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SPFで農業を未来へつなぐ アグリゲート 第3回 美味しいものを適正価格で届けるために
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食農業界でのSPF(Speciality store retailer of Private Food)構築を推進している私たちが、今最も注力しているのがITによる可視化、効率化です。SPFはアパレル業界の仕組みを食農業界で応用しているものですが、当然ながら何もかもが全く同じ条件というわけではありません。
食農業界にビジネス視点とマーケティング発想を導入するために
食農業界でのSPF(Speciality store retailer of Private Food)構築を推進している私たちが、今最も注力しているのがITによる可視化、効率化です。SPFはアパレル業界の仕組みを食農業界で応用しているものですが、当然ながら何もかもが全く同じ条件というわけではありません。農作物は、衣料品のようにひとつの工場でTシャツ500枚、1000枚と一定量を作ることはできません。1件でキャベツを何十個作ります、という農家が何百とあるような状況です。生産量は天候にも左右されるので、必ずしも一定とは限りません。
近年は地方でも生産法人ができて、ある程度の件数をまとめて管理できるようになってきましたが、アパレルの工場と比較するとまだまだ小規模です。工場の責任者のように、そこに話せば全てうまく流れていくような存在は食農業界にはありません。
現状では、生産と販売、いずれの現場でも情報やデータはほとんど可視化できていません。そのため、ビジネス発想を持った人材が参入しにくい、できない環境になってしまっています。マーケティングの視点で見ても、指標となるデータが存在していません。他の業界や事業なら当然あるはずの経営的な発想がうまれにくい環境だったわけです。私たちは、SPFの各プロセスを可視化し、効率化を進め、よりビジネスとしても魅力のある、展望が見える業界に変えていくためにITの力を活用しようとしているのです。
農家の作業効率を高めるアプリ「FARMERS POCKET」
すでに提供が始まっているのは「FARMERS POCKET(ファーマーズポケット)」アプリです。農家の作業効率化を目指すツールで、これまで農家が紙でそれぞれの書式、用紙で作成していた納品書や請求書をアプリで統一できます。アプリだと農場でもデータを直接デバイスに入力できるので、時間短縮につながります。入力したデータは蓄積され、売上や出荷量を管理し、経営、事業運営面にも活用できます。一方で、旬八青果店のような販売側も、毎月農家毎に異なるフォーマットで送られて来る納品書、請求書の処理を効率化することができます。
私たちはITと農業の相性は良いと感じていて、さまざまな状況で可視化、効率化の効果を得られると考えています。POS管理についても、現状では作物ごと、トマトならトマト、あるいはより大きく「野菜」となっている場合もあります。単にトマトと言っても生産者や生産地が異なれば、実際に売れ行きも変わってきます。IT化を進めることで「誰が」「どこで作った」「何の野菜」がどのように売れているのかを可視化できれば、その要因を究明し、改善につなげることができるようになります。
これまで、まっすぐなキュウリが規格品として流通していたのは、主に箱詰めや配送トラックの都合でした。効率よく箱に納まり、その箱をムダなく積み込んで運ぶために求められるのがキュウリに関しては「まっすぐ」だったわけです。ここでいう規格外品は、決して品質が劣るわけではなく、むしろ美味しい場合もあります。これらもIT化で情報を管理し、いくつかの農家でまとめて、輸送することができれば、今まで本当に美味しいものが届いていなかった店頭に、おいしさを届けることにもつながります。
私たちは旬八青果店を通じて「八百屋」という事業を展開し、旬八大学では「都市部の八百屋講座」を開いていますが、決して旧態依然とした八百屋を残そうとしているわけではありません。美味しい野菜を適正価格で届けるために、結果として今は「八百屋」という形でサービスを提供しているにすぎません。
時代が変われば商売のあり方も変化します。SPFの構築が進み、食農業界の各プロセスにビジネスとして参入する魅力のある業界になれば、必然的に変化も大きくなりますし、業界自体が強くなっていけると考えています。
私たちはこれからも、旬八青果店や旬八キッチン、教育事業やIT化の促進といった事業を通して、食農業界をきちんと稼げる、継続性のある魅力あるものにするべく、SPFの構築を進めていきます。
このアプリは出荷先が旬八青果店ではなくても使うことができる。