グローバルコラム

活気あふれる台湾・夜市に学ぶマーケティングの基本 ~夜市が愛され続ける理由を探る~

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株式会社クロス・マーケティング リサーチソリューション本部 シニアリサーチャー

尚 智栄

前職外資系調査会社で日本市場と海外市場のリサーチ業務に従事し、現在クロス・マーケティングでグローバル・リサーチャーとして数多くの海外リサーチの定性・定量調査を担当。海外市場開拓から現地消費者のニーズ・実態把握まで幅広いテーマの調査経験を持つ。
新型コロナウイルス感染拡大が落ち着き、経済活動が再開して移動が自由になった今年、久しぶりに台湾を訪れました。台湾といえばやっぱり夜市!新型コロナウイルス拡大時には街全体がロックダウン状態になり、夜市の多くの店が撤退や閉店したと聞いていましたが、現在の状況はどのようになっているのでしょうか。以前のように夜市は復活したのか、コロナ前と何か変化があったのか。 とにかく夜市で美味しいものが食べたいと意気込んで夜市をいろいろ回っていると、屋台で出している食べ物やそこに訪れる人にそれぞれ特徴があることに気づきました。これはマーケティングの視点で捉えると面白いのではないかと考え、3つの夜市(「士林夜市」「寧夏夜市」「公館夜市」)について屋台のタイプや利用者の属性など各夜市の特徴をまとめてみました。

台北最大規模の夜市である「士林夜市」の特徴

士林夜市は1910年にできた夜市で歴史も古く、老若男女問わず地元住民に愛されていてる夜市です。屋台グルメを求めてやってくる観光客が多いことも特徴的です。台北で最も大きな夜市のため、そこで出店している店も地元グルメを提供する店、観光客向けにB級グルメを提供する店、ゲームやUFOキャッチャー、景品当てなど子供や若者が遊べる店など、様々なタイプの店が集結していて、誰でも楽しめるエンターテインメント・ナイトマーケットになっています。


写真 士林市場


コロナ前にも士林夜市に行ったことはありましたが、数年前にはなかったグルメ屋台やフィギュアの店が今回続々と出店しており、それらが夜市に新しい風を吹き込んでいるような印象を受けました。


写真 地元住民に人気のお店:煎餅、臭豆腐


現地の人に話を聞くと、夜市に出店する屋台を取りまとめる組織があり(すべての夜市ではない)、現在何が人気なのか、集客できるコンテンツは何なのかを考えて、出すお店を決めているとのことでした。今回士林夜市には、数年前にはほとんど見られなかった「タコ焼き(中味はカスタマイズされているものもよくある)」や「アニメ・漫画・キャラクターグッズの店」、「フィギュア店」が多くみられたのは、今の若者の流行を敏感によみとり、若者に来てもらおうという狙いがあるのかもしれません。またキャラクターグッズやフィギュアの店が軒並み増えたのは昨今の日本アニメ・漫画やキャラクターへの興味が高まっていることの表れなのかもしれないと思われます。


写真 地元住民に人気のお店:斬新なタコ焼き、エリンギ焼き


実際に、街中で、アニメ系イベントやキャラクターとコラボしたコンビニ店、好きなアニメでデコレーションしたバイクに乗っている人を見かけました。 日常の様々な場面でこんなにも日本のものに触れる機会があることに少々驚きましたが、色んなところで日本文化が親しまれているようでとても興味深かったです。


写真 キャラクターグッズ・雑貨店、写真 景品当てゲームの店


話を士林夜市に戻すと、昔から変わらない味・娯楽を提供する一方で、現在のトレンドもきちんと取り入れているところが、活気が絶えずいろんな人を楽しませる最大規模の夜市の魅力なのではと感じました。

台北の中心地にある「寧夏夜市」の特徴

寧夏夜市は、伝統的な屋台料理が多くグルメ・マーケットとしても知られています。コンパクトで規模はそれほど大きくはありませんが、台北の中心地にあり、MRT(地下鉄)の駅から徒歩で行けるためとても利用しやすい立地にあることも特徴の一つです。


写真 寧夏夜市の看板


寧夏夜市にはローカルフードを提供する店が軒並み連ねており、私が訪れた平日の夜には仕事帰りの人や地元の家族連れ、さくっと夕飯を済まそうと立ち寄る人が多く見られました。士林夜市のように観光地化しておらず、通り一帯が大きな大衆食堂のような気楽さがあり、一人でも誰かと一緒でも気負わずふらっとと立ち寄れるようなそんな雰囲気の夜市でした。


写真 寧夏夜市のイートインスペース

最もローカル色の強い「公館夜市」の特徴

公館夜市は、国立台湾大学や小学校などがある学生街に位置していて、すぐ近くにある水源市場(食堂や食材を売る店がたくさん集まっている)を含め駅周辺一帯が夜市を形成しています。3つの夜市の中で最もローカル色が強く、他の夜市のようにわかりやすく入り口のゲートがあるわけではないためか、大学生や地元住民の利用が多いように見受けられました。実際に夕方になると、学生だけでなく大人も含めて多くの人で食事をしてにぎわっていました。


写真 公館夜市の看板、写真 水源市場


周辺に水源市場や飲食店が多いこともあり、公館夜市は他の夜市のようにテーブルで食べられる屋台は少なく、学生には嬉しい小腹が空いたときの軽食にぴったりなテイクアウト専門のお店が多く出店していました。


写真 学生に人気の屋台スナック


士林夜市でもあった「タコ焼き」の屋台は、台湾の人たちに人気なのか公館夜市でも行列ができていましたが、士林夜市のタコ焼きとの違いは、中に入った具材が斬新なものではなく王道の味のものでした。また、公館夜市では「パスタ」が屋台で売られていたことも特徴的でした。台湾ではパスタは「義大利麺(イタリア麺)」と呼ばれ、コンビニでもチルド麺のパスタ商品がたくさん販売されています。特に若者を中心に人気があるため、まさしく学生街の夜市らしいと感じました。


写真 公館夜市のタコ焼き屋台、写真 若者に人気のパスタ屋台、写真 モバイルオーダーにも対応、写真 若者が多く並ぶ屋台


3つの夜市の特徴

ここまで見てきたように、3つの夜市はそれぞれエリアの特性があり、そこに集まる属性のニーズに合ったグルメやサービスを提供していることがわかりました。

<3つの夜市の特徴のまとめ>
※執筆者個人が感じた印象をもとに作成
名称 エリア
(場所)
訪れる人の属性
(ターゲット層)
提供しているサービス
(商品)
士林夜市 やや中心街から離れているが、
電車で行くことができ
アクセスはよい
観光地としても人気
地元住民(老若男女問わず)
観光客
地元グルメ
B級グルメ
新奇性を狙ったグルメ
ゲーム・雑貨・趣味などの
レジャー商品も豊富
寧夏夜市 中心街
仕事帰りに立ち寄りやすい場所
地元住民
(家族連れ、
会社帰りに同僚と、
1人で)
主にご飯もの
軽食(スナック)
公館夜市 学生街 学生 主にテイクアウト用の軽食
(スナック)


つまり、エリア特性を活かしたターゲティングが成功しており、ターゲットニーズに合ったコンテンツを提供することで、集客につながっている様子がみられました。提供する側とサービスを受ける側がWin-Winの関係を築いているこれらの夜市は、マーケティングの視点でみると理想のビジネス循環を叶えているのではないかと考えます。

単なるナイトマーケットではなく、いまや“(屋台)文化”となっている夜市。コロナ禍に強制閉鎖され多くの店舗が閉店に追い込まれたようですが、ポストコロナとなった現在、地元民や観光客が戻ってすぐに活気を取り戻している点は、夜市の魅力的なコンテンツとそこに集まる人たちのパワーが底堅いことを証明しています。

久しぶりに訪れた台湾の夜市で、美味しいご飯を食べながらマーケティングの成功例を目のあたりにし、多くの刺激や気づきを得ることができました。また次回台湾に来る機会があれば、これらの夜市を再訪し、どのような変化があったのか(なかったのか)をぜひ見てみたいと思います。

 

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尚 智栄

株式会社クロス・マーケティング リサーチソリューション本部 シニアリサーチャー

前職外資系調査会社で日本市場と海外市場のリサーチ業務に従事し、現在クロス・マーケティングでグローバル・リサーチャーとして数多くの海外リサーチの定性・定量調査を担当。海外市場開拓から現地消費者のニーズ・実態把握まで幅広いテーマの調査経験を持つ。

尚 智栄

お問い合わせ先 : glb@cross-m.co.jp

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