マーケティングコラム
料理に対する意識が変わってきた|キーワードは「タイパ」
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新型コロナウイルスによる飲食店の時短営業を契機とした外食機会の減少、そして生活において効率化を求める「タイパ」や「時短」という考え方の浸透により、近年消費者の料理に対する意識や考え方には、大きな変化が表れています。今回は、クロス・マーケティングが30年以上にわたり実施している独自調査「CORE(生活者総合ライフスタイル調査)」の各年の結果をもとに、年代別・男女別の料理に対する意識の変化やトレンドの傾向をご紹介します。
料理をする頻度は男女で大きな変化が見られる
「だいたい毎日料理をする」という人は1997年では38.9%でしたが、2022年には43.5%と過去25年で年々増加しています。しかし、性別・年齢層別によって大きな変化が見られました。【年代別】料理をする頻度
男性で料理をだいたい毎日する人の割合は、18~24歳、25~29歳、30代、40代、50代、60代でいずれも25年前に比べて増加していました。しかし、割合自体は各年代で10~20%前後で女性と比べると4分の1以下にとどまっており、毎日料理をする人は少数派です。男性で毎日料理をする人の割合が増えている要因として、共働きが増え、女性だけでなく男性も家事に参加すべきという社会の意識の変化が挙げられるでしょう。
一方、女性では30代以上ではだいたい毎日料理をする割合は60%~80%前後と高水準であるものの、25年前と比較すると減少傾向が顕著です。これは、既婚女性の場合は夫が料理する機会が増えたことにも比例していると考えられます。
なお、30歳以上に比べるともともと料理をする割合は低水準だった29歳以下の女性は減少傾向が続いていたものの、2022年で増加していることも特徴です。これは、新型コロナウイルスの影響が考えられます。
また、新型コロナウイルスの影響が大きかった2020年から2022年では、飲食店が時短営業を行っていただけでなく、職業によっては外食が制限されることもありました。外食の機会が減ったために、男女関係なく、料理をする人が増えたのが要因ではないでしょうか。
料理をつくるのは楽しみのひとつ
料理をつくることに対して楽しさを感じているかについても、性別・年齢層で違いが見られます。「料理をつくるのが楽しみのひとつである」という回答は、全体では1997年の64.1%から2022年の57.1%と減少傾向です。男性ではどの年代においても50%台後半から70%前半で、女性の40%台前半から60%台中半に比べて高水準でした。
また、男性は50代を除いた年代で、2022年に楽しみという回答が増加していることが特徴的です。新型コロナウイルスの影響により在宅勤務や在宅時間が増えた人も多いでしょう。それにともなって料理の機会が増え、料理をすることの楽しさに目覚めたのではないかと考えられます。
一方、女性はどの年代でも2022年において料理を楽しみとする回答は減少していました。そのなかでも、30代・40代の女性は楽しんでいる人は半数以下にとどまっています。これは、30代・40代は子育てや共働きで忙しく、料理を楽しんでいると感じる暇がないのではないかと考えられます。
総合すると男性は料理に対する意識についてコロナウイルスの影響を受けたと考えられますが、もともと料理をする割合が高い女性はあまり影響を受けていないことがうかがえます。
忙しい時代の料理のキーワードは「タイパ」と考えられる
近年、Z世代と呼ばれる1990年代半ばから2012年ごろまでに生まれた若年層の間で、効率良く時間を使う「タイパ」(タイムパフォーマンス)や「時短」がトレンドになりました。共働きが一般化する忙しい時代のなか、この考え方は全世代に広まっています。タイパ重視は料理の意識にも現れてきており、料理においても簡便性を重視する傾向が高まっているようです。ここからは、「タイパ」や「時短」と関係の深い調査結果をご紹介します。
料理を簡便化できる食品や調味料を使いたい
時短に有効な料理を簡便化できる食品や調味料を使いたいと考える人の割合は1997年では38.4%でしたが、2022年には54.1%と増加しています。25年前に比べると男女とも全年代で増加していますが、女性は30代をピークとし、60代では減少しています。家事以外に仕事や子供の育児に忙しい30代では、料理に時間をかける暇はないため、料理をできるだけ簡単に済ませたいという意識が働いていると考えられます。また、効率化を重視する風潮により、料理は手をかけなければならないという意識から解放された人も少なくないでしょう。
後片付けが簡単な料理をつくる
料理はつくるときだけでなく、後片付けにも時間がかかります。後片付けが簡単な料理をつくる割合は、1997年では29.0%でしたが、2022年には48.8%と増加傾向です。性別・年齢層別では、男女とも20代が高く、60代に向けて減少しています。独身時代は仕事で忙しく、結婚してもしばらくは共働きや子育てで料理にかけられる時間が少ないことが推測できます。
インスタントや冷食で料理の手間を省く
手軽に使えるインスタントや冷凍食品で料理の手間を省いている人の割合も、全体で増加傾向です。1997年では28.3%でしたが2022年には45.9%に達しています。性別・年齢層別でも後片付けと同じ傾向が見られていることから推測すると、やはり料理にかけられる時間の効率化が、インスタントや冷凍食品の利用率に関係するといえるでしょう。
料理に対する考え方も変化しつつある
共働きの一般化や男性の家事参加といった生活様式の変化から、料理にも「タイパ」「時短」を求める傾向が見られるようになりました。「タイパ」「時短」は、料理をつくる姿勢や気持ちにも同じような傾向が現れています。料理のレパートリーを増やす
料理のレパートリーを増やす割合は、1997年では55.8%だったのが2022年では43.4%と減少傾向です。男女とも20代を頂点に、60代に向けて減少しています。料理を始めたころは料理を楽しく感じ、多くのものを作れるようになりたいという意識が働くものです。しかし、料理に対する慣れや生活の忙しさの影響で、年齢を重ねるにつれレパートリーについては関心が薄くなって、増やそうとする人が減るのではないでしょうか。
わが家の味をつくる努力をしている
わが家の味をつくる努力をしている割合は1997年では52.4%でしたが、2022年では28.5%と減少が顕著です。特に男女とも50代・60代の減少率が高くなっており、かつての「わが家の味にこだわる」という考え方が大きく変わってきていることがわかります。インスタントや冷凍食品などを利用して料理をするというタイパ重視の傾向が高まるにつれ、限られた時間のなかで、我が家のオリジナルの料理をつくりたいという思いはなくなってしまうのでしょう。
メニューのバラエティのため新しい食品を使う
メニューのバラエティを増やすために新しい食品を使う割合も、1997年では19.3%あったのが2022年には15.3%と、全体的に減少傾向です。新しい食品を使うには、メニューにも工夫が必要になります。また、食品も高価な場合があるため、料理に対する高い意欲がないと、なかなか使えないのが実情ではないでしょうか。なお、20~30代の男女については比較的新しい食品の使用について意欲が高い傾向があります。特に18~24歳の男性及び25~29歳の女性の意欲が高く、これは料理のレパートリーを増やすと回答した層とも一致しています。
また、若年層では料理アプリの利用率が高いことからも、料理に対する関心は高まっていると考えられます。アプリで見たメニューをつくるために新しい食材を購入することもあると考えられます。
まとめ
新型コロナウイルスの流行により料理に対する関心が高まったものの、「タイパ」重視の流れから後片づけの効率化やインスタント食品や冷食で手間を省く傾向が顕著になりました。食品関連の商品開発やマーケティングにおいては、このような生活者の意識の変化を意識することが重要になると考えられます。ぜひ参考にしてみてください。※「CORE(生活者総合ライフスタイル調査)」調査概要
調査手法:訪問・郵送併用の自記入式留置調査
調査地域:1996年まで首都圏30km圏、1997年以降 首都圏40km圏
調査対象:2002年まで18~69歳、2003~2012年18~74歳、2013年以降18~79歳男女個人
調査実施期間:毎年1回10月実施
有効回答数:2022年まで3,000サンプル、2023年 2,040サンプル (人口構成比に合わせて、性×年代別を割付)