マーケティングコラム

“気づき”マーケティング(3) 「手作りコロッケ」が「我が家の味」

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東京辻中経営研究所
同社代表取締役マーケティングプロデューサー 株式会社ユーティル研究顧問

辻中 俊樹

「我が家の味」、「母の味」って何だろうか?皆さんにとってはどんなものが想像されることだろうか?あるいは、現在の30、40代の人たちにとっては、それはどのようなものなのかを想像してみてください。

「我が家の味」、「母の味」って何だろう?

母の作った煮物の味?それとも味噌汁の味?…。これはまず100%誤解と曲解の賜物だ。素直に生活者の実態を見つめ、その声に耳を傾けていればこんなことは単なる想像の産物に過ぎないことがハッキリする。実は生活者自身もあまり気づいておらず、何が「我が家の味」なのかが定かではないともいえる。

30、40代の生活者が、例えば「実家に帰った時に食べたいメニューは?」と聞かれれば何を答えるだろうか。これが「我が家の味」であり「母の味」の正体なのだ。家庭的なメニューでいえば、例えば「手作りのコロッケ」や「手作り餃子」である。

作る側はどう考えているのか

「母の味」を生み出し伝承させてきた側のシニアのバァバに聞くと、こんなメニューが上がってくるのだ。「今度来るときは何が食べたいって聞くと、娘たちは手作りコロッケがいいって言うんですよ」。一緒に来る孫たちもバァバの手作りコロッケは大好きなのである。「娘たちが子供のころはいつも60ヶ、70ヶは揚げてましたよ」とうれしそうなのだ。

日常の食生活ではバァバはもう手作りコロッケを作ることはない。ましてや娘たちは自分の家の普段の料理として手作りコロッケを作ることはまずない。こんな手間のかかることはやらないし、揚げ物は子供が小さいうちは危ないのでやりたくないのだ。

ということで、実家に三世代が揃った時に「手作りコロッケ」が登場することになる。やっぱり60ヶも70ヶも揚げられるのだ。孫たちはじゃがいもをつぶしたり、パン粉をつけたりなどに参加するのが楽しみである。ママたちは自分の家では子供が料理に参加するのはあまり歓迎していない。時間が余計にかかるし、後片付けが大変だし、そんなことが楽しくできる程キッチンは広くない。

その点、実家のキッチンは広いし、多少子供たちが散らかそうがバァバは楽しそうなのだから、ママにはありがたいのだ。同じような「我が家の味」の一つが手作り餃子だ。これは作るプロセスへの参加性がさらに増し、それぞれの家庭でレシピも異なっており、オリジナリティも高いのだ。先日、朝日新聞のコラムに漫画家の伊藤理佐が「我が家では父親が手作り餃子を100個食べていた」ということを書いていた。彼女は40歳を過ぎて出産したわが子の子育て奮戦記を『おかあさんの扉』という4コマ漫画で連載して人気がある。とにかくリアリティがある。

彼女の実家では、みんなで手作り餃子を作っていたそうで、その際には父親が100個は食べていたという伝説があったという話なのだ。やはりこれが「我が家の味」ということになる。そして、実家に帰った時には再現されるということになるのだろう。

シニア世代の日常の食シーンには登場しないし、子供と孫の暮らす30、40代の家庭でも日常食のメニューとして作られることのないメニュー。「手作りコロッケ」や「手作り餃子」こそが「我が家の味」、「母の味」なのだ。このメニューがバァバ、ママたち、孫の三世代が実家に集まった時にみんなの楽しみとなる。考えてみれば、今のシニア世代の母親たちは、子育てをしているときに、なんと手の込んだ時間のかかる料理を作っていたことだろう。



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現在の日常食は時短と簡便

それと比べれば、現在日常食として食べているものはすべて“時短”で“簡便”になっているのは当たり前だ。時短とか簡便とか言っているのは、いったい何に対して時短なのかをかなり詳細に見ておく必要があるのだ。また、三世代が実家に揃った時に作られることになる「我が家の味」なのだが、このシーンはそれほど特別なことではないのだ。

三世代が実家に集まる頻度は相当高いものである。それは実家が近接地にあり、とりわけ「妻方近接別居」が主流になっているので、母系の三世代はしょっちゅう顔をあわせているのだ。今子育てをしているママは、自分の母親のいる実家の近接地に別居しており、どうやら年に50回以上は実家に行っているというデータもあるのだ。

母系の三世代が近接連鎖しているという現代社会を象徴するように、「我が家の味」も変わっていくのだ。というよりも、そもそもそれ以前の家庭に「我が家の味」ってあったのだろうか。リサーチするにあたって、いろいろな視点を持っておくべきだと、改めて考えさせられるのだ。

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