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ヒット商品を生み出すマーケティング第2回 中高生から「働く女性」へターゲットシフト
公開日:
ライオン株式会社
ヘルス&ホームケア事業本部 ビューティケア事業部 ブランドマネジャー
大古 勝朗
国内の制汗剤市場は、現在も成長を続けています。特に2000年以降は、温暖化による猛暑の影響もあり、暑さと連動して市場のステージが上がるような格好です。
複数タイプの制汗剤の使い分け進む
国内の制汗剤市場は、現在も成長を続けています。特に2000年以降は、温暖化による猛暑の影響もあり、暑さと連動して市場のステージが上がるような格好です。近年では、2010年の記録的な猛暑で市場全体の売り上げが前年の460億円から520億円弱にまで上がり、翌年は東日本大震災の発生で節電の気運が高まったこともあり、さらに伸びました。ここ数年は横ばいのようなグラフになっていますが、2010年から11年の上昇率が高かったためで、安定して成長していると見ています。
制汗剤市場の推移
2000年以降、総合職で働く女性の増加に加え、資生堂さんが「AG+(エージープラス)を発売したこともきっかけとなり、ターゲットは20代以降の有職女性へと移り、使用目的も対人を意識し臭いを重視するように変わってきました。使用剤型(注)も、2000年代まではスプレーが約7割以上の割合を占めていましたが、今年(2014年1-9月)は33%まで下がっている一方、シートなどのふきとりタイプや、ウォータータイプなど清涼感を高めたもの、ロールオンやスティック、クリームといった直塗りタイプが急拡大しています。これは単純にスプレーを使わなくなったということだけではなく、例えば、朝、家を出る前にロールオン、日中、オフィスではスプレー、外出時はシートといったように、時間や場所に応じた使い分けが進んでいるためだと思われます。
こうした成長の背景には、生活者の意識と行動の変化があります。生活者は、制汗剤に対して、自身が快適に過ごしたいというニーズと、周囲の人に臭いで不快に思われたくないという対人を意識したニーズを持っています。近年はこの両方のニーズを満たしたいと思う人が増えています。1日に何度も使ったり、時間や場所に応じて複数の剤型を組み合わせたり、外出中の持ち歩きやオフィスに常備したり、夏季だけでなく年間を通じて使用するなど、生活者の制汗剤の使用形態も多様化の傾向にあります。季節を問わない利用というのは、特にロールオンなどの直塗り商品に多い特徴です。加えて、男性のシート利用も増えており、市場の拡大につながっています。
リニューアルでブランドイメージの回復に成功
ライオンのBanも1990年代までは、花王の「8×4(エイトフォー)」と2大ブランドとして定着していましたが、2000年以降、ターゲットの変化や競合の参入も激化してブランド力が低下してしまいました。このままでは数あるブランドの中に埋没してしまうという危機感から、2011年に「黒Ban」と呼んでいる黒いパッケージのシリーズを発売しました。その効果は思いのほかすぐに現れ、2011年は前年比でも2ケタ成長を実現することができました。私たちが社内で指標としている「ブランド価値スコア」というデータでも「機能」と「個性」のスコアが上がってきています。こうしたブランドイメージの転換の流れに乗り、2013年にはシャワーデオドラントという新しい剤型による朝の新習慣の提案、そして今年はBan汗ブロックロールオンで市場に「ワキ汗ジミ対策」という新しい価値を提供し続けています。
現在は、ブランドイメージ転換の過渡期ととらえ、コミュニケーションにおいても毎年、旬なタレントやモデルを起用しスタイリッシュなイメージの浸透を意識しています。制汗剤市場は「機能」も重要視するカテゴリーですので、イメージだけでなく、しっかりとした機能と効果、そして使い方提案も合わせてブランド訴求していく必要があると考えています。
最終回は、1962年に始まったBanの歴史についてご紹介します。
(注)剤型=(医薬品などで)目的、用途に応じ適切な形に製したものの形自体を意味する言葉。当コラムでは、パウダースプレーやロールオン、シートなど制汗剤の製品形態を示す。