インサイトスコープ

個食市場を切り拓いた「プチッと鍋」第1回 「1個で1人前」のコンセプトにたどりつくまで

Facebook X
 エバラ食品工業は、2013年8月にポーション容器に1人分の鍋の素を詰めた鍋物調味料「プチッと鍋」を発売しました。当初は寄せ鍋、キムチ鍋、白湯鍋の3種類をラインナップし、翌年3月までに出荷ベースで9億円を売り上げ、鍋という季節商品としては大きなヒット商品になりました。
 
 

シリーズで27億円の売り上げに

 エバラ食品工業は、2013年8月にポーション容器に1人分の鍋の素を詰めた鍋物調味料「プチッと鍋」を発売しました。当初は寄せ鍋、キムチ鍋、白湯鍋の3種類をラインナップし、翌年3月までに出荷ベースで9億円を売り上げ、鍋という季節商品としては大きなヒット商品になりました。

 以降、ラインナップの拡大や、昨年からはハンバーグやステーキソース、うどんの素などの調味料も加わりました。直近の16年3月期には「プチッと鍋」ブランドで25億円、「プチッと調味料」全体としては27億円を売り上げるまでに成長しています。

 私たちは、「1個で1人前」をコンセプトとした「プチッと鍋」を発売したことで、従来鍋物調味料がターゲットとしていたファミリーだけではなく、単身世帯や2人世帯など世帯人数の減少に伴う「個食」という新しい市場を開拓できたと考えています。今回のコラムではこの「プチッと調味料」誕生のきっかけとなった「プチッと鍋」開発の過程や、プロモーションの狙いなどを紹介します。

 「プチッと鍋」発売前の鍋物調味料市場は、継続して二桁成長を続けており、市場そのものは伸びている状況でした。シェアに関しては、当社が鍋物調味料と位置づけている、すき焼きのたれを含んだ形で見た場合、業界内ではトップを争う立場にあり、これは現在にいたるまで大きく変わってはいません。

 鍋物調味料市場は、従来、寄せ鍋やちゃんこ鍋といったベーシックな和風の味付けの商品が主流となっていました。1999年に当社が「キムチ鍋の素」発売時にテレビCMを放送し、ベーシックな味付け以外の鍋の認知を高めたことで市場は大きく成長。その後、市場では2004年から10年ごろにかけては3〜4人で使い切れる量をレトルトパウチタイプの容器に入れた商品が発売されはじめ、カレー鍋やトマト鍋といった新しいトレンドも生まれました。それに合わせてパウチタイプが一気に市場を席巻しました。

 当時、市場ではパウチタイプのブランドが売り上げを伸ばしているなか、当社がそれまで強みとしてきたボトルタイプの商品は苦戦している状況でした。さらに10年以降は、少子高齢化や、世帯当たりの人数減少や夫婦共働きの増加などの背景もあり、従来の家族を前提とした商品展開だけでは消費者のニーズに応えきれない状況がより顕著になりました。市場を席巻したパウチタイプは容量750mlの3〜4人分向けが主流で、1回分の使い切りという点が評価されていましたが、消費者をとりまく環境は、そうした商品だけでは対応できず、業界全体でも時代のニーズにあった新しい鍋物調味料の開発が求められていました。

 当社も、全体としては好調な鍋物調味料市場にあって、ボトルタイプの商品が苦戦していたという危機感がありました。そこで、今後も市場で存在感を発揮するためには、単に既存のボトルタイプやパウチタイプのテコ入れだけではいけないと考え2012年春に、これからの食ニーズにフィットする「イノベーション鍋」を目指した新商品開発に着手しました。

 
20161007_02
 
 
エバラ食品工業のショールーム。ニーズの多様化に合わせ商品が生まれているのがわかる。
 
 

調味料の不満を洗い出す

 どうすればイノベーションを起こすことができるのか。私たちはまず、消費者がどんなことを考えて鍋を食べているのかを知るために、ターゲット層となる30代から50代までの主婦を対象にインターネット調査を行いました。この調査で、市販の鍋物調味料を使っている消費者が多くいることがわかったと同時に、商品に不満を感じている人も多くいることがわかりました。

 そこで出てきた不満としては、パウチタイプの商品が重たい、ある程度の人数が揃わないと食べられないというものなどがありました。また、家族が揃っても、お父さんはキムチ鍋が食べたいのに子どもが小さいので辛い物が食べられないから我慢して寄せ鍋を食べているなど、食卓を囲む家族の理由で食べたい味が食べられないというものもありました。

 こうして明らかになった不満を並べ、その一つひとつの解消につながるアイデアを出していきました。スープが足りないという不満には、簡単に足せるようにするというものから、人数が揃わないならどうすればいいのかなど直接商品開発につながらないものも含め、一つひとつ考えていきました。最終的にアイデアをまとめ、消費者の不満を解消するためのキーワードとして出てきたのが「個食」でした。このキーワードをもとに、当社の「イノベーション鍋」の「1個で1人前」というコンセプトにたどりつきました。

 次回は、ポーション型容器を選択した理由や、それにともなう開発上の苦労などを紹介します。

 
20161007_03
 
 
パッケージにも「1個で1人分」と明記している。


石渡 宏美
エバラ食品工業株式会社
マーケティング本部 商品開発部 新カテゴリー商品開発第一課 課長

石渡 宏美

桑原 慶昭
エバラ食品工業株式会社
マーケティング本部 マーケティング部 販売促進課 課長

桑原 慶昭

おすすめのコラム

マーケティングコラム
あの世代の呼び方は何?各世代へのマーケティング方法もご紹介
「団塊の世代」や「Z世代」など、生まれた世代によってさまざまな名称が付けられています。マーケティング担当者であれば、それぞれの世代の名称と特徴を把握し、世代ごとにあわせたマーケティングを実施しましょう。 本記事では、それぞれの世代の呼び方について説明し、各世代に合ったマーケティング方法を解説します。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
マーケティングコラム
独身の人が増えすぎている?未婚の割合や増加の理由を解説
結婚して家庭をもつことが当たり前だった時代からは一変し、生涯を独身で過ごす人が増えています。なぜ未婚率が高くなっているのでしょうか。今回は、未婚の割合や未婚の人が増えている理由について解説します。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
マーケティングコラム
α世代の次の世代とは?β世代の特徴や取り巻く環境を予測しよう
今注目されているZ世代の次がα世代と呼ばれており、さらにその次がβ世代にあたります。Z世代以降は、デジタルネイティブであることが特徴ですが、マーケティング担当者や商品の開発担当者であれば、β世代とはどのような世代なのか、今と取り巻く環境がどのように変化しているのか気になるのではないでしょうか。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
マーケティングコラム
中学生のスマホ使用時間の理想はどれくらい?スマホが及ぼす影響も紹介
近年、中学生からスマホを持たせる家庭が多いなか、使用時間の長さが問題視されているケースが多く見受けられます。スマホの使用時間が長いと学力に影響するといわれることもあり、子どもを持つ親からすると、「適切な使用時間の範囲で使わせたい」と考える方もいるようです。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
デジタルマーケティングコラム
世界スマホシェア率を日本と比較|人気のOSやメーカーは?
アプリ開発企業のマーケティング担当者の中には、世界のスマートフォンシェア率が気になっている方もいるでしょう。人気のOSやメーカーなどに関して、世界全体と日本との傾向の違いを把握しておくことで、マーケティングに活かせる面もあるかもしれません。
# デジタルマーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
マーケティングコラム
犬派か猫派か?どちらが人気?性格や相性を徹底解剖!
ペットを飼っている人や、これから飼いたいと考えている人にとって気になるのが「犬と猫はどちらが人気なのか?」という点ではないでしょうか。また、犬派と猫派それぞれの性格や相性などについて気になる人も多いかと思います。本記事では、犬派と猫派どちらが多いのか、また性格や相性はどうかを徹底解剖します。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
マーケティングコラム
推し活の経済効果はどれくらい?市場規模と推し活マーケティングのメリットとは
若年層に適確なアプローチができないなど、従来のマーケティング手法に限界を感じてはいませんか。商品やサービスのターゲットとして、「推し活に力を入れる消費者」に絞る方法もあります。 推し活とは、推し(お気に入りのキャラやアイドルなど)を応援する活動のことです。今回は、推し活の経済効果や企業が推し活マーケティングに力を入れるメリットについて紹介します。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
デジタルマーケティングコラム
人工知能(AI)で未来はどう変わる?人工知能の現状と予測される変化
まるで人間のように何でも質問に答えてくれる対話型AI「Chat(チャット)GPT」の出現に世界が揺れています。人工知能とは、人間のような知能を持つコンピュータシステムのことで、AIとも呼ばれます。例えば、スマートスピーカーやスマホの顔認証システムなどは人工知能の一種です。
# デジタルマーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
マーケティングコラム
団塊の世代はいついなくなる?高齢化で生じる問題と対策を紹介
団塊の世代は、全人口に占める割合の大きさから、社会に多大なる影響を与えてきました。高齢化の話題に接して、団塊の世代の存在感に驚いた方もいるのではないでしょうか。今回は、団塊の世代の高齢化問題と企業の対策について紹介します。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
ご相談・お見積もり依頼
【法人・個人様】
フリーダイヤルでのお問い合わせ
0120-198-022
※ モニター様からのお電話でのお問い合わせは受け付けておりません。
資料ダウンロード