マーケティングコラム

“気づき”マーケティング(6) <実家>は気づきの宝箱!

Facebook X
東京辻中経営研究所
同社代表取締役マーケティングプロデューサー 株式会社ユーティル研究顧問

辻中 俊樹

今回はさらにエスノグラフィーのことを続けてみる。前回はたとえばコストコのような店頭を“ある目的”を持って観察した場合から、簡単な発見や気づきをどのように生みだしていくかについて述べた。
どんな人達が、どんなシチュエーションで買い物をしたりしているのかという目的を持って観察を行い、その目的に沿って気づきを得るという流れである。ところが実はエスノグラフィーの極意の一つが、この目的以外の発見をすることこそが重要なのである。

目的以外の発見をすることこそが重要

 前回の話でいえば「なんだこの100個も入ったカラーボールって?」というようなことである。目的からは少し外れていることだが、なんだか気になる事を見つけておくことだ。私たちはこれを“流し”のエスノグラフィーと呼んだりする。直接狙っている犯行先ではない所で、ちょいと空き巣に入いったりする“流し”の犯行という感じだ。ここが、本当は次につながるエスノグラフィーの妙味なのである。まあ、空き巣の犯行とは違うのですが・・・・(笑)。

 ある目的を持って、ご自宅を訪ねて観察をするといったことがよくある。とりわけ、シニア世代の暮らし方は、この訪問エスノグラフィー抜きにはほとんど何もわからないといった方がいい。たとえばシニア層の食べることの本当の実態を探るにはこの訪問エスノは不可欠といってもいい。 最近もこの目的でご自宅を訪ねて、どんな食器類を持っているのだろうかを観察することを繰り返していた。そんな時に“流し”の眼にはもっとおもしろい発見があるものである。

カラーボール再び

 実は前回述べたカラーボールがあったのである。60代後半のご夫婦二人暮らしの家にカラーボールである。ちゃんと袋にしまわれていたのだが、「よくお孫さんがこられるのですか」と聞いてしまった。当然そうに決まっている。老夫婦二人がこんなの使う訳がない。「ビニールプールか何かに?」。今はビニールプールはしまっているが、「バスタブに入れて遊んでいますよ」ということであった。


20141003_02


 実家、つまりバァバのお家は孫たちにとっては最高の遊び場、プレイルームなのである。バスタブに入れて遊んでいるということは、バスルームは安全でなくてはならないだろう・・・・とかいろんなことを感じ、気づくことができる。ついでに奥の畳の部屋を覗いてみると、昔なつかしいプラレールがきちんと片づけておいてあった。それ以外には大型のおもちゃたくさん。こんな大きなおもちゃ、娘たちの狭いマンションでは使えるはずがないものね。実家は孫たちにとっての宝箱なのである。

 ダイニングテーブルをみると、テーブルの角にはちゃんと防護用のプロテクターがつけてある。孫たちが頭をぶつけないようにするためのクッションだ。今や百均(ヒャッキン)に行けば簡単に手に入いるシロモノである。「娘に頼まれてつけたんですよ」ということらしいが、実はこれは孫の頭を守るためのものだけではないのだ。

本当の暮らし方の中にある欲求

 年をとってくると、特に介護が必要なほどのハンディキャップを抱えている訳ではないが、どうも動きのキレが悪くなるのだ。若い時には問題にならなかったようなことで、室内を動いているだけなのにいろいろな角に身体をぶつけることがあるそうだ。孫のためではあるが、実は自分たちのためになっているということだ。老夫婦だけならば、恐らくこのクッションをテーブルの角につけることはなかっただろう。孫を入れた三世代の行動を考えると、これがつけられることになる。手短なバリアフリー対応なのである。

 カラーボール、ビニールプール、バスタブ、プラレール、大きなおもちゃ、テーブル角のクッション・・・、これらをスナップショットしてながめていると、全く新しい発見と気づきが湧いてくるものである。実家は今や三世代の宝箱なのである。そして、私たちにとっては気づきの宝箱である。バリアフリー、リフォーム・・・、本当の暮らし方の中にある欲求は、こんなところからみつけていかなくてはならない。

 もう一つ、“流し”のエスノグラファーの目に写ったものがあった。リビングルームのはじっこにさりげなく置かれていた草花。野の花をとってきて投げこむようにいけられていたものだ。えのころ草(エノコログサ)とようしゅやまごぼう(ヨウシュヤマゴボウ)。「この季節になるとこんな草をみると子供のころを思い出しますよねえ」とおっしゃっていたが、実にセンスが光っている。このように季節を感じさせるセンスと、同じ空間のダイニングテーブルの角につけられている防護クッション。これが今の暮らし方を象徴している気がする。


20141003_03


 こんな発見と気づきにあふれているからこそ、エスノグラフィーは楽しいのだ。

関連コラム

マーケティングコラム
あの世代の呼び方は何?各世代へのマーケティング方法もご紹介
「団塊の世代」や「Z世代」など、生まれた世代によってさまざまな名称が付けられています。マーケティング担当者であれば、それぞれの世代の名称と特徴を把握し、世代ごとにあわせたマーケティングを実施しましょう。 本記事では、それぞれの世代の呼び方について説明し、各世代に合ったマーケティング方法を解説します。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
マーケティングコラム
独身の人が増えすぎている?未婚の割合や増加の理由を解説
結婚して家庭をもつことが当たり前だった時代からは一変し、生涯を独身で過ごす人が増えています。なぜ未婚率が高くなっているのでしょうか。今回は、未婚の割合や未婚の人が増えている理由について解説します。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
マーケティングコラム
中学生のスマホ使用時間の理想はどれくらい?スマホが及ぼす影響も紹介
近年、中学生からスマホを持たせる家庭が多いなか、使用時間の長さが問題視されているケースが多く見受けられます。スマホの使用時間が長いと学力に影響するといわれることもあり、子どもを持つ親からすると、「適切な使用時間の範囲で使わせたい」と考える方もいるようです。 今回は、中学生がスマホを使う時間の理想をはじめ、使用時間が長いとどのような影響を及ぼすのかを解説します。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
マーケティングコラム
α世代の次の世代とは?β世代の特徴や取り巻く環境を予測しよう
今注目されているZ世代の次がα世代と呼ばれており、さらにその次がβ世代にあたります。Z世代以降は、デジタルネイティブであることが特徴ですが、マーケティング担当者や商品の開発担当者であれば、β世代とはどのような世代なのか、今と取り巻く環境がどのように変化しているのか気になるのではないでしょうか。今回は、β世代の特徴やβ世代を取り巻く環境について解説します。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
マーケティングコラム
推し活の経済効果はどれくらい?市場規模と推し活マーケティングのメリットとは
若年層に適確なアプローチができないなど、従来のマーケティング手法に限界を感じてはいませんか。商品やサービスのターゲットとして、「推し活に力を入れる消費者」に絞る方法もあります。 推し活とは、推し(お気に入りのキャラやアイドルなど)を応援する活動のことです。今回は、推し活の経済効果や企業が推し活マーケティングに力を入れるメリットについて紹介します。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
マーケティングコラム
犬派か猫派か?どちらが人気?性格や相性を徹底解剖!
ペットを飼っている人や、これから飼いたいと考えている人にとって気になるのが「犬と猫はどちらが人気なのか?」という点ではないでしょうか。また、犬派と猫派それぞれの性格や相性などについて気になる人も多いかと思います。本記事では、犬派と猫派どちらが多いのか、また性格や相性はどうかを徹底解剖します。弊社で行ったアンケート結果もふまえて解説していきますので、ぜひ最後までご覧ください。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
マーケティングコラム
団塊の世代はいついなくなる?高齢化で生じる問題と対策を紹介
団塊の世代は、全人口に占める割合の大きさから、社会に多大なる影響を与えてきました。高齢化の話題に接して、団塊の世代の存在感に驚いた方もいるのではないでしょうか。今回は、団塊の世代の高齢化問題と企業の対策について紹介します。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
デジタルマーケティングコラム
話題のBeRealはなぜ人気があるのか?特徴や注意点、ビジネス利用も解説
「BeReal」は、通知から2分以内に投稿しないと友人の投稿を見られない、写真の編集機能がないなどの特性があり、若者の間で人気のSNSです。 今回は、BeRealがなぜ人気なのか、主な特徴と支持される理由を紹介します。ビジネス展開のメリットもあわせて解説しているので、マーケティングをお考えの方は参考にしてください。
# デジタルマーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
デジタルマーケティングコラム
デジタルデトックスは効果なし?得られる効果と実践方法を解説
デジタルデトックスとは、一定期間スマートフォンやPCなどのデジタルツールから離れることで、ストレスを軽減する取り組みのことです。デジタルツールに囲まれて生活する方が多い現代社会のなかでは、ストレスや心身の疲れを緩和する効果が期待できるといわれています。 しかし、「デジタルデトックスには効果がない」といった意見も見受けられます。今回は、デジタルデトックスには効果がないといわれてしまう理由や、より効果的にデジタルツールと距離を置く方法について解説します。
# デジタルマーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
ご相談・お見積もり依頼
【法人・個人様】
フリーダイヤルでのお問い合わせ
0120-198-022
※ モニター様からのお電話でのお問い合わせは受け付けておりません。
資料ダウンロード