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ロングセラーブランド、リステージの戦略第1回 予防歯科に着目した理由
公開日:
ライオン株式会社
ヘルス&ホームケア事業本部 オーラルケア事業部 ブランドマネジャー
横手 弘宣
ライオンのオーラルケアブランド「クリニカ」は、2014年に予防歯科をブランド価値としたリステージを実施しました。私はクリニカを担当しているブランドマネジャーです。今回のコラムでは、私たちがなぜ予防歯科に着目し、リステージのためにどんなことを行ったのかを紹介したいと思います。
高価格帯が好調のオーラルケア市場
ライオンのオーラルケアブランド「クリニカ」は、2014年に予防歯科をブランド価値としたリステージを実施しました。私はクリニカを担当しているブランドマネジャーです。今回のコラムでは、私たちがなぜ予防歯科に着目し、リステージのためにどんなことを行ったのかを紹介したいと思います。クリニカは1981年に誕生したブランドです。発売当初は「プラークコントロール(歯垢分解)」ができるハミガキであることをテレビCMなどで訴求しました。プラークとは歯垢のことですが、それまで歯垢はハブラシで落とすものという認識が一般的でした。クリニカは「デキストラナーゼ」という酵素を配合し「日本で唯一の歯垢を分解できるハミガキ」ということを商品のユニークポイントとして登場しました。広告で用いた「虫歯の原因の歯垢をデキストラナーゼが分解する」というコピーもあり、クリニカというと「デキストラナーゼ」や「酵素」、「ハミガキ」というイメージで語られることが多くなっています。
近年のオーラルケア市場は、少子高齢化社会で人口が増えない社会環境にありながら比較的順調に成長しています。市場全体で約2200億円の規模で、前年比104%程度の成長を見せています。そのなかでハミガキは、約800億円を占めていて、市場の成長を支えています。ハミガキが成長している理由は、高価格帯商品の売上げ増です。当社の商品で言うと歯槽膿漏などに効果がある「デントヘルス」や歯周病予防の「システマ」といったブランドが入る、販売価格が500円を超えるカテゴリーが好調となっています。2009年から14年までの5年間で高価格帯商品の売上げ構成が10ポイントも上昇する一方で、それ以外の価格帯は売上げの構成比率は低下しています。クリニカは中価格帯で、成長する市場にありながらもやや低調なカテゴリーに属するという状況でした。発売から30年以上経過し、ファンも高齢化も進み、ブランドとしても「やや古いブランド」というイメージが強くなったことに悩まされていました。長い歴史に支えられた「家族で使っていた親しみのあるブランド」というイメージの反面、機能よりも価格の安さに印象が傾きがちになっていました。こうした背景を受けてのブランドリステージでした。
日本はオーラルケア後進国、高まる健康需要
大正時代から続く、学校での歯磨き指導
ライオンは今年、創業125年を向かえる会社です。創業後しばらくしてハミガキの製造・販売を開始していて、日本でも古くからハミガキの製造販売を行っている企業になります。また、製造販売だけではなく、歯磨き習慣の重要性の啓蒙や教育にも力を入れてきたのが特徴です。学校教育においては、大正時代から当社の衛生士が学校を訪問し、歯磨き指導を行っていました。こうした活動は現在も「全国小学生歯みがき大会」という形で継続しています。 オーラルケアに関する啓蒙活動にも力を入れてきた当社ですが、残念ながら日本はこの分野において後進国となっています。オーラルケア先進国といわれるスウェーデンでは、70歳の人で平均21本歯が残っている一方、日本は平均16.5本。多くの日本人が70歳までに10本以上歯を失っていることになります。また、保険などの制度的な差はあるものの、歯科の定期検診受診率もスウェーデンの7割に対し、日本は4割と低い水準になっています。
70歳で残っている歯の本数。この事実を社内や流通に伝えていった。
このような市場環境を踏まえ、今後どのようなブランドとなるべきかを考え、また、社会的にも健康需要、特に「予防」がブームになるという予測のもと、「予防歯科」をテーマにクリニカブランドをリステージすることになりました。また、その過程において、当社が培ってきた歴史ある啓蒙活動も生かしながら、マーケティングとの連動で消費者の意識から行動を変えていくことを目指しました。ただ予防歯科というコンセプトは一般的にも言われてきた考え方ですので、「クリニカこそが予防歯科にふさわしいブランド」とお客さまに言ってもらえるために何をすべきなのかを考え、取り組んできました。
次回は、「予防歯科」をテーマにしたリステージをどのように進めたのかをお話しします。