インサイトスコープ
マーケティングの根本、「顧客中心」を問い直す第2回 「顧客の声」を、本当に聴けているのか?
公開日:
株式会社ベネッセコーポレーション
家庭学習カンパニー 英語事業推進 担当部長
橋本 英知
「ユーザーファースト」「顧客中心」「顧客志向」、改めて最近よく耳にする言葉です。ソーシャルの時代となり、個と個がつながり、その影響力がどんどん高まっていく中で、必要不可欠なキーワード。しかし、どこまで本当に「顧客中心」で、企業が、ビジネスパーソンが、日々行動することができているのか?
「ユーザーファースト」「顧客中心」「顧客志向」、改めて最近よく耳にする言葉です。ソーシャルの時代となり、個と個がつながり、その影響力がどんどん高まっていく中で、必要不可欠なキーワード。しかし、どこまで本当に「顧客中心」で、企業が、ビジネスパーソンが、日々行動することができているのか?2回目は、マーケティングの重要なプロセス、「リサーチ」についてです。
※マーケティング・リサーチの中でも、今回は「1次データの収集」についての話になります。ご了承ください。
思いつきの仮説で人気投票!? 安易な定量調査が乱立
1回目でも少し触れましたが、ネットリサーチが普及し、圧倒的に早く安く、1次データが収集できるようになりました。その一方で、「リサーチ結果にしたがって施策を実行しても、成果が出にくくなった」「回答はタテマエで、ホンネやインサイトが掴めない」という声もよく耳にするようになりました。私自身も同様のことを感じはじめていたので、担当していた部門で実施しているリサーチの「目的・形式」の分析をしてみました。1年間で43回リサーチを行っていたことも驚きでしたが、分析してわかった事実は、「95%が、仮説検証を目的とした定量調査」だったことです。これはかなり衝撃的でした。「仮説を探索するよりも、検証するほうが圧倒的に多い」、乱暴な言い方をすると、思いつきのアイデアを集めて、人気投票をしている状態です。ちょっとわからないことがあると、安易にリサーチしてしまうことは、顧客の声を聞くというよりも、顧客に責任を押し付けているようなものだと、深く反省しました…。
個々の声を「構造化」しなければ、顧客のホンネには迫れない
顧客ニーズを深く把握するためには、定性調査(グループインタビューやデプスインタビューなど)を行うことが一般的です。担当部門で実施しているリサーチの中の35%は定性調査でした。ただ、定性調査で重要なのは分析なのですが、それが丁寧にやられていないことが分かりました。自分でやったことがないのに、分析・レポートまで調査会社に外注している状況です。定性調査の分析手法は、「評価グリッド法」「上位下位関係分析」「ラダリング」など昔からさまざまなものがありますが、共通していえることは、レイヤーの違う顧客の声を「構造化」して把握することです。もう10年以上前になってしまいますが、私自身がリサーチをよくやっていたときは、定性調査からニーズを構造化し、それを定量調査にかけ、関係性の強さや因果関係を共分散構造分析などを使って把握していました。振り返ると、かなり大変な作業だったので、もうやりたくないのがホンネですが、そうやって顧客ニーズを構造化するトレーニングをしてきたことが、顧客の声を本当に聴くために必要だったと思います。ただ、このような方法は、時間やコストもかかり専門知識も必要なので、みなさんに気軽にオススメはできません。今の時代ならではの、もっと身近で簡単なトレーニング方法があるんです。
「顧客の声」を、聴けるようになるためのトレーニング
担当部門の若手に、顧客の声を構造化しながら聴けるようになるトレーニングをいろいろ試してもらった結果、以下の2つが、明らかに効果を実感できた方法です。(1) ある一人のブログを時間軸で分析し、価値観や生活全体を把握する
(2) 自分自身が、顧客と直接コミュニケーション(特に、対面営業)する
(1) は、自分の担当製品を使ってくれている顧客のブログを、1・2年間分読み込む方法です。担当製品の話が出てくるのはごくわずかですが、その人のどういう価値観からニーズが生まれ、どう生活していて、なぜ自社製品を使ってくれているのかを、俯瞰することができます。 (2)は、担当製品を売るために、マニュアルではなく自分の仮説を、顧客の反応に合わせながらブラッシュアップし続けます。そのリアルなコミュニケーションの結果、顧客ニーズが構造的に理解できます。これは、対面営業を担当したことがない若手には非常に効果的でした。
最後になりますが、ネットリサーチや、定量調査を否定しているわけではありません。「顧客の声」を聴くための力を改めて鍛えることで、1次データがより生きてくるという話です。このコラムが、読者のみなさんの「顧客の声」の聴き方を再点検するきっかけになれば幸いです。