マーケティングコラム
事例から考える『スポーツのデータ活用』の重要性について
公開日:
ITの進化にともない、さまざまなデータを活用できるようになったことでスポーツの世界が大きく変わりつつあります。今後、強い選手、強いチームになるためには、情報を有効に駆使した練習や育成、戦術構築、チーム運営が必要になるとみられます。
活用されるスポーツのデータ
近年のラグビーやバレーボールの試合を観戦していると、監督の周辺でパソコンを操作して何らかの情報を提供するスタッフがいたり、タブレットを持った監督やコーチが送られてくる情報を画面で確認して選手に指示を送ったりするシーンが散見されます。これらは、試合中における選手の動きを分析し、その情報をもとに、効果が出ている攻め方や不利な状況を打開する作戦の採用とか、調子がいい選手と悪い選手を確認して替え時の判断をおこなっているのです。かつての野球やサッカーなどの試合は、選手の力量でチームを編成し、事前に立てた作戦をベースに行われてきました。しかしITによって膨大な情報を試合中にリアルタイムで得られるようになり、この活用方法が確立されてきたことで、野球やサッカーに限らず、多くのスポーツ競技でデータ分析の精度が勝負に大きく影響するということが顕著になってきました。
例えば、選手の位置情報、秒単位の移動情報、プレーの種類別の回数といったデータは、選手やチームの傾向を統計化することで、野球であれば投手の配球を予測することや、バスケットであればポイントガードが誰にパスを回す傾向が強いかといった分析ができるようになります。そして、AIの導入で今後さらに高い精度の分析が期待されています。
スポーツでデータが重視されているのはチーム種目に限った話ではなく、水泳や陸上競技など個人種目でも同じです。そのため、さまざまな数値を集めて分析し、試合に役立つ形で分析結果を提供するアナリストの需要が増えています。アナリストは単に分析ができればよいというものではありません。チーム内で分析情報を共有できるシステムを作るなど、チーム力強化につながる提案力が求められます。分析はプロセスであり、ゲームに勝つことや選手のスキルを伸ばすことにつながるような説得力のある提案ができることが必要です。
事例から紐解く重要性
勝負の命運を握るサッカーアナリスト
トップレベルの現代サッカー界においては、アナリストの資質が勝負を分ける要因になりうるとされ、その重要性は年々高まっています。かつては天才とか言われるような選手が試合を引っ張るという時代もありました。しかし現代では、相手の戦力や戦術を分析し、これに対して最も有効な自軍の選手起用や戦術の採用、試合中の分析が勝敗を決める局面があります。監督や選手の勘やひらめきだけで試合を勝ち抜くのは困難で、きめ細かな情報戦に徹することが勝利への道を開くことにつながると認識されてきています。日本のプロサッカーリーグでも、アナリストの役割が重視されるようになってきました。試合の映像を分析し、選手の動きや運動量を数量化し、さらにはチームの特徴を描くことで、自分のチームの攻め方、守り方のポイントをまとめ、監督やコーチ陣に提出するのが仕事です。単に数値を列記するのではなく、そこから何が読み取れるのかといった深い領域まで言及できるかが問われます。指導陣の性格や、掲げる戦術によって求められる情報の質や量が変わるため、この分析も必要です。アナリストの能力が試合の行方を左右する比重は今後さらに増すとみられることから、球団経営陣は選手や監督だけでなく優秀なアナリストの確保も求められています。
野球の球団経営や編成はデータを元に
日本のプロ野球で確率を重視した戦術といえば1990年代初頭に話題になったID野球です。状況に応じて最も確率の高い戦法を採るといった戦い方で注目を集めました。近年は緻密な分析をベースにした野球が有力な戦術として評価され、特に近年はセイバーメトリクスが重視されています。セイバーメトリクスとは、野球のあらゆるデータを統計学的に分析し、選手の個々の評価や、最適な試合戦略を構築する分析手法です。ITの急速な進化によってより膨大なデータが集積可能になったことで、最近では野球の試合だけでなく、チーム編成や球団経営など、より高い次元での経営戦略に応用する機運も高まってきています。セイバーメトリクスによって、一人ひとりの評価はあまり高くない選手でも、集団化すればチームとしては十分に機能する球団を作るという、最小投資で最大効果を得る球団経営戦略です。
スクラムの映像データから行うラグビーの分析
にわかファンという流行語まで生んだ2019年のワールドカップラグビーで、日本代表は史上初の決勝トーナメント進出を実現しました。大躍進を遂げた日本代表チームを支えてきた陰には、主に映像をベースに分析し、各コーチに分析情報を提供するアナリストがいます。こうして、試合が優勢になるようデータを活用して適宜試合を修正していきます。もちろん、選手の走るスピードやパワーなど、スクラム以外の分析においても数値だけではなく映像が必要です。映像という感覚的なものと数値を照らし合わせることで、指導陣も選手も修正点や内容に納得がいく確率が高まります。