マーケティングコラム
PDCAサイクルに代わるOODAループとは?概要・活用事例を紹介
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株式会社アイリスプランナー代表取締役
外資系ブランドで27年のマーケティングの経験からマーケティング専門の経営コンサルタントとして、
クリニックや起業家250社以上の経営戦略・マーケティング支援・オンラインビジネス化をサポート。
不確実性の高い「VUCA」時代と言われる現代では、これまでのビジネス思考でよく使われてきたPDCAに代わる変化の早いビジネス環境に適応した意思決定手法として、OODAループが注目されています。今回は、PDCAサイクルに代わるOODAループの概要や活用事例を紹介します。
奥野 美代子
OODAループとは
OODAループ(ウーダループ)とは「Observe」「Orient」「Decide」「Act」の頭文字に、繰り返しを意味する「Loop」を加えて作られた造語で、環境変化の早い現代で成果を上げるために効果的とされる思考法のフレームワークを指します。次の手順を繰り返し行うことで、ビジネスにおける意思決定を後伸ばしにせず、すばやく決定・行動することにつながります。
1. Observe(現状を観察する)
第1ステップは「観察」として、まずは外部・内部の環境についてよく観察して情報を収集し、現状を把握します。このとき、PEST分析や3C分析などのフレームワークを活用し、業界や顧客、競合、新技術、社内環境の変化をまとめるのが基本となります。事実を広く集めることに加えて、自分自身や相手の心情にも配慮し、感情の変化といった心理的な事実も収集するのがポイントです。
2. Orient(状況判断し、仮説を立てる)
第2ステップでは、観察した結果を元に状況を正しく整理・分析し、今後の方向性を決めます。状況判断して方向性を決めることをビジネスの世界では「仮説を立てる」と言います。過去の経験や知識、情報に、「Observe」で得たリアルな生データを統合して、自分の感情・価値判断で総合的に判断することが重要です。その上で、「〇〇だから△△だろう」と方向性を決めます。
3. Decide(意思決定する)
第3ステップは「Orient」で立てた仮説に基づき、具体的な行動を決める過程です。どんな行動をとるのか、または何もしないのかを判断し決定します。OODAループはスピード感ある意思決定がポイントなので、必ずしも論理的な根拠がなくても、過去の経験に基づき直感で決定することが推奨されています。もし直感的に決められない場合は、さらに仮説を立て検証を行った上で判断しましょう。
4. Act(実行する)
最後は意思決定に基づき、行動します。場合によっては計画通りに進まないこともありますが、OODAループでは失敗を恐れず実行することが大切です。失敗したら「Observe」「Orient」「Decide」「Act」のいずれかのステップに戻って、順番に工程を繰り返していきます。OODAループが注目されつつある背景
ビジネスを取り巻く外部環境が大きく変化している今、PDCAではなくOODAループが注目されていることには、下記のような背景がかかわっています。米国軍で意思決定に使われていた
OODAループはもともと米国空軍のパイロットで軍事戦略家のジョン・ボイド氏が発明した意思決定法です。彼は1950年代の朝鮮戦争での体験をもとに「戦闘機の勝敗の要因は指揮官の意思決定速度の差である」という結論を導き出し、その意思決定プロセスをOODAループとして理論付けました。OODAループは多くの戦闘パイロットが実行して勝率を高めた実績のある手法であり、効果と汎用性が高いことから、ビジネスの世界でも応用できる意思決定法として高く評価されるようになりました。
ビジネスモデルが変化している
ビジネスにおいて浸透しているPDCAサイクルは、工程管理や品質管理などの業務改善のために使われてきたフレームワークです。実行する際は、最初に「Plan(計画)」から始めますが、シェアリングエコノミーやサブスクリプションなどの新しいコンセプトが既存のビジネスにも変革をもたらしている現在では前例がない事業を始める例も多く、その場合は正しく計画を立てることが困難です。特に、「そのとき・その場でしか得られない」体験重視の消費者が増えつつある昨今では、環境変化に合わせて判断・行動できる自立したビジネスパーソンが求められていることもあり、変化の早いビジネス環境に対応したOODAループに注目が集まるようになりました。
VUCAの時代への順応が求められている
現代は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行やロシアによるウクライナ軍事侵攻、AI技術の変化など予測不可能な事態が次々に起こっていることから、先行きの見えない「VUCAの時代」と呼ばれています。VUCA(ブーカ)とは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」という4つの言葉の頭文字をとった造語です。
VUCAの時代では、短時間で意思決定し行動しながら、改善を繰り返して成果につなげるOODAループをすばやく繰り返すことで相手の優位に立つことができると言われています。
PDCAサイクルとの違い
PDCAサイクルとOODAループは、それぞれ向いている事業内容やプロジェクトが違います。PDCAサイクルは、工場などで生産性を高める目的で、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Act(改善)の順で回し、決められた工程をより早く安く確実に行うといった業務改善を目指すための管理サイクルです。
工場以外でも社内のプロジェクト管理や長期的なプロジェクトの進捗管理に向いていますが、工程が決まっておらず計画が立てにくいプロジェクトでは効果が出にくいと言われています。
一方、OODAループは一方向のサイクルではなくループ(繰り返し)なので、ループの途中でも必要に応じて任意のステップに戻って再開することができます。
先の読みにくい新規事業や社外との調整が必要な企画運営などでは、競争や条件変更などに迅速に対応していかなければならないため、PDCAサイクルよりもOODAループの方が向いています。
OODAループの注意点
意思決定ツールとして評価の高いOODAループですが、万能ではありません。実行する際には以下の注意点を把握しておきましょう。業務の精度を下げる恐れがある
OODAループでは、変化に対応して迅速に意思決定し行動することが求められます。個人の裁量権も高くスピード感を持って行動できることが特徴ですが、次のようなデメリットもあります。・声の大きい人の意見が優先され、必ずしも最適な判断でないまま行動してしまう
・単なる思いつきの行動や個人の感覚を重視して状況判断が甘くなる
・迅速に判断・行動することを優先するあまり、特定の社員の属人的な業務が増えてしまう
結果として、組織全体の業務の精度を下げる恐れがあります。
中長期的なプランには適さない
新規事業の立ち上げや外部事業者と連携して行う事業など、前例がなく先の見通しを立てることが難しい状況では、すばやく何度も状況判断し、行動するOODAループが役に立ちます。試行錯誤を繰り返しながら、事業をまとめ上げるイメージです。しかし、大きな組織やプロジェクトで中長期的な計画を実施するときにOODAループを使うと、組織内でたびたび計画変更が発生し、まとまらない恐れもあります。企業の中長期的な計画を実行する場合は、目標を明確にした上で行動の結果を評価し、改善を繰り返すPDCAサイクルのほうが適しています。
OODAループの活用事例
営業部署における「売り上げ強化」を目的とした場合のOODAループの活用事例を紹介します。1. Observe(売上や取引先について観察)
・今年度の新規開拓数は第三四半期終了時点で前年と増減なし・第三四半期までの売り上げは前年より10%減少している
・新規取引先の商談時の反応が悪いように感じる
2. Orient(売上の変化について状況判断・仮説を立てる)
・今年度の新規取引先1件あたり売上額が低くなっているのではないか?・大型案件が例年より少ないのではないか?
・需要が薄い企業に営業をかけていたのではないか?
3. Decide(売上強化のための決断)
・売り上げ上位の新規取引先のニーズを調べる4. Act(売上強化のための具体的な行動)
・ABC分析を行ない、上位10社に新規取引理由をヒアリング5. 分析結果
・上位10社で全体の売上の6割を占めていた・10社のうち、5社の新規取引理由は〇〇だった
・その5社の売上は残りの5社より多い
この場合、改めて売り上げの高い5社について「Observe(観察)」のステップから再度繰り返します。