グローバルコラム
大躍進し続ける中国の子育てマーケット
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中国では2014年度9月から、某名門小学校の国際部(※1)の学費が年間9万元(約150万円)から12万元(約200万円)となりました。およそ30%もの値上げは、昨今の中国の驚異的な物価上昇を象徴する一つの事実としてびっくりしましたが、更に驚いたのはこのニュースが話題になった時の中国の友人の反応でした。
子どもに惜しみなく投資する中国人
友人は躊躇することなく、「自分だったら絶対に入学させる」と言ったのです。富裕層ではなくミドルクラスの彼女にとって、年12万の学費は一家の年収にあたる金額のはず。それを質問すると、「子どものためなら両祖父母が援助してくれる」と即答しました。まさに、中国の6ポケット(※2)のすごさを目の当たりにした瞬間でした。実際、近年の中国人の子どもへの投資熱はすさまじく、中国の子育て費用は世界一高いと見る専門家もいます。
昨年中国のネットで「育児コストが高い中国十大都市のランキング」という書き込みが大きな話題となりました。上位5位までの結果を見てみると、1位が北京で276万元(4500万円強)、2位が上海で247万元(4000万円強)、3位が深センで216.1万元(3500万円強)、4位が広州で201.4万元(約3300万円)、5位が杭州で183.2万元(約3000万円)となっています。
これは妊娠時から子どもが大学を卒業する23年間の養育費と教育費のトータル金額で、これにぴったり当てはまる日本のデータはないのですが、日本では一般的に子どもを出産してから大学卒業するまでおよそ3000万円と言われており、大まかな比較でも中国都市部の子育て費用がいかに莫大なものであるかがわかります。
中国の子育てマーケットが拡大し続ける理由
なぜ、中国の子育てはそこまでお金がかかるのか? その理由の一つは、子どもに対する関心度の高さにあります。1979年から始まった“一人っ子政策”の結果、たった一人の子どもに両親、両祖父母の愛情が集中するのに加え、貧しい時代に育った大人たちが、自分の過去を補うように子どもに贅沢をさせるという歴史的な背景もあります。更に、人口13億という大国中国は、上位5%の富裕層と下位5%の貧困層の年収格差が234倍(※3)という格差大国で、「もし勉強についていけなければ子どもに未来はない」と、大人たちが教育投資に躍起になるのは至極当然なわけです。
そういった大人たちの思いが、子育てマーケットを拡大・高級化させているのです。実際、粉ミルクや紙おむつ、おもちゃなどの育児用品や、幼稚園や塾といった教育関係の費用は、日本より高いと感じることがしばしば。それにもかかわらず、中国人は自分の支出を切り詰めてでも、「子どもには最高のものを」とお金を出すのですから感服です。
一人っ子政策緩和で、ベビーブーム到来!
2013年11月に開かれた中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(三中全会)で、一人っ子政策の緩和が決定しました。約30年続いた一人っ子政策が転換期を迎えたわけです。その内容は、夫婦のいずれか一方が一人っ子である場合、その夫婦は第2子まで出産できるというもの。専門家は、早ければ来年にもベビーブームが到来すると予測しています。今後、中国の子育てマーケットは一定の顧客単価が見込めるうえに、消費者増が見込めるため、中国ブランドがこの流れに乗るための猛烈な追随を開始することは、安易に予想されます。海外ブランドはこれからも、中国人の信頼を裏切らないハイクオリティの商品を提供していくことはもちろん、様々なユーザー層にアプローチできるブランディングを行えるか否か――このあたりが成功のカギになるのではないでしょうか。
(※1)国際部・・・外国籍学生を対象とした国際クラス。
(※2)6ポケット・・・子供一人に対して、両親・両祖父母の合計6人の財布(経済的なポケット) があること。
(※3)貧富の格差・・・北京大学の中国社会科学調査センターの調査によると、世帯所得で上位5%の富裕層と下位5%の貧困層の年収格差が、2012年時点の全国平均で234倍に達したという。
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