブルに巻き込まれても最小の被害で済むような基礎の強固なブランドに育成し、ライフサイクルの長いブランドの形成が可能となると信じています。今日のキーワードは、「Intangible Benefit:無形の利点・恩恵・価値」です。このマーケティング用語は商品の総合的な価値を消費者に伝達/理解してもらうときに使用しますが、特に、広告宣伝や販促活動におけるコミュニケーション開発で非常に重要な役割を果たします。Sustainable Competitive Advantage(持続的な競合優位性)の確立をめざし、優良な商品に育てる際に特に必要となる領域です。
広告宣伝やセールスプロモーションなどのマーケティング活動を行う際に、対象となる製品や商品には必ず分かり(伝わり)易い製品属性や商品/ブランドイメージが必要となります。特に製品属性(消費者が理性的に判断出来る)は、「美味しい」、「よく効く」、「サイズがちょうどよい」、「値段が手ごろ」、「どこでも買える」、「燃費効率が良い」、「海外でもよく見かける商品」など、その商品や製品を使えば特徴が実際に判断、そして、確認できるものです。これらを総称して“Tangible Benefit:有形で具体的な利点”と言い換えることができます。
そして、これらが、先ほど触れた、「多くの製品領域で製品がコモディティ化している」ことの大きな背景の一つとなっているのです。各企業の製品開発力が向上し、競合企業が先行して市場化した商品とほぼ同じスペック、品質、そして、性能の商品を短期間で開発、商品化できる技術を備えているのです。これによって、消費者はさまざまな利益を得ることができる反面、メーカー側は、特に営業管理や財務管理面で多くの難しさと向かい合うことになるのです。
競合優位性の確立に絶対的な付加価値
そこで、商品パフォーマンス(Tangible Benefit)の特性と共に、競合商品には真似の出来ない商品イメージやブランドの無形の価値(Intangible Benefit※)をコミュニケーションすることが必要になってくるのです。これこそが、競合優位性の確立に絶対的な付加価値を与えてくれるものなのです。それでは、どの様な要素があるのでしょうか?例えば、(※実際には、普段、ブランドイメージと称されて表現されているモノとは若干深みが異なる) 伝統がある/古い歴史を持っている
グローバル企業の商品である(海外でも評判が高いらしい)
商品発祥の地にアスピレーションを感じる(一度行ってみたい)
この商品を知っている、或いは、使っている人が素敵
この商品を持っていると誇らしく思えるので、他人に見せたくなる
この商品を使っていると、人から羨ましがられる/褒められる
この商品の製造技術は他社に真似の出来ないものらしい
この商品ならではのロゴやデザイン(パッケージ)が好き
有名で大きな会社の商品(だから安心できる)
子供が喜ぶ(ので安心できる)
皆の間(友人や知人)で評判が良い(ので信頼できる)
本格的で本物の臭い(香り)がする
多くの人が使っている商品
他のブランドより高級な/ランクが上の感じがする
広告宣伝や販促をよく見かけるのでよく売れていると感じる
これらの他にも商品分野に応じて特有の領域や価値観があると思います。これらの項目の中には、消費者が第三者に商品の事を伝える時に言葉では十分に表現(説明)してくれないものが多くありますが、定性調査(グルイン/デプスインタビュー/n=1リサーチ)などで消費者インサイトをジックリと深堀していくと分かってくる、非常に重要な要素です。これらの要素を十分に考慮しながらブランド育成をしていくことで、競合商品に侵されることのないユニークな差別化の出来た、そして、製品パフォーマンスに何らかのトラブルが起きた時でも被害を最小限に食い止めてくれる手助けとなってくれるのです。
消費者が特定の商品(ブランド)を愛用し続けてくれることはマーケティング管理においてとても重要で有難い事です。多くの商品カテゴリーで商品がコモディティ化していく中で競合商品との差別化を進めるうえで決して忘れてはいけない大切な要素だと思います。
話が長くなるので今回はここまでとしますが、最後に、少しばかり逆の話にはなりますがユニークな例題を見つけました。それは、現在NHKの朝ドラで放映中の「マッサン」で登場したシーンに見られました。日本初のウィスキー開発で、マッサン(ニッカ)も鴨居商店(寿屋:サントリー)の社長も商品イメージやIntangible Benefit(無形の価値)として「スコットランドの製法そのままに作られた、日本で初めての本物のウィスキー」を掲げたいという思いは同じでした。ところが、製品特性(Tangible Benefit)に関して考え方が大きく分かれたことで二人が袂を分かち、その後ライバルの関係に発展していったのです。それが;
マッサン(ニッカ): スコットランドの製法にこだわり、ピート(泥炭)臭の強い“くせのあるウィスキー”
鴨居商店(寿屋): 日本人向けに味を変えた、ピート(泥炭)臭の弱い“飲みやすいウィスキー”
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この話は、ウィスキーが世の中に広まっていない時代背景の中で商品開発を進める上で、より消費者に理解しやすいTangible Benefitに明確な違いを求めたゆえに起こった事だと思います。ニッカとサントリーの関係については、現在の状況からどちらがブランドの在り方として正しいのかの判断は避けますが、非常に学ぶことの多い歴史上の事実だと思います。\t
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コモディティ化が進み競争が激しくなる一方の市場環境で、商品特性(競合優位性)を消費者に訴求し、ロイヤルカスタマー育成のために様々なマーケティング活動をしている皆さんに、ぜひ今一度振り返って自分の商品のTangible ,そして、Intangible Benefitについて考えていただけたら幸いです。
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