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龍角散の復活と決断第1回 愛用者の声をもとに路線を変更

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株式会社龍角散
代表取締役社長

藤井 隆太

 私は1995年に社長に就任し、当時業績不振に陥っていた会社の立て直しを図りました。このコラムでは、当社が「龍角散」ブランドを復活させ、「龍角散の のどすっきり飴」や服薬を補助するゼリー状のオブラート「らくらく服薬ゼリー」などの新たな価値を提供するにあたり、どのように消費者のニーズを捉え、どんな施策をとったのかをお話しします。

立ち直るきっかけは消費者調査

 私は1995年に社長に就任し、当時業績不振に陥っていた会社の立て直しを図りました。このコラムでは、当社が「龍角散」ブランドを復活させ、「龍角散の のどすっきり飴」や服薬を補助するゼリー状のオブラート「らくらく服薬ゼリー」などの新たな価値を提供するにあたり、どのように消費者のニーズを捉え、どんな施策をとったのかをお話しします。

 当社は、秋田藩の御典医を務めていた藤井家を起源にしています。「龍角散」も江戸時代に原型となるものが創薬されています。昭和になるとテレビCMの「ゴホン!といえば龍角散」というキャッチフレーズで多くの人に知られるようになりました。1978年にはこのテレビCMがACCのCMフェスティバルでグランプリに選ばれています。

 一方で、肝心の売り上げは不振に陥っていました。時代とともに環境が変化し、消費者のニーズは変わっていましたし、競合企業も新たな機能や効果を持った商品を投入していました。「龍角散」はユーザーの年齢層が高齢化したこともあり、新商品の投入などのテコ入れも行いましたが、企業として存亡の危機に瀕していました。

 私が社長に就任したのは、まさにその時期。会社を閉じることも選択肢に入れる状況でしたが、立ち直るきっかけを与えてくれたのは「龍角散」の愛用者の方々でした。売り上げが不振だったとはいえ、それでもなお使い続けてくれるのはなぜかを知るために、愛用者を対象に消費者調査を行ったのです。

 私たちは「龍角散」を時代に合わない商品だと感じていたのですが、愛用者の意見は全く違っていました。歴史があり、伝統を守って作り続けてきた自慢できる商品だと思ってもらえていたのです。しかも新薬ではなく生薬、漢方だから良いのだという評価でした。


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生薬の微粉末「龍角散」は、水なしで服用する、のどの薬。のどに直接作用するのが特徴。

妊産婦や薬を複数飲んでいる人への訴求

 グループインタビューでは、私がモデレーターとなって男女各年代層別に行いました。本来、調査する企業の人間がインタビューにかかわると、回答にバイアスがかかるものですが、このときは、それでもかまわないから商品について良いと思っているポイントを深く、納得できるまで聞き出すことにしました。

 女性のグループからは、妊娠中に産婦人科で「龍角散」を勧められたこと、持病で多くの薬を飲んでいる高齢の男性からは風邪気味のとき、「龍角散」を飲んでいるという話を聞きました。

 のどの痛みに効く一般的な処方薬は、消化管から肝臓で分解され、血中に入り身体中を巡り、のどへ届きます。一方、「龍角散」は生薬の微細な粒子が、のどの粘膜に直接作用するので、血中に入ることはありません。そのため、一般の処方薬と併用したときに薬の成分の組み合わせによって、効きすぎや無効化などの相互作用を起こすことがないのです。

 こうしたことは社内でもわかっていたことですが、メーカーの立場としては当たり前のことで、消費者にとって良いこと、打ち出すべきポイントだという判断ができていませんでした。こうして、私たちは、妊産婦でも、持病で薬を複数飲んでいる人でも、誰でも安心して使える生薬製剤であることへブランド価値をシフトすることにしました。商品そのものは変えられませんが、訴求するポイントを変え、「龍角散」ブランドに集中していくことになったのです。

 次回は「クララ」から「龍角散ダイレクト」への転換と、新たなコンセプトに基づいた広告戦略についてお話しします。


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龍角散では、秋田県美郷町・八峰町と協力し、国産生薬を栽培。
輸入生薬による価格変動や品質のばらつきなどの課題解決に取り組んでいる。

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