グローバルコラム
中国における贈り物のタブー~流行っている、けれど贈ってはいけない
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株式会社クロス・マーケティング リサーチ・ソリューション部
前田 直人
クロス・マーケティングでは国内にとどまらず、グローバルでも調査を実施しています。コロナ禍が明けたあと、お客様とともに各国へ赴いて実施する調査も増えてきました。定性的なインタビューが最も多いものの、家庭訪問や特定のイベントに参加した方にヒアリングを行う出口調査、また通りを行き交う生活者にヒアリングするストリートキャッチなどもあります。このような調査では、一般的な「お金」を謝礼としてお支払いするのではなく、ノベルティをお渡しすることもあります。今回は、そのようなノベルティに関するちょっとした失敗談についてお話ししたいと思います。
中国での贈り物は文化的な意味合いに注意
筆者が中国のある都市で、イベントの出口調査を担当したときのことです。その際は、ノベルティをお客様側で複数ご用意され、謝礼の代わりに好きなノベルティを選んでお持ち帰り頂きました。ノベルティをご用意するにあたっては、ある程度現地で流行っているものなど、人気の商品を参考にしながら選ぶことも多いようです。そのなかで、かなり余ってしまったものがありました。何でしょうか。「傘」と「緑の傘」の意外な意味
それが「傘」でした。特に、特定の色の傘はご参加いただいた対象者の方にもご指摘を受けるくらい評判が悪く、ほとんど手に取って頂くことはありませんでした。中国では「傘」を「san」と発音し、それは「散」と同じ発音になります。つまり、「散り散りばらばらになる」ことが連想されるため、贈り物としてはとても不適当だったのです。これに輪をかけて良くなかったのが「緑の傘」でした。これは、「緑の帽子」を被るのは「妻に逃げられた夫」を意味することから、たいへん不名誉な意味になってしまいます。同じように、「緑の傘」もほぼ同じような意図で受け止められてしまうことから「緑の傘」は敬遠されてしまい、回答を終えられた方からも「緑の傘を選ぶ中国人なんていないと思うよ」といった指摘を頂きました。
当時、中国では簡便な折り畳み傘は重宝されていたものの、やはりノベルティ=贈り物としては選んではいけないものでした。こうした、便利なものであっても各国では不名誉なものになってしまったり、タブーになるものがあります。
ネガティブな意味をもつ同音異義語の贈り物はタブー
引き続き、中国で「贈ってはいけない」ものを見てみましょう。中国でタブーとされるものは、悪い意味を持つ言葉の発音と同じ場合、贈り物としてはタブーになってしまうものが多くあります。いくつか事例を取り上げます。
時計
非常に有名な例が「時計」です。中国語を学ぶときに、教科書にも出てくることがあり、ご存じの方も多いかもしれません。時計は「鐘」、発音は「zhong」となり、これは「終」の発音「zhong」と同じになるため、やはり贈り物としてはたいへん不適当であり、中国のタブー事例としてはとても有名です。靴
靴はプレゼントとしてはあまり一般的ではないかもしれませんが、それでも中国では贈ってはいけないものの例としてよく取り上げられます。これも、傘や時計のように発音に由来する背景があり、靴の発音が「xie」である一方、「邪」もまた「xie」であることから、邪のものを贈ってしまうことに繋がります。親しい間柄などで贈るのは避けたい商品です。梨とスモモ
果物は日本の場合、お中元やお歳暮で選ばれる商品としてよく見られるものですが、中国においてはいくつか贈り物には合わない種類があります。それが梨とスモモ(李)です。これは発音がそれぞれ「li」となり、中国語の「離」と同じため、離れ離れになってしまうことを想像させます。やはり、親しい方に贈る商品としては適当ではありません。こうした、便利なものであっても各国では不名誉なものになってしまったり、タブーになるものがあります。マイナスなイメージのあるモノもタブー
この他にも、モノそのものが持つイメージや使われる背景によって忌み嫌われる場合もあります。ナイフ
ナイフはその見た目通り、何かを切るための道具なので、相手を傷つけたり、壊したりするイメージを持たれるため、やはり中国では贈り物として不適当になります。嘘か真か、中国のポータルサイトを辿っていくと、「友人にナイフを贈ったところ、資産が急減した」などの逸話も目にすることができます。ローソクやお香
日本ではローソクやお香はプレゼントとして選ばれることもありますが、中国では葬式に使われる印象が強く、忌避されます。ただ、近年はおしゃれなローソクやお香なども販売されるようになっており、昔のように完全に忌避されることはないようです。とはいえ、年代によっては避けたほうが良いでしょう。リサーチ結果を読み解くための文化理解
さて、中国のリサーチ現場からノベルティについてのトラブルを経て、贈り物のタブーをご紹介しました。実は、こうした知識はリサーチのなかでもとても重要です。日本国内の調査ではあまり話題にはなりませんが、グローバル調査では、しばしばこうした文化理解が必要とされるからです。
例えば、調査結果を受け取った顧客からは、「なぜ、このような結果になるのかわからない」「データの背景が読み解けない」といったご相談を頂くことがあります。この背景の一つには、各国の社会文化的な背景に対する理解の有無があるのです。冒頭の傘の話に戻りましょう。中国で新しい傘を売ろうとしたとき、こうした文化的な背景に対する理解がないと、「なぜ特定の色の人気がないのか」「特定の用途でしか用いられないのか」といったことは読み解けません。
グローバル調査の推進にあたっては、分析手法やデータ解析の技術のみならず、ぜひこうした現地の文化や社会習慣についても目を向けて頂きたいと思います。
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株式会社クロス・マーケティング リサーチ・ソリューション部
中国少数民族の研究から大学教員を経てマーケティングリサーチに転身した異色のリサーチャー。特に中華圏におけるモビリティ業界のリサーチを数多く経験しており、モーターショーをはじめとするイベント調査や出口調査、カークリニックなどのフィールド調査が得意領域。2021年よりクロス・マーケティングに参画。
前田 直人
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