グローバルコラム
シリーズ 成長市場で勝つ (9)タイ高齢化の現状
公開日:
株式会社gr.a.m
代表取締役
谷村 真
今回は当社のメンバーであるタイ人のYosthepとタイの高齢化について話題となったため皆さんと共有してみようと思います。
近年20年で目まぐるしい経済発展を遂げてきたタイは、その高成長期を終え低成長期へ突入しているといわれ、同時に様々な社会問題が起こってきています。そのひとつである高齢化社会について話題に出たトピックスをいくつか挙げていきたいと思います。
タイの2022年における高齢化率は、現在の7%から14%へ推移し高齢社会へと突入するといわれています。一方で少子化も進んでおり人手不足が問題とされ、定年年齢を引き上げることも検討されています。近年物価は日本に近づいていますが、年金制度はほぼ変わらず、今後の年金生活を迎えるビジネスパーソンたちにとっては定年後の生活をイメージできず苦悩するといった現象が起こっています。
求められる健康志向
タイでは、2030年に高齢者人口は全人口の約4分の1にあたる1,700万人になります。SCB (Siam Commercial Bank)(タイの銀行)によると、現在のシニア層においては病気やその予防など健康意識はそれほどありませんでしたが、今後の高齢者にあたる40~60歳の77%が老後の生活に向けて少しずつ生活習慣を変えはじめ、運動や健康に気をつけるようになったと答えています。また政府はシニアスポーツセンターを全国12か所に設置するなど新たな健康意識に対応するほか、シニアの交流やアクティビティを目的とする「シニアクラブ」にも支援金プログラムを提供しています。
拡大するサプリメント市場
SCBによると、タイサプリメント市場は2011~2015年は毎年12%成長、2017-2018年においても8%成長するなど、この8年で約3倍近く成長しています。さらにサプリメントを美容サプリメントと健康サプリメントに分類すると、その構成比率は健康サプリメントが2011年から2017年にかけて65.9%から78.0%と成長しています。また、高齢者へサプリメントの予算についてアンケートを取ると4,000バーツ(約1万4千円)を予算として設定している方が49%となっています。新卒の平均給与で考えると約3分の1近くをサプリメントに使うことになり、かなり高い予算を設定していることが窺えます。これは現在タイにおいてサプリメントがどれだけ必要とされているかを示しています。
老人ホームの不足
タイ政府は高齢化問題に対して2017年に対策の一つとして老人ホームの支援を掲げています。その結果、政府主導で支援をする施設や、民間主導で運営される施設もできていますが、それでもなお圧倒的に足りておらず、現状どこも1年ほどの待ち状態が続いています。老人ホーム以外にもHome-Care(自宅介護)があり、お金にあまり余裕のない方や老人ホームに入れない方に人気が高くなっています。タイでは昔から周辺国の方たちをメイドとして雇い入れ一緒に住む家も多かったためHome-Careは馴染みがあり、介護だけでなく食事や家の掃除まですべてやってくれるところが高い人気の理由となっています。
問題を抱える年金制度
タイでは、サラリーマンは多少公務員より給与が高いことが一般的ですが、老後の生活のことを考えると公務員の方が得という見方もあります。公務員は長く勤めていれば5万~6万バーツ/月がもらえ、老後の生活にある程度余裕を持って暮らせるはずだからです。一方サラリーマンの場合は最高額が15,000バーツ/月と決まっており、老後生活には投資や貯金が欠かせません。◆公務員や政府機関に勤めている場合の一般的な計算方法:
年金(月)=「最後の60ヶ月の平均給与の7割 x 期間(年)/ 50
(平均が10万バーツの40年勤続場合、56,000バーツとなる)
◆サラリーマンの場合の一般的な計算方法:
年金(月)=平均給与(60ヶ月の給与 / 60)× 20 /100
(平均が10万バーツであっても上限15,000バーツ)
ただし、年金制度は条件によって支給制度も様々であり、一時金支給制度や一括支給制度、サラリーマンでも年金支払い年数によって利率も変わってきます。政府の方針としては、今後年金を更に充実させていく方向で進めています。
年金が支給されていない高齢者には、政府から特別な支援金が毎月支払われています。
-60年代 600バーツ/月
-70年代 700バーツ/月
-80年代 800バーツ/月
-90年代 1,000バーツ/月
※収入が3万以上10万バーツ以下(年)の場合、毎月50バーツ、3万バーツ以下(年)の場合は100バーツ別途支給。
高齢化社会における政府の方針と対策
・高齢者雇用の促進タイでは少子高齢化が急ペースで進んでいるため、今後人手不足が顕著になってくると予測されている。政府は一つの解決策として企業で高齢者を雇うことを推進している。企業側のメリットとして法人税等の減税があげられる。
・貯金と投資の促進
タイ高齢者の約3分の1が老後の生活に関して、お金の心配をしている。年金だけに頼って生活することは難しいため、政府は貯金と企業への投資を勧めている。
・定年退職年齢の引き上げ
タイの定年退職年齢は比較的低いと言われている。現在一般的には55~60歳となっており、今後の人手不足問題において政府は定年退職年齢の引き上げを検討しており、2024年には60歳から63歳に引き上げる予定。
・ビザの延長
タイはその年中暖かい気温と物価の安さで外国人に人気が高いため、Long-stayビザを1年から10年に改革する予定。
このように話題にあがったいくつかのトピックスを見ても、タイが日本と同様に高齢化社会に直面し、またその対策もまだ整っていないことが窺えます。高齢化対策は、あらゆる手立てを同時並行で進めていかなければならず、一足飛びに解決するものでないことは我々がよく知るところなのではないでしょうか。
タイにおいては、この高齢化問題に対し一律の解決策を提供するというよりは、むしろ成長期に当たり前であった考え方を現在の実態にすり合わせていくため、環境を変えることで少しずつ考え方を変えていくことを目指し、新たな制度を導入している段階といった印象です。
最後に、高齢化問題は、高齢化先進国である日本において様々な事例が存在するはずです。このように同じ問題を抱えていくタイにおいて、我々は問題解決のため、多くの協力ができるのではないでしょうか、その協力の中には、もちろん大きなビジネスチャンスが存在することも間違いありません。
参考
タイ健康省(老人ホーム作りの対策)
https://www.thaihealth.or.th/
タイ政府年金基金(年金の計算法)
https://www.gpf.or.th/
タイ公務員委員会(年金)
https://www.ocsc.go.th/
タイ銀行(サプリメント、高齢化対策、高齢者市場)
https://www.scbeic.com/
<会社概要>
株式会社gr.a.m
東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー24F
03-6859-2252
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