グローバルコラム
転換期を迎えた中国の外食産業
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ここ数年、日本に一時帰国するたびに、日本のレストランがあまりに安く、ハイクオリティなことにびっくりします。例えばランチ時、メインにサラダとドリンクがついて1000円という値段を見ると、「えっ!?」と嬉しくなるのと同時に、「中国のレストランの値段は妥当なのだろうか・・・」と疑問を感じずにはいられません。
市場規模40兆円強!超ビッグな中国外食産業
実際、北京や上海などの大都市でちょっと小奇麗なお店に入ってランチを食べると、軽く一人100元(約1700円)は飛んでいきます。それは、フレンチやイタリアンなど気取った洋食だけでなく、中華でも同じ。中華はセットメニューを提案している店が少なく、単品で頼むと値段がかさむため、“中華=安い”というかつてのイメージは消えつつあります。そんな中国外食産業が今、一つの転換期を迎えています。
高級感”より“安心感”、注目される日系レストラン
2013年の中国外食産業の伸び率は前年比9%増とけっして小さくありませんが、長年10%強の伸び率をキープしてきた中国にとっては、好成績と言えるものではありませんでした。その理由として、2012年12月に官僚の職務規定「八項規定」(倹約令)が打ち出され、公費接待が激減したことが挙げられます。しかし、それだけでなく、倹約令発動によって、国全体がお祭り騒ぎから抜け出して、ある意味、冷静さを取り戻した結果とも言えます。他にも、外食産業の伸びが鈍化した理由はいくつかあります。その一つは海外でも大きく問題視されている中国の食の安全です。野菜の農薬問題、癌米や人毛醤油といった毒食品のニュースは、中国人にとっても命に係わる大問題。特にレストランの食事は原材料が見えにくく、どんな加工がされているかわからないことから、多くの人が不安を覚えるように・・・。事実、数年前から「外で食事をすると異様に喉が渇く。化学調味料の過剰摂取のせいだ」という言葉をよく耳にするようになりました。
そういった流れの中、日系レストランは安全で信頼できる――と、大きく注目されています。一昔前までは、日系レストランは高級で、メインの客は富裕層でした。それが前記した通り、中国外食産業全体が値上がりする中、日系レストランの価格は大きく変わらず、結果、幅広い層が利用するようになりました。中でもサイゼリアやオールデイズ(※1)といった、日系レストランチェーンは若い層を中心に人気です。店内はお洒落で清潔、サービスもよく、どの店舗でも安定した同じ味をリーズナブルにいただける・・・。食事時になると行列になることもしばしばです。
これからの中国外食産業は、組織化&インターネット化
日系だけでなく、中国の外食産業全体でフランチャイズ化が進んでいます。それは消費者がお得感を求める時代となり、それに応えるためにレストランも組織化する必要が出てきたからです。現在、中国の外食産業は家賃や材料費の高騰、慢性的な人手不足(※2)に悩まされています。それらを解決しながら、他店にはないお得感を提供するには、組織単位で家賃交渉や人材確保、仕入れ交渉、流通経理の確立に取り組まなければならなくなってきたわけです。ある外食産業のオーナーいわく「今後、中国外食産業はネット化できるかどうかが、勝敗の決め手」とのこと。確かに現在すでに、中国最大の飲食店情報サイト「大衆点評網」などで情報を集め、グルーポン系サービス「団購」で割引クーポンをゲットしてからお店へ・・・というパターンが主流になっています。近い将来、ネット化は更にすすみ、店の予約からメニューの注文、会計までをネットで行うようになる――と予想されています。ネット化することで人件費の削減と顧客データの蓄積&対策が可能となるわけです。
今後は多角的な戦略を持って挑むべき時代となった中国の外食市場。様々な問題があるとはいえ、人件費はまだまだ安く、客単価の上昇が見込める中国の外食市場は、かなり魅力的だと言えるでしょう。激戦を勝ち抜いた経験を持つ世界の外食ブランドが、今後、中国の巨大マーケットで、いかに消費者たちを魅了してくれるか・・・楽しみでなりません。
※ 1オールデイズ・・・セブン&アイ・フードシステムズが展開する新業態のファミリーレストラン。
※ 2レストランの人手不足・・・史上最悪の就職難と言われながらも、レストランのスタッフは人気がなく成り手がないため、慢性的な人手不足に。そのため他業種よりも高給になっているケースも多い。
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