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龍角散の復活と決断第2回 ブランドを統合、売上40億から150億へ
公開日:
株式会社龍角散
代表取締役社長
藤井 隆太
消費者調査によって「龍角散」のどこが評価され、長く使われ続けているのかを再認識することができ、会社として「龍角散」ブランドに集中し、勝負していくことを決めました。「龍角散」に集中するということは、もう一つのブランド「クララ」をやめるということでもありました。
旧製品を廃止する決断
消費者調査によって「龍角散」のどこが評価され、長く使われ続けているのかを再認識することができ、会社として「龍角散」ブランドに集中し、勝負していくことを決めました。「龍角散」に集中するということは、もう一つのブランド「クララ」をやめるということでもありました。「クララ」自体は顆粒で、水なしでもサッと溶ける、飲みやすい商品で40年以上販売してきました。しかし当時の会社の状態で2つのブランドにマーケティングコストをかけることはできませんでした。
また「クララ」にはノスカピンという成分が含まれていて、効き目はあるものの、妊産婦や他の処方薬を飲んでいる人など、誰でも気軽に使えるわけではありませんでした。誰でも安心して使えるブランド価値を醸成していくためには、医薬品としては異例ではあるものの、ノスカピンを外す、つまり効果を下げた製品をつくるという決断をしなければなりませんでした。
当然、営業からは猛反発を受けましたが、テレビCMを投下しても「クララ」の売り上げを回復することはできませんでした。こうして「龍角散」と同じ成分で誰でも飲めて、かつ「クララ」のように顆粒で飲みやすく、携帯性を担保した「龍角散ダイレクトスティック」という製品を「龍角散」ブランドのひとつとして発売しました。
微細な粉末状である「龍角散」には、まだ使ったことのない層にアプローチする、トライアル版が必要なことは消費者調査からわかっていました。愛用者の方も「龍角散」の微細な粉末を飲むにはコツがいることを理解していて、グループインタビューでは自分で工夫した上手い飲み方を自慢しあう場面もあったほどです。
また誰でも使える、というメッセージに変えて初めて放送した「龍角散」のテレビCMでは、若い女性から「苦い」「むせた」という声をたくさんもらい、「龍角散」を初めての人に飲ませるのは難しいことが明確になっていました。そこで水なしで飲める顆粒の「龍角散ダイレクトスティック」を、「龍角散」ブランドのすそ野を広げる製品として位置付けたのです。
製品が1年中売れるように
「龍角散ダイレクトスティック」の発売時には、イギリス出身のオペラ歌手ポール・ポッツさんを起用し、「神様がくれた『のど』が僕の人生を変えた。」というキャッチフレーズで宣伝し人気を博しました。それ以降は基本的に「龍角散」ブランドとして商品群をまとめた広告を展開しています。かつての「ゴホン!といえば龍角散」というフレーズはブランディングとしては効果がありましたが、現在は商品の利用シーンをしっかり伝えるようにしています。
発売初期のCM「巨大マスク編」では、風邪の予防用途を訴求し、マスクをしても入り込んでくるウイルスからのどを守ろうという内容でした。その後は、俳優の香川照之さんを起用し、睡眠時の口呼吸によるのどの炎症に「龍角散」をすすめる内容にしたほか、現在は落語家の立川志の輔さんを起用し、ドキュメンタリー風のCMで、のどが荒れたり、酷使したりしたときにも効果があることを訴求しています。2015年には、神田明神の遷座400年を祝う神田祭に合わせて「祭りののどに龍角散。」という広告を展開し、一気にのどと言えば「龍角散」というイメージを浸透させました。この広告では、日本新聞協会の新聞広告賞の優秀賞も受賞しました。
訴求内容を変化させたのは、風邪の治療目的だけでは売れる時期が限られてしまうからです。「龍角散」も「龍角散ダイレクト」も生薬成分がのどの粘膜に直接作用して、のどの異物排出を促進する薬です。そのため、風邪の時期だけではなく、花粉など空気中の異物でのどがイガイガしたときや声を出し過ぎて声がれが起きてしまったときなど、夏場も含めた年間を通じたニーズが喚起できるというわけです。
ユーザー層も「龍角散」は引き続き50〜60代が多くなっていますが、こちらは年間を通じた使用が浸透し、売上を伸ばしました。若年層には「龍角散ダイレクト」を利用してもらっています。また、「龍角散」の愛用者にも、シーンによって「龍角散ダイレクト」を併用してもらえているようです。
こうして「龍角散」ブランドが復活したことにより、私が社長就任時に売上が40億ほどだった当社の売上を回復させただけではなく、150億近くに伸ばすことになったのです。
次回は「龍角散ののどすっきり飴」の開発と販売戦略と「らくらく服薬ゼリー」シリーズについてお話しします。