グローバルコラム
シリーズ 成長市場で勝つ (3)インド消費財市場へ販売 ~現地事情を把握して手法とタイミングを見極める~〔2/2〕
公開日:
株式会社gr.a.m
代表取締役
谷村 真
人口13億人を抱えるインドは、その半数が25歳未満と持続的な成長を期待できる有望なマーケットであり、特に消費財市場においては中間層の台頭により一層の可能性が見込まれています。前回のコラムではインド消費財市場へ参入する際の手法についてお話ししましたので、今回はタイミングについて考察をお届けしたいと思います。
お金がない!インドマーケット
2016年11月8日に突如発表されたた旧高額紙幣(旧 500 ルピー紙幣及び 1,000 ルピー紙幣)の無効化、ならびに新500ルピー紙幣及び 2,000 ルピー紙幣の導入によってインド市場は混乱に陥りました。その目的は、偽造紙幣、マネーロンダリングなどブラックマネーの根絶を目指すためのようですが、現金商売が主流のインド人にとっては商売自体ができない状況です。廃止した高額紙幣の流通量は全体の80%を超え、翌日から新紙幣の交換にATMは長蛇の列と化しました。インドはそもそも現金を用いる国。ボストンコンサルティンググループの調査によると、現金決済の割合は78%に上るとも言われています。銀行口座利用率も50%と低く、またクレジットカード保有率も2%程度です。給料の支払いも現金で行うことも当たり前であり、このような状況によってモノを売らない、モノを買わない、モノを売れない、モノを買えない、給料が払えない、仕事をしないといった循環を作ってしまいました。
ただ、政府が新紙幣を導入した意図も理解できます。ブラックマネーもさることながら、インドでは所得税を支払っている人は全体の1%しかいないと言われています。所得基準や農業従事者など、幅広く無税になる政策があり、これをうまく利用して税金を逃れている国民が多数存在し、また、このような政策を利用する国民は銀行口座など利用しない、いわゆるタンス預金組となっています。
一時的に世間からお金が消えたように見える新紙幣の導入も、このような商取引の実態や現金管理をできていない現況を打破するために実施されました。そして、政府が打ち出した政策である、すべての国民に銀行口座を開設させ近代的金融サービスを普及させる「ジャン・ダン・ヨジャナ」や、行政事務の電子化を進める「デジタル・インディア」などと歩調を合わせ、着々と商取引の透明化や税収増をもくろんでいます。
つまりインドでは高額紙幣の回収、交換によりどの程度紙幣が流通しているのか把握し、ブラックマネーを根絶し急速に近代金融化へと促しています。
余談ですが、この新紙幣導入の影響は経済や商売だけでなく家庭にまで影響を及ぼしています。経済の側面では、この施策が個人消費の足かせとなり、急速に下押し圧力がかかる状況に陥っており、商売の側面では、前述したようにインドでは約8割が現金商売であるため、買えない、買わない、払えないといった形で特に小売、建設業、一次産業の関わる人たちにとっては死活問題にまでなっています。
家庭の側面では、高額紙幣の交換により、家庭におけるアングラマネーであるへそくりが大きな問題を引き起こしています。旧紙幣を期限内に銀行口座へ振り込まなくてはならないことや1日3000ルピーしか交換ができないことで、ATMや銀行へ走らなくてはならず、こつこつ貯めたへそくりが白日の下にさらされ、大きな家庭不和を生むこととなりました。
その他、現地の新聞によると、学生が授業に出ず一日中ATMに並びながら勉強する姿が掲載されるなど、予想を超えた状況を生んでおり、あらゆる側面で悪影響を及ぼしました。 経済や商売の側面には常に政策などによるフォローがあると思われますが、ぜひ家庭不和や学生環境にも上手くフォローできる政策を打ち出してほしいものです。
現地事情を把握してタイミングを見極める
このような環境でモノが売れるわけがありません。通常インドでは12月の年末シーズンが最もモノを購入するシーズンであるため、我々もそのタイミングに合わせいくつかのテストマーケティングを準備していましたが、中止を判断したり、2月にまで時期をずらしたりと、このインドドタバタ劇の影響が直撃しました。今回のインドの事象はあらゆる想定の枠組みを越えていますが、まさに予測不能な事象が起こり得るのがインド。このように不測の事態がおきた場合は、インドには一定のリスクはあるものだと捉え、その事象に柔軟に対応していくしかありません。
ただ、インドで起こり得る事象はすべて不測の事態かといえばそうではないと考えます。事象はインドの文化、歴史、商習慣・環境、意思、行動によって作られていることがほとんどです。
例えば、「国民の休日を知っていますか」「そのお祭りは何教ですか」「余暇はどこに行きますか」「娯楽といえば」「スポーツイベントの開催日は」など消費を牽引する現地ならではの事情を知ること、またその事情がどのような意思や行動につながっていくのかを把握することで、タイミングに合った施策を展開することが可能となるのではないでしょうか。そのために常に、現地事情にアンテナを張って最善のタイミングを図ることが重要なのです。
最も怖いことは、情報を持たずタイミングを図れないケースです。
1年前に計画した予定調和を推し進め、情報の機微に触れず不測の事態を日常として捉え戦略を練っているかもしれません。現地事情を捉えてタイミングを図ることは、インドだけでなく経験則で計れない成長国では共通して言える極めて重要な要素なのではないでしょうか。
最後に、個人的には個人消費が回復に至るにそれほど時間はかからないのではと感じています。特にこの一連のドタバタ劇により抑えられたインド国民の消費欲求は、条件が整えば大きく反発するのではないかと思っています。
また、多くの見方では中長期的には効果的であるといったようにポジティブな様相であり、このようなお金の透明化、近代金融システムの浸透、キャッシュレス化、デジタル化の流れは経済的側面だけでなくインドの商習慣、意識、行動に大きな変化を生み、やがて新たなチャンスが生まれます。そのタイミングを掴むために、常に変化を捉えられる体制で臨みたいものです。
<会社概要>
株式会社gr.a.m
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