グローバルコラム
数ヵ月分の収入をつぎ込む!?「春節特需」
公開日:
Kadence International Inc.(China)
Regional Insight Director
Apollo Dai
今年、日本は10連休のゴールデンウィークがあったと聞きました。中国のゴールデンウィークといえば「春節(旧正月)」です。
普段はあまりヘアスタイルにこだわらない人たちも、この時期だけは人気のスタイリストにヘアカットをしてもらうなど、春節に向けて気合を入れます。サービス業では、この“稼ぎ時”を逃すまいと、例えば、レストランで料金が通常の10~20パーセント増しになったり、洗車料金が約2倍になったりすることもあります。中国の中部や西部の都市は、特にこの時期に購買力が高まります。世界的な都市である上海と北西部にある西安の消費額を比べても、上海で約17億元(約266億円)、西安で約27億元(約423億円)と、西安の消費額が大きく上回っています。中国全体では、親戚関係やレジャー、旅行、文化に関する消費が急速に増え、春節関連の消費額は、前年に比べ8.5%増加し、初めて約1,480元(約2兆3,180億円)を超えました。
新年を迎えるにあたり、特別なものを家族や、時には自分自身に贈る伝統も変わっていません。お店側もさまざまなプロモーションを展開しており、百貨店やスーパー、ショッピングモール、アウトレットの売上げもこの時期に急速に伸びます。
また、毎年趣向をこらした春節限定商品が店頭やオンラインショップの棚に並びます。海外の有名ブランドの洋服やバッグ、メイクアップ商品などが、最近の人気トレンドです。オンラインショップの利用が広がり、海外の有名ブランドの商品を購入するために第1都市を訪れる人々は少なくなりました。
年配者へのプレゼントにテクノロジー関連の商品を選ぶ人々も増えています。少し前のバージョンのスマートフォンやスマートウォッチ、食洗機、お掃除ロボットなどが多いようですが、今年の春節の時期は、コミュニケーションロボットが人気を博しました。アリババが開発した音声アシスタント「Tmall Genie」の売上げも、前年に比べて数百倍伸びたといいます。南東部にある福建省の小さな町では、その町だけで5300個の「Tmall Genie」が売れたそうです。
“春節イブ”は半日がかりで料理にいそしみ、家族そろって食事をすることが習慣になっていますが、最近は輸入品のシーフードや果物が人気です。チリ産のチェリーやロシア産のタラバガニ、タイ産のブロッコリーなどが食卓に並びます。最近はレストランなどでの外食も増えていますが、2019年の春節はテイクアウトを利用する人が増えました。
第3、第4都市では、帰省して家族や親戚で集まる伝統的な春節が一般的です。一方、第1、第2都市では、旅行に出かける人々も増えています。文化観光部の調査によると、春節の連休中の国内旅行消費額は、前年比7.6%増の約4億1,500万元(約65億円)となり、一部では伝統的な春節の過ごし方が変わってきていることがうかがえます。
特に若年層は、春節の連休を海外で過ごす人々が増えてきました。国家移民管理局によると、2019年の春節にアウトバウンドの旅行者は、前年比12.48%増の約631万人に達しました。ヨーロッパや米国に加え、日本や韓国も人気です。中国が推し進める広域経済圏構想「一帯一路」に含まれるミャンマーやインド、トルコなども旅行先として人気があり、旅行代理店も目玉商品にしています。冬の伝統的な雪まつりに加えて、個人のニーズに応じた“パーソナライズ”されたツアーも多く、温泉旅行からオーロラ鑑賞旅行まで、さまざまなツアーが企画されました。
国内では、北部の雪や南部の温暖気候を求めて旅行をする人々が増え、特に中国のハワイと言われる海南島は人気の高い観光地です。
春節を語る際に、映画も欠かせません。国が行っているある調査では、“春節イブ”からの一週間で映画館におけるチケットの売上げは、約58億4,000元(約913億円)に上ったそうです。中国初のSFブロックバスター映画『The Wandering Earth (流転の地球)』は、6日間で興行収入約20億元(約312億円)を達成しました。
第3、第4都市も、消費の潜在可能性を発揮しています。「Tmall(天猫)」(アリババグループが開設したECサイトで、中国で大きなシェアを獲得している)でも、第3、第4都市における春節の時期の消費が55%伸びており、第1都市の伸び率(51%)、第2都市の伸び率(54%)を上回っています。80年代、90年代生まれの人々が消費者の大部分を占める都市もあります。
中国の人々は基本的にはお金を使うことを嫌がる傾向がありますが、春節に伴う消費の爆発的な成長は、春節が例外であることを示しているでしょう。しかし、数ヵ月分の収入を短期間に散財することになる春節は、人々の負担になりつつあるのかもしれません。
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