グローバルコラム

中国ダブル・イレブンからみるEC購買の変化の兆し~脱イベント化する若者たち

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前田 直人
株式会社クロス・マーケティング リサーチ・ソリューション部

前田 直人

中国少数民族の研究から大学教員を経てマーケティングリサーチに転身した異色のリサーチャー。特に中華圏におけるモビリティ業界のリサーチを数多く経験しており、モーターショーをはじめとするイベント調査や出口調査、カークリニックなどのフィールド調査が得意領域。2021年よりクロス・マーケティングに参画。
中国市場でもっとも大きな「消費の祭典」とみなされているのが「ダブル・イレブン」、世界最大規模のECセールです。もともとは11月11日、「1」が並ぶため「独身の日」などと称されており、この日は独身のあいだで相互にプレゼントをする動きがあったところ、これが盛り上がりイベント化、いまや世界が注目する日になりました。今回は、売上高が毎年伸び続けるなか、垣間見えた変化の兆しを追いたいと思います。

イベント化した「消費」

筆者が中国在住時、やはりこの「ダブル・イレブン」を楽しみにしていた友人は多く、この日に何を買うのかリストを作っている人も多くいました。この日はどこも安くなるだろうという価格への期待感、そして「この日は買い物をする日なのだ」という雰囲気が醸成されていきます。出品者側も、この日にかける意気込みは強く、カウントダウンイベントを開いたり、目標額を掲げてみたり、目標が達成した暁にはやはりショーのようなお祭り騒ぎを演出してみたりと「盛大なイベント」を目にすることができます。

この動きに更なる拍車をかけたのはライブコマースでしょう。中国ではもともと商品の現物主義的な考えがあったり、購入者の口コミに影響を受けたりする傾向があります。そうした中、著名なインフルエンサーがネット上で「実演販売」をしながら、商品の魅力をアピールし、その場で質問への受け答えもし、値引きを行うなどのライブ感が消費者の購入意欲を掻き立てています。著名なインフルエンサーの場合、数分で億を稼ぐ人たちもおり、ライブコマースの影響力はECサイトでも顕著になっています。


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2023年のダブル・イレブン

しかし、2023年のダブル・イレブンは現地での評価が割れました。日本ではその成長を引き続き評価する声もあれば、そうでない評価もあったようです。数字を見てみましょう。全体の成約額は2434億元で、昨年比9.8%増となっており、額面自体は成長しています。しかし、昨年の成約額は2218億元で前年比26.2%増ですから、伸び率が落ちてきているのは間違いありません。では、ダブル・イレブンに参加した各大手ECサイトの売り上げはどうだったのでしょうか。同じように数字を見てみます。

 Alibaba(天猫・淘宝など)1898億元(昨年比8.5%増)
 京東 268億元(昨年比14.2%増)
 拼多多 156億元(昨年比18.8%増)
 美団 62億元(昨年比24.0%増)
 蘇寧 50億元(昨年比25.0%増)

このように、大手ECサイトはどこも数字を伸ばしています。また、さらに具体的な数字としては、402のブランドが億単位の売り上げを記録していること、そのうち243が国産ブランドだったこと。つまり、中国のブランドが大きく成長しているようです。また、3.8万のブランドで昨対比100%超えとなっており、業績を伸ばすブランドが多かったことも取り上げられています。このほか、三線以下の都市でユーザー数が2000万純増し、成約額も1.4億元を超えたといった報道もありました。つまり、大都市だけではなく、地方からの消費が下支えしているという見方です。このほか、上述した通りライブコマースの好調さも伝えられており、58のライブコマースで億単位の売り上げを記録したようです。このように、国産ブランドの伸長、地方都市のユーザー像、ライブコマースの影響などから売り上げ自体は伸ばしているものの、ネガティブな声も聞かれました。

祭りの終わり、イベントからの脱出

マイナスの評価としては、冒頭に取り上げたように成長率の鈍化です。これまでのように2桁成長はもう見込めないのではないかとの論調も一部では聞かれています。その背景としては、SNS上での注目度の低さがあります。大手ポータルサイト・百度の検索指数を見ると、「ダブル・イレブン」の検索指数は2017年から一貫して下げ続けているのです。もちろん、イベントとして定着したことの証左でもあるため、これをもって一概に鈍化とは言えないかもしれませんが、少なくとも検索されなくなったワードになりつつあることは言えそうです。

もうひとつは中国版ツイッターと言われて久しい中国SNSの雄・Weiboで「ダブル・イレブン」を見かけなくなったことです。こちらもホットワードの履歴を探索すると、年々「ダブル・イレブン」はホットワードとして登場することが少なくなっているようです。つまり、先の検索指数と合わせ、ネットにおける「ダブル・イレブン」の出現率は確かに低くなっていると言えそうです。なぜでしょうか。

ECサイトの同質化は現地のコラムでも指摘されている点です。現状、Alibaba傘下の天猫を含め、多くのECサイト「ダブル・イレブン」に乗じてセールをうっていますが、他のどれもがおおむね同じような仕組みと仕掛けになっており、既に新味がなくなっているといいます。また、消費者ニーズはかなり変化してきたというニュースやコラムも多く目にします。これまでのように、「モノを買う」以外の消費の形が多くあり、コト消費、イミ消費に見られる、モノではない消費がさらに存在感を増していることとも関連しているようです。

さらに現況の不況が足を引っ張っているとする論考もあります。歴史的な失業率の上昇に加え、経済が不調な状況でこの「祭り」に乗るような状況ではない側面もありそうです。Weiboにおける「ダブル・イレブン」の評価を見ると「お金がない」「つまらない」「面倒だ」などの否定的な単語が目につきます。中国語では「冷清」といいますが、日本語で言う「物寂しい」、つまり「人があまりいない」ように見えた消費者もいたようです。このように、数字的にはまだ成長している「ダブル・イレブン」ですが、ネットユーザーには既に冷めて見える部分もあるようです。


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若者たちの脱・イベント

「ダブル・イレブン」に関する掲示板や口コミを見てみると、「お金がない」「ローンが苦しい」「ダブル・イレブンの時に実は値を上げてそこから下げた」「これからはアップグレード消費からダウングレード消費だ」「もうとっくにさびれている」など、怨嗟の声があちこちで飛び交っていました。今回の「ダブル・イレブン」は日系各ブランドも不調だったところがあるようで、こうした景気低迷の影響をうけたようです。

実際、これと軌を一にするように、最近の若者の潮流を見ていると、これと一致するような事象が多く見られます。例えばCity Walkです。これは単に街をぶらぶらと歩きながら、その街の新しい側面を発見する要素があります。また、SNSでは節約術や、賢い買い物方法など、合理的な消費のコツを喧伝するものが増えてきました。「ダブル・イレブン」はECサイトにおける一大イベントとして、中国のみならず世界から注目されるイベントに成長しましたが、こうした「合理的な消費者」の増加は、今後の「ダブル・イレブン」の在り方に影響を与えるでしょう。これまで、ECサイトでの販売に頼っていた日系各社(もちろん中国ブランドもですが)は新しい戦略の創出が必要になりそうです。みんなが購入しているから自分も購入しなくてはいけない、そんなイベントが終わり、自分に必要なものを適正な価格で手に入れる、そうした風潮が今後は強くなるかもしれません。


【参考サイト】
略講財経 https://baijiahao.baidu.com/s?id=1782447073446825798
 

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前田 直人

株式会社クロス・マーケティング リサーチ・ソリューション部

中国少数民族の研究から大学教員を経てマーケティングリサーチに転身した異色のリサーチャー。特に中華圏におけるモビリティ業界のリサーチを数多く経験しており、モーターショーをはじめとするイベント調査や出口調査、カークリニックなどのフィールド調査が得意領域。2021年よりクロス・マーケティングに参画。

前田 直人

お問い合わせ先 : glb@cross-m.co.jp

 

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