マーケティングコラム
ペルソナマーケティングとは?メリットや設定方法を解説
公開日:
(株)アイリスプランナー代表取締役
外資系ブランドで27年間のPR・マーケティングの経験からクリニック・起業家250社以上の経営戦略・マーケティング支援。
魅力を伝え、ぜひと選ばれるブランディングをコーチ
マーケティングの世界では、詳細な設定をした架空の顧客プロファイルをペルソナといいます。氏名や年齢だけではなく、ライフスタイルや価値観など多様なデータを重層的に使い、あたかも現実に存在するような人物像を設定することで、範疇に含まれる顧客に向けた商品開発や改善、プロモーションなどを行うために設定されます。しかし、その設定方法に関しては留意すべき事項があります。設定するときは、これらをしっかり把握して取り組むことが肝要です。今回は、ペルソナマーケティングのメリットとペルソナの設定手順だけでなく、成功事例もご紹介します。
奥野 美代子
ペルソナについて
「ペルソナ」は、ラテン語の俳優の被り物(仮面)が語源です。マーケティングでは「理想の顧客」のイメージで使われています。ペルソナマーケティングとは
ペルソナマーケティングとは、ユーザー像としてペルソナを具体的に描き、ユーザーの思考や行動傾向を分析し、施策を最適化するマーケティング手法です。ペルソナは、マーケティングの世界においては製品を購入したりサービスを利用したりする架空のユーザー像を指します。架空の氏名、年齢、性別という基本データ、家族構成、居住地、勤務先という社会の中での位置づけ、経済力、興味、将来の目標といった経済行動に結びつく項目などを決定して、一人のユーザー像を創造し、モデルやCGで人物写真を作ることもあります。
ターゲットと一緒にして考えられがちですが、ペルソナが詳細なユーザー像であることに対し、ターゲットは「20代女性」など、ペルソナよりも大きなくくりのユーザー層になります。
ペルソナはどんな時に設定する?
ペルソナ設定は、より訴求力の高い告知戦略を導き出したいときに効果的です。例えば、女性用化粧品の発売情報を配信する場合、ターゲットを「女性」という性別だけにとどめると、どのような内容をどの程度出せば最適の効果が得られるのか判断がつかず、告知戦略が不明確になります。
しかし、「女性、32歳、出版社勤務、通勤に1時間半、効率的な生活をしたいと思っている」といったペルソナを設定すると、「年齢的にスキンケアが気がかりだろう」「通勤に時間がかかり、朝の身支度を短時間で済ませたいと思われるため、『お手入れが簡単』という新商品のPRポイントを強調しよう」といった訴求力が期待できる情報が具体的になり、かつ整理しやすくなります。
また、新商品や新サービスがターゲットになかなか受け入れてもらえないことから、その原因を販売側ではなく消費者側に立って検証するという時にも、ペルソナを設定することで効果が期待されます。
具体的には「年齢、仕事、休日の過ごし方」などを細かく設定した架空人物の視点に立って、買いたい側の欲求がどのようなものであるかを考え、自社商品やサービスの評価を分析します。
商品やサービスの評価を会社の目線ではなく消費者の視点で行うことによって、「なぜ受け入れてもらえないのか」という原因解明だけでなく、「どう改善すれば購買意欲を醸成することが可能なのか」という練り直し戦略も立てられる可能性があります。
ペルソナマーケティングのメリット
ペルソナを設定するメリットは以下の通りです。それぞれ詳しく解説していきます。顧客の細かなニーズをイメージできる
ペルソナを設定する背景として、多様な価値観が生まれていることがあげられます。近年では、ターゲットが細分化される傾向がありますが、それだけでは心理的な側面まではカバーできません。ペルソナの生活習慣や毎日の行動まで具体的に設定することで、自社の商品・サービスを「いつ」「どんなシーンで」「どのように」利用したいと思うのか、ユーザーの行動心理を考えることができます。
さらに、ペルソナに自社の商品・サービスを知ってもらうためのアプローチ方法や、自社の商品に求めるベネフィットを具体的に想定することも可能です。
マーケテイング・サービスの方向性が決まる
ペルソナを設定することで、ペルソナが商品やサービスに求めるものは何か、何を期待しているのかを具体的に描き出すことができるため、マーケティングの方向性が定まりやすくなります。まず、ペルソナはこの商品やサービスをどんな時にどんな理由で使いたいのか、既存の似た商品・サービスに足りないと感じている部分は何かを考え、さらにペルソナがこの商品・サービスを見つけた時・使っている時、どんなポイントがあれば笑顔になるのかと想像してみましょう。
このとき、ペルソナが商品を選ぶ理由を想定し、それをどんな言葉で周りの人に伝えるか、具体的に言葉にしてみると、他社の商品・サービスとの差別化のポイントがクリアになります。これをもとに、ペルソナと同じニーズを持つ顧客層へアプローチするためのマーケティングの方向性を決めることができます。
社内で意識の統一ができる
ペルソナを決める一番のメリットは、社内で顧客像のイメージを統一できることです。具体的にターゲットを決めても、社内の各部署で思い浮かべる顧客像が違っていることは珍しくありません。商品企画やマーケティング担当はもちろん、販売店スタッフも同じペルソナ像を持つことで、社内の関係者間で意識のズレが少なくなります。社内で共有する際に、ペルソナに名前をつけたり、イメージ写真を使ったりすると、より具体的にペルソナがイメージできるでしょう。
ペルソナの価値観や心理面まで共有することで、マーケティング企画やパッケージデザインを決める時も、「〇〇さん(ペルソナの名前)ならそれ喜びそう」「〇〇さんにはちょっとイメージに合わない」などと具体的に検討することができるので、商品企画から販売までブレがなくなります。
ペルソナの設定手順
実際にペルソナを設定する際に、守るべき手順があります。ペルソナマーケティングを成功させるためにも、手順についてしっかり把握しておきましょう。1. 自社分析を行う
ペルソナ設定では、顧客視点で自社の強みや魅力を再確認するために、まずは自社分析から始めます。ペルソナを設定していない場合、「いいものなら売れる」と自社視点で商品・サービスを開発しがちですが、ペルソナ設定にあたって、自社の商品・サービスがどんな顧客に価値があるのかを考えてみなければなりません。同時に、顧客と競合他社についてもリサーチします。
自社の強みや競合との比較、市場でのポジショニングを知るために使われるのが3C分析と呼ばれる手法です。これらを「Customer:市場・顧客」「Competitor:競合」「Company:自社」の視点から分析します。顧客の購買行動に影響を与える4つの要素を分析する「4C分析」も参考になるので、必要に応じて取り入れましょう。
2. ペルソナの情報を集める
次に、集客したいペルソナに関する情報を集めます。そのために、自社のユーザー像を明確にする必要があるので、顧客データやWeb解析、インタビューなどから、自社の既存顧客のデータを分析してください。自社のユーザー像の情報源が多いほど、ペルソナを具体的に設定できます。最近の市場の変化やトレンドを知るため、新たにアンケートを実施したり、公表されている統計データを活用したりするのもいいでしょう。
3. 既存顧客の調査
自社の顧客データをまとめたら、想定する事業のターゲットとなる顧客データを集めて分析します。直近半年以内のアクティブユーザーの属性や購買データ、アクセス履歴に加えて、SNSのコメントやイベント参加者のアンケートも貴重な情報源です。商品カテゴリー別にグループ分けすると、ユーザー属性の違いを把握するのに役立ちます。4. インタビュー・アンケートの実施
自社の商品・サービスの購入者および問い合わせ者を対象にしたアンケートやグループインタビューを行い、ユーザーの生の声を集めます。アンケートの目的はリアルなペルソナ像を探るためなので、基本的な属性情報に加えて、自由筆記欄を多く設け、購入のきっかけや理由、満足・不満足の点などを記載してもらうといいでしょう。5. 自社サイトのアクセス解析
自社で運営するWebメディアがあれば、アクセスしたユーザーの行動を調査しましょう。流入経路、どのページにアクセスしたのか、購買もしくは離脱までの詳しい情報を把握できます。また、SNSを活用すれば、コメントやユーザー間の会話から生の声を聞くことができます。SNSの中でも、インスタグラムのインサイト分析は、より具体的なユーザー像を知るのに役立ちます。
6. ペルソナを設定する
集めた情報をもとにペルソナを設定します。具体的な項目は以下の通りです。・基本情報:顔写真、年齢、性別、居住地、出身地、学歴、職歴、家族構成
・仕事の情報:業界、業種、職種、役職、年収
・心理特性:趣味嗜好、性格、価値観
・行動特性:ライフスタイル、大事にしていること、休日の過ごし方、新しいものの取り入れ方
・情報源:新聞・雑誌・ネットマガジン、インターネットの活用、SNS
ペルソナの設定にあたっては、できるだけ調査から得た事実データをもとに一人の人物像を作り上げるのがポイントです。先入観や思い込みを外して、データから構築することを意識しましょう。
これらの情報をもとに、生き生きとした人物像としてストーリーを描きます。「こんな人、いるよね」と言わせるようなリアル感が大事です。
ペルソナを設定する際の注意点
ペルソナ設定はその後のプロジェクトの成否の要です。実際に設定する際には、以下の注意点をおさえることを心がけてください。注意点1:大人数で多くの意見を元に考える
ペルソナ設定で特に重要なのは、少人数で作業をしないことです。重要なユーザー像を作る際には、プロジェクトのメンバー全員で一緒に作り上げていく作業が大切です。チームにはITデザイナーもいれば、セールス担当もいるため、業務が異なる場合は求めるユーザー像に違いが生じることもあります。その中で、チームメンバーが納得できるよう、データをもとに論議を尽くして作り上げ、最終的なユーザー像がどういうものであるかという認識を共有化することが大切です。
この工程を放置してプロジェクトを始めた場合、認識にズレが生じ、スケジュールの遅れやコスト増の恐れが出てくる可能性があるため、入念に行うようにしましょう。
注意点2:合理的な根拠を持つ
ペルソナは極端にユーザー像を絞り込むため、高い精度での設定が必要です。推論や仮定を合理的な根拠なしで重ねると、精度が落ちる恐れがあります。最終的には実在しそうな人物像を設定することが重要なので、現実とかけ離れてはペルソナ設定の意味がなくなります。高い精度でペルソナ設定をするためには、ある程度予算をかけてリサーチ、アンケート、インタビューなどを行い、回答をもとに人物像を構築するようにしましょう。
注意点3:新規顧客の目線に立つ
自社商品を売りたいという欲を強く出さず、フラットなスタンスでユーザー像を決定していくことは、ペルソナ設定において非常に大切です。「自社のサービスをよく利用する人は、サービスに対してこのような価値判断をする人物である」というように、自社のサービスの優位性を前提にした逆算で作ってしまうと、実在する消費者像の実態とかけ離れてしまう懸念があります。ただし、既存顧客が持つ特性に引きずられないよう、注意することも必要です。
既存顧客と理想のユーザーを重ねてしまうと、既存ユーザーの囲い込み効果はありますが、新規ユーザーの開拓には有効に機能しない場合があるからです。新規取り込みができなければ、ビジネス拡大に支障となります。
注意点4:一度決めたペルソナでも再考する
ある商品に対する理想的なペルソナを設定したとしても、現実の人間の価値観や社会環境は日々変化します。ペルソナの検証や修正を怠ると、現実と乖離したユーザー像になってしまう恐れもあるため、決定後も再考する必要があります。例えば、かつてはマイカーの選択基準といえば、最高馬力や最高速度が重要でした。しかし、ユーザーの意識が変化し、最高馬力や最高速度よりも燃費重視、環境に優しい設計への評価であるか、家族が楽しめる多目的車両であるかなど、マイカーを選択する際の優先度が変わりました。したがって、価値観の変化に柔軟に対応できる設定方法を選択することが重要になります。
ある時点ではベストのユーザー像であっても、このままでよいのかという疑いを持ち続け、ギャップが生じていれば修正したり、根本的にやり直したりする決断が求められます。
ペルソナマーケティングの成功事例
ペルソナマーケティングを実際に活用し、成功した事例をいくつか紹介します。カルビー
一般的に、お菓子は特定の層を狙わず万人受けする商品企画でヒットするといわれていた中、自社の顧客データからお菓子を買わない顧客層とされた「10代から20〜30代の独身女性」を狙って開発し、ペルソナマーケティングに成功したのがカルビーの「ジャガビー」です。「ジャガビー」では、ペルソナを「27歳独身女性、文京区在住、ヨガと水泳に凝っている…」と設定し、都会でひとり暮らしをする女性だけをターゲットとして、パッケージデザイン、広告展開、コンビニ限定の販売をした結果、想定する女性客の獲得に成功しました。
参考:日経クロステック「自己流『ペルソナ』で大ヒット商品生み出す」
https://xtech.nikkei.com/it/article/JIREI/20070914/282071/
Soup Stock Tokyo
食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo(スープストック東京)」は、創業者が作った「スープのある一日」というストーリー仕立ての企画書から始まり、女性がスープを飲んでホッとしているシーンのイメージをもとに「秋野つゆ、37歳都心で働くキャリアウーマン、シンプルでセンスの良いものを求め、装飾性よりも機能性を重視。プールではいきなりクロールで泳ぐ」というペルソナを設定しました。彼女が満足するかどうかを判断基準に、商品開発、店舗デザイン、出店地域などの意思決定をしていった結果、同じような価値観を持つ女性たちの心をつかみ、創業10年間で店舗数52店舗と大成功することができました。
参考:定期購入EC通信「Soup Stock Tokyoの『秋野つゆ』の成功事例からみるペルソナ設定について」
https://whattoeatbook.com/persona-3/
まとめ
ペルソナを設定したマーケティングは、日々多様化する個人の消費動向への対応策として有効です。しかし、設定を誤れば期待するような効果が得られないケースも生じます。ペルソナは分析に基づき作り出した想定人物像なので、分析の漏れや市場の変化によって、実際の顧客とのズレが生じることがあります。そうならないよう、現実の顧客の属性や消費動向を確認し、ペルソナの見直しを行いながら、柔軟に運用していくことが大事です。
関連ページ