グローバルコラム

インドネシアの消費者を混同させる現地製品パッケージ上の日本語

Facebook X
株式会社クロス・マーケティング リサーチソリューション本部

藤田 隆太郎

中東地域をフィールドに、モノと人々の行動の関係性を探る考古学研究をバックグラウンドに持つ。
古今東西を問わず人々の生活に近づくことをライフワークとすべく、2021年よりクロス・マーケティングで
リサーチャーとして従事。とりわけ食を通じたイノベーションに関心。
成長著しい東南アジアの都市において、日本ブランドは大きな存在感を放っています。それにあやかるように、ローカルの企業にも関わらず商品のパッケージや看板にあえて日本語の文字を配したものが多くみられます。大きなスーパーから街角の売店まで日系企業の商品が並んでいる中で、ローカル企業は日本語をどんな意図で用い、消費者はどう受け取っているのでしょうか。今回はジャカルタの街角やスーパーの棚から、現地で暮らす生活者の「パッケージ上の日本語」の受け止め方を見ていきたいと思います。

現地企業がパッケージに「あえて」取り入れた日本語

はじめに、インドネシアの首都・ジャカルタのコンビニやスーパーで、筆者が2023年5月に訪れた際に撮ってきた写真をご覧ください。


写真 ヘアケア用品「ナチュラル抗菌 ZEN」「しんずい」、写真 マスク「バグス」(良い、すばらしいという意味のインドネシア語)、写真 飲料「はちみつ・レモン」、写真 飲むヨーグルト「ヨーグルト」


これまでの日本企業の試行錯誤と努力により、インドネシアでは、一般的に日本製品は品質の良さや信頼感を持たれていると言われています。ここでローカル企業が日本語をパッケージに取り入れることを見てきたうえでの仮説として、「パッケージに日本語があることによって、消費者は製品の品質の良さやおいしさを感じ取り、商品を棚から手に取りやすくなるのではないか」と考えられないでしょうか。

ローカル企業は、写真にあるようにパッケージにあえて日本語を使うことで販促効果を狙っていると考えられます。

日本製だと勘違いされる現地企業のパッケージ

では実際、現地の消費者たちは、どれが日本製のもので、どれが現地企業の商品なのか区別できているのでしょうか。
当社グループ会社Kadence Indonesiaリサーチャーのフェブリ氏によると、現在インドネシアの多くの消費者は、特に耐久消費財カテゴリや高価格帯のFMCGカテゴリにおいて、どれが外国製か識別できていると言います。しかし、1990年代後半から現地企業がマーケティング目的でパッケージに外国語を使うことが増え、インドネシア国内のものでも消費者に「輸入品」だと混同される場面が出てきたと説明しました。

先ほどの写真で挙げたような日本企業のブランドではない商品について、どうして日本語が書かれているか聞くと、現地協力会社F.K.氏は「Somehow(どういうわけか)」と言って肩をすくめ、続けて「日本企業はたくさん進出しているから、たぶん日本の商品なのではないか」と述べました。つまり、消費者目線では、日本語が記載されることによって、日本製の商品だと勘違いしてしまうこともあるようです。

日本の商品が誤読されている例:おでん

もう一つの例として、おでんを挙げたいと思います。
インドネシアでは外資系の小規模小売店の進出に対して規制が強く、ローソンやファミリーマートなど日系コンビニチェーンは、イートインスペースを作り、飲食店扱いで出店することに活路を見出してきました。そこで導入したイートインスペースは、ローカルコンビニチェーン「Indomaret」や「Alfamart」でも取り入れられることで広く定着し、インドネシア人にとってモダンな「ノンクロン(※1)」の場のひとつとなっています。(※2)
おでんもローカルコンビニチェーンが日本のコンビニチェーンの進出後に展開した商品のひとつと考えられ、店先にひらがなで看板が立っていました。

話を現地での日本のものの受け止められ方に戻しましょう。
前出のF.K.氏は、おでんの具を観察する私に、「おでんは韓国のものだよね」と話し、現地のいち消費者としては、新しく入ってきたもののルーツは、日本人が思うほどには顧みられていないことがうかがえたのです。

※1:対応する日本語はないが、たむろするや駄弁るといった意味が近い。インドネシア人も実際によく使う単語であった。
※2:下田恭美 2021「ムスリム社会の消費傾向とイートイン空間」,佐藤寛・アジアコンビニ研究会(編)『コンビニからアジアを覗く』pp.191-193,日本評論社


写真 Alfamartの入り口の看板「おでん」の文字、写真 ODENのラインナップ

海外消費者の日本語への潜在意識をふまえたパッケージの差別化へ

ジャカルタをはじめ、東南アジアでは日本ブランドの食品や日用品が好意的に受容されていることは間違いありません。ローカル企業はたくましくも日本語をパッケージに取り入れることで、何らかの販促効果を狙っていると考えられます。

現状として垣間見えたのは、日本語の文字は、現地の生活者にとっては読めないながらも視野に入っており、なんとなく外国や日本の商品として受け止めたり、受け流したりしているということでした。
パッケージの日本語が購入の決め手や直接的な判断材料になることは店頭での観察では確認できませんでした。しかし、生活者の表面的な意識にはのぼらないようなレベルで影響を与えている可能性があります。

氾濫する日本語表記に埋もれてしまわないために、あるいは本当に日本ブランドであることで現地でのポジショニングを確立するためには、どのような表記が効果的なのか、パッケージの観点で生活者への見せ方を考える余地があると言えます。
商品を各国の消費者がどのような感覚で眺めているかを知ることで、日本語が読めないにしても好感度を持ってもらい、購入を考えてもらえるコミュニケーションを、パッケージ上で繰り広げることができるでしょう。

 

このライターに海外調査について相談をする

藤田 隆太郎

株式会社クロス・マーケティング リサーチ・ソリューション部

中東地域をフィールドに、モノと人々の行動の関係性を探る考古学研究をバックグラウンドに持つ。古今東西を問わず人々の生活に近づくことをライフワークとすべく、2021年よりクロス・マーケティングでリサーチャーとして従事。とりわけ食を通じたイノベーションに関心。

藤田 隆太郎

お問い合わせ先 : glb@cross-m.co.jp

関連コラム

マーケティングコラム
あの世代の呼び方は何?各世代へのマーケティング方法もご紹介
「団塊の世代」や「Z世代」など、生まれた世代によってさまざまな名称が付けられています。マーケティング担当者であれば、それぞれの世代の名称と特徴を把握し、世代ごとにあわせたマーケティングを実施しましょう。 本記事では、それぞれの世代の呼び方について説明し、各世代に合ったマーケティング方法を解説します。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
マーケティングコラム
独身の人が増えすぎている?未婚の割合や増加の理由を解説
結婚して家庭をもつことが当たり前だった時代からは一変し、生涯を独身で過ごす人が増えています。なぜ未婚率が高くなっているのでしょうか。今回は、未婚の割合や未婚の人が増えている理由について解説します。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
マーケティングコラム
中学生のスマホ使用時間の理想はどれくらい?スマホが及ぼす影響も紹介
近年、中学生からスマホを持たせる家庭が多いなか、使用時間の長さが問題視されているケースが多く見受けられます。スマホの使用時間が長いと学力に影響するといわれることもあり、子どもを持つ親からすると、「適切な使用時間の範囲で使わせたい」と考える方もいるようです。 今回は、中学生がスマホを使う時間の理想をはじめ、使用時間が長いとどのような影響を及ぼすのかを解説します。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
マーケティングコラム
α世代の次の世代とは?β世代の特徴や取り巻く環境を予測しよう
今注目されているZ世代の次がα世代と呼ばれており、さらにその次がβ世代にあたります。Z世代以降は、デジタルネイティブであることが特徴ですが、マーケティング担当者や商品の開発担当者であれば、β世代とはどのような世代なのか、今と取り巻く環境がどのように変化しているのか気になるのではないでしょうか。今回は、β世代の特徴やβ世代を取り巻く環境について解説します。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
マーケティングコラム
推し活の経済効果はどれくらい?市場規模と推し活マーケティングのメリットとは
若年層に適確なアプローチができないなど、従来のマーケティング手法に限界を感じてはいませんか。商品やサービスのターゲットとして、「推し活に力を入れる消費者」に絞る方法もあります。 推し活とは、推し(お気に入りのキャラやアイドルなど)を応援する活動のことです。今回は、推し活の経済効果や企業が推し活マーケティングに力を入れるメリットについて紹介します。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
マーケティングコラム
犬派か猫派か?どちらが人気?性格や相性を徹底解剖!
ペットを飼っている人や、これから飼いたいと考えている人にとって気になるのが「犬と猫はどちらが人気なのか?」という点ではないでしょうか。また、犬派と猫派それぞれの性格や相性などについて気になる人も多いかと思います。本記事では、犬派と猫派どちらが多いのか、また性格や相性はどうかを徹底解剖します。弊社で行ったアンケート結果もふまえて解説していきますので、ぜひ最後までご覧ください。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
マーケティングコラム
団塊の世代はいついなくなる?高齢化で生じる問題と対策を紹介
団塊の世代は、全人口に占める割合の大きさから、社会に多大なる影響を与えてきました。高齢化の話題に接して、団塊の世代の存在感に驚いた方もいるのではないでしょうか。今回は、団塊の世代の高齢化問題と企業の対策について紹介します。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
デジタルマーケティングコラム
話題のBeRealはなぜ人気があるのか?特徴や注意点、ビジネス利用も解説
「BeReal」は、通知から2分以内に投稿しないと友人の投稿を見られない、写真の編集機能がないなどの特性があり、若者の間で人気のSNSです。 今回は、BeRealがなぜ人気なのか、主な特徴と支持される理由を紹介します。ビジネス展開のメリットもあわせて解説しているので、マーケティングをお考えの方は参考にしてください。
# デジタルマーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
デジタルマーケティングコラム
デジタルデトックスは効果なし?得られる効果と実践方法を解説
デジタルデトックスとは、一定期間スマートフォンやPCなどのデジタルツールから離れることで、ストレスを軽減する取り組みのことです。デジタルツールに囲まれて生活する方が多い現代社会のなかでは、ストレスや心身の疲れを緩和する効果が期待できるといわれています。 しかし、「デジタルデトックスには効果がない」といった意見も見受けられます。今回は、デジタルデトックスには効果がないといわれてしまう理由や、より効果的にデジタルツールと距離を置く方法について解説します。
# デジタルマーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
ご相談・お見積もり依頼
【法人・個人様】
フリーダイヤルでのお問い合わせ
0120-198-022
※ モニター様からのお電話でのお問い合わせは受け付けておりません。
資料ダウンロード