マーケティングコラム

エスノグラフィーとは?活用ポイントや事例をご紹介

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「エスノグラフィー」をご存じですか。このアプローチ方法は、もともとは文化人類学のような学術的な調査研究で用いられた手法ですが、マーケティングの世界でも有効とされている「行動観察」を用いた調査手法です。今回は、実際のエスノグラフィーの事例をまじえながら、そのポイントや魅力、活用方法をご紹介したいと思います。

エスノグラフィーとは

定性調査の手法の1つに「エスノグラフィー」というものがあります。
もともとは文化人類学や社会学、心理学の分野で使用されてきた研究手法で、対象となる人物や民族の文化や風習、行動を観察・記録し、その特性を紐解くための調査手法です。「エスノグラフィー」そのものとして有名な研究としては、アメリカの動物学者ダイアン・フォッシーが18年間もルワンダに住み込み、マウンテンゴリラの生態を把握した調査があげられます。

このアプローチ方法は、生活者・消費者の行動を観察することで新しいニーズやインサイトの発見につながるため、現代ではマーケティングの世界でも多くの企業や広告代理店が活用しています。中でも「お買い物同行調査」はその典型的な手法といえます。また近年は、グループインタビューやデプスインタビュー、ホームビジットといった定性調査の中に、行動観察を組み込むことも増えてきています。

「行動観察」が重要な理由

定性調査の中でもグループインタビューやデプスインタビューでは、「言葉」で行動や理由を表現してもらいます。
例えば「ふだんあなたはどのように髪を洗いますか?」という質問をすると、対象者は「まず髪を濡らし、シャンプーを手の平にとって泡立てます。ある程度頭を洗ったらお湯で流して、それからリンスをします。」というように答えます。

しかしその言葉だけでは、本当に行動すべてを表現しているとはいえません。
実際に普段、髪を洗う場面を見せてもらうと、対象者自身が言葉では表現していなかった行動やアクションをとっていることがわかります。髪を濡らす場所や使う水の量、シャンプーの泡立て方や泡切れのタイミング、リンスを手に取る様子など、行動から多くの情報を読み取れます。

そして、そのシーンを改めて対象者と一緒に見直します。
例えば「なぜ、ここで泡切れしきっていないのに、リンスを使ったのですか?」「しばらくリンスのボトルを探していましたがそれはなぜ?」等、その行動の背景にある理由や意図を質問することで、対象者本人も無意識化にあった行動や意識を言語化していく作業を行います。

このように人間は論理的に行動できないので、すべての行動を意識して言語化することは難しいです。グループインタビューやデプスインタビューにおいても本音でアプローチできるように工夫をしますが、行動観察を取り入れることで言葉と行動のギャップをより少なくすることができます。定性調査を行う上では、そこを忘れてはいけないのです。

言語ではなく行動にフォーカスする利点

また、エスノグラフィーは言語ではなく行動に注目して、その意識・背景を把握するという特徴があります。この特徴を活かしたエスノグラフィーの事例があります。

それは、海外企業が日本市場に参入しようとするときの実地調査です。海外のマーケティング担当者が一般家庭を訪問しそこでの対象者の行動を観察したり、一緒にショッピングをして現場を体験したりするという調査は、一般的によく実施されています。これも、広義でいうところのエスノグラフィーの一種といえるでしょう。

日本市場に関するいろいろなデータや翻訳された言語よりも、現場そのものをまずは体感する方が市場理解も早いものです。私たち日本人からすると当たり前で普遍的に思うような行動に対しても、初めて日本家庭を訪問した海外の担当者からみれば、まったく新しい行動様式だったり不思議な文化風習だったりするようで、「行動観察」した後の質問タイムにはいろいろな角度から思ってもみない疑問点や不明点が指摘されることもよくみられます。

“無意識”にフォーカスする重要性

このエスノグラフィーという手法がマーケティングの世界に導入されたとき、容易に言語化できることは既に顕在的なニーズにすぎず、人間の無意識にこそ潜在的ニーズがあるということを、改めて気づかせてくれたように思います。その潜在的ニーズにアプローチし、マーケティング担当者や商品サービス開発担当者自身に気づきを促す方法としても、エスノグラフィーという手法は業界にインパクトを与えました。


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ひとつ事例をあげましょう。

とあるキッチン家電メーカーの依頼で、行動観察をするためにホームビジットを実施しました。訪問前にインタビューする際の予習として、毎夕食ごとに支度と片づけの様子を動画で撮影してもらい、事前にプロジェクト担当者全員でその動画を確認します。

動画を見ると、その対象者は片付けのたびに一瞬画面から消えていなくなります。何かをしている様子なのですが、具体的には何をしているかはわかりません。事前に片付け行動についてアンケートもとっていたのですが、その行動についての記載はありませんでした。

対象者は何をしているのか疑問に思い、ホームビジットした際にその行動について対象者本人に質問したところ、「まな板をベランダに毎晩干している」ということがわかりました。対象者本人としては「誰でもやっていることで当たり前のことでしょう?そんなに不思議ですか?」という反応です。

一般の主婦全員がまな板をベランダに干しているかどうかはわかりませんが、「まな板をベランダに干す」という行動の背景に、「天日干しでなければ殺菌できない」という思い込みや「まな板を清潔に保ち家族の健康を守りたい」という一家の食生活を担う主婦ならではのインサイトが発見できた瞬間でした。

ワークショップ実施による効果の最大化

エスノグラフィーにとって最も重要なことは、マーケティング担当者や商品サービス開発担当者が、なんらかの「気づき」を得ることです。単に「行動観察」に同行したり、動画を見たりするだけでは、エスノグラフィーの有効性を最大限活用できたとはいえません。行動観察した後の気づきにこそエスノグラフィーの価値があるのです。

そこで、エスノグラフィーには必ずといってよいほどワークショップが実施されます。
例えば、そこにどんな当たり前があり、一方でどんな違和感や謎、疑問を感じたか。
担当者個々が感じた「当たり前」は本当に当たり前なのか、また「疑問」や「違和感」は担当者自身の中にあるどんな思い込みや刷り込みから発生しているのか。面白いことに、1つの行動に対して全員が「当たり前」と思うことはないし、全員が「違和感」を感じるものでもないのです。そのギャップを洗い出していくワークを通じて、担当者自身が何らかの気づきを得ていく作業がエスノグラフィーには必要なのです。

もちろんギャップにアプローチするだけでなく、エスノグラフィーのワークショップはその調査目的や課題によっていろいろな切り口からの方法があります。どういうアプローチ方法が最適かどうかはぜひ担当のマーケティング・リサーチャーにご相談いただければと思います。

まとめ

このように、生活者・消費者の生の姿は言葉だけでは把握しきったとは言い難いものです。エスノグラフィーそのものを採用することは難しくても、今ある定性調査に少しだけでも「行動観察」するという視点を組み込むことで、何らかのニーズやインサイトの発見に近づくヒントとなれば幸いです。


【参考URL】
https://natgeotv.jp/tv/lineup/prgmtop/index/prgm_cd/2428

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