グローバルコラム

世界最大のビール大国・中国

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「カンペー(乾杯)!」と高らかに叫び、グイーッとビールを飲むさまは、中国が貧しかった昔も世界第二位の経済大国となった今もまったく同じ。夏はもちろん、春でも秋でも冬でもとにかく人が集まれば、ビールで「カンペー!」するビール大好きな民族です。

年間生産量約5000万kl!超ビッグな中国ビール産業

こんな風に言うと「え!? 中国人は白酒や紹興酒じゃないの?」と思う方もいらっしゃるでしょう。たしかに、白酒も紹興酒も世界的に知られる伝統的なお酒で、中国の酒文化のシンボル的存在です。けれど、伝統的なお酒は値段もアルコール度数も高いので、みんなで思いっきり飲むにはふさわしくありません。一方、ビールは誰もが気軽に楽しめる人気のお酒なのです。

実際、2013年度の中国の酒類年間生産量を見ると、ビールは約5000万klと断トツで、白酒は1200万kl強、紹興酒は150万kl弱と遠く及びません。しかも、5000万klという数字は世界のビール総生産量(※1)の4分の1! まさに“世界最大のビール大国”にふさわしい結果です。

そんな中国の巨大なビール市場が、今、動きつつあります。



20141125_02夏の中国には簡易ビアガーデンがあちこちに登場。ザリガニやタニシ、羊肉串(シシカバブ―)を食べながら夜更けまで飲み続ける


中国ビール5強が繰り広げる白熱のシェア攻防戦

かつて中国のビールといえば、1903年に山東省の青島で誕生した中国で最も歴史ある「青島(チンタオ)ビール」が圧倒的な存在感でした。それが、猛烈な低価格戦略とM&A(合併・買収)で急成長した「雪花(シュエホァ)ビール」に、2006年に首位の座を奪われ、それ以来業界第2位となっています。

さらに、2011年にはバドワイザーなどで知られる外資の「百威英博(アンハイザー・ブッシュ・インベブ)」が業界第3位に躍進。それまでは、雪花ビールと青島ビールに、北京の地ビール「燕京(イエンジン)ビール」で“御三家”といわれていたのですが、その勢力図はここ数年で大きく変わりました。

現在は御三家に、百威英博と嘉士伯(カールスバーグ)の外資2社が加わり“5強”と呼ばれるようになっています。2013年度の順位はトップから雪花、青島、百威英博、燕京、嘉士伯となっており、5強の生産量で中国全国の75%を占有、80%越えも間近だと言われています。

国内ビールメーカー青島、雪花、燕京の御三家が圧倒的シェアを誇っていた時代から、現在の5強の時代への変化を掘り下げていくと、幾つかのキーワードが見えてきます。



20141125_03雪花(シュエホァ)ビール。2006年に業界1位となり、2011年には1000万klを達成し、現在全国シェアの20%強を占める


ブランド感とプチ贅沢が注目される中国ビール市場

1990年代から中国ビール業界はまさにM&A(合併・買収)合戦の時代でした。現在の中国ビール業界のトップ・雪花ビールは、まさにM&Aで飛躍した企業であり、今後もしばらくこの流れは続きそうですが、合併・買収だけでは消費者の心を掴めない時期がきているのも事実です。

かつて中国でビールは「水より安い」と言われていました。実際、10年ぐらい前まで大瓶が1.5元(約25円)程度で、ミネラルウォーターより安価でした。それが、原材料・人件費の高騰により利潤が確保できず、各メーカーじわじわと値上げを実行。それでも安価なものは大瓶3元前後で販売されているのですが、近年豊かになった中国の消費者たちは、「とにかく安く飲めればいい」という考えから、「少し高くても美味しいビールが飲みたい」と品質へのこだわりが出てきています。

そんな時流に乗るように、圧倒的な旨味を武器にした外資が飛躍し、アンハイザー・ブッシュ・インベブとカールスバーグが5強入りしたわけです。中国のビールはブランドごとに多少の違いはあるものの、全般的に極めてライトで「まるで水のような薄味」です。それに比べ、海外のビールは“コク”や“苦味”、“まろやかさ”や“香り高さ”といったブランドごとの特徴が明確に打ち出されていて、その時の気分や食事に合わせた「旨さ」の選択を楽しむことができます。 そして今、中国生産の海外ブランドのビールではない、海外からの輸入ビールが都市部を中心に人気を呼んでいます。特に世界で名高いドイツ、ベルギー、オランダビールは売れ筋で、普通のスーパーや庶民的なレストランで扱われていることも。販売価格は安いものなら500ml缶7元(約110円)ぐらい、平均でも15元(約250円)と一般人でも手に届くレベルの“プチ贅沢感”が魅力なわけです。



20141125_04スーパーのビール売場。美味な輸入ビールが日本では信じられない安価でずらりと並ぶ


しかし、ビールの高級化は中国国内のビールメーカーの悲願でもあり、高級ビールという“美味しいパイ”を海外メーカーだけが享受するのを、指をくわえて見ているわけではありません。現に、国内の各ビールメーカーは純生や黒ビールといった特色を打ち出して、高級化に取り組んでいます。けれど、飲んではっきり違いを感じられる輸入ビールの存在は脅威であり、なかなか「国内ビールは安い」「輸入ビールは高いけど旨い」というイメージがぬぐいきれません。

とはいえ、物価高騰の波に対応していかねばならず、中国ビール業界全体で価格高騰していくであろうことは容易に予想できます。そういった時代の変化をチャンスに変え、世界最大のビール市場で勝ち残っていくのは誰か? しばらく、目が離せそうもありません。

※1世界のビール総生産量・・・2013年の世界のビール生産量は、約1億9,294万klだった。

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