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【後編】事業領域に密着したサステナブルな活動が社会に認められる

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サステナブルな社会の実現への貢献を目指すサントリー。事業における重要な資源である水と、その源となる森を保護する「天然水の森」活動では、3年かけて国内の酒類・飲料事業に携わる全社員に体験研修を実施した。近年はグローバル企業として、国外のグループ会社にも企業理念を浸透させる活動を進めている。また、「プラスチック基本方針」を打ち出し、ペットボトルの利便性を起点に、正しい認識を深めながら環境に配慮した利用を模索する。引き続きコーポレートサステナビリティ推進本部の内貴研二氏に聞いた。

グローバルに広がる活動で重要となるコミュニケーションのポイントとは

堀:国内の社員には企業理念や水資源の重要性について理解を深めることに成功しました。現在のサントリーはグローバル企業です。海外の事業所、従業員についてはいかがでしょうか。

内貴:水や二酸化炭素の排出削減といった環境活動については比較的早くから取り組んできており、2050年ビジョンや2030年目標を策定して企業としてのポリシーを固めることはできていたと考えています。一方で、より幅広いコンセプトである“サステナビリティ”を推進する態勢はできていたとはいえません。ようやく19年にグループとしての「サステナビリティ・ビジョン」を取りまとめ、社内への浸透を始めたところです。

 SDGsへの取り組みは日本国内だけではなく、グローバルで考えないといけない時代です。また、短期的にはコストが増えるだけのように見えても、社会的な価値が認められる事業は長期的視点からは業績に寄与するという視点も必要です。この点については、従来の企業経営の常識とはかけ離れた面があり、まずは経営層のマインドセットを変革することが重要で、私たちも数年かけて進めてきました。


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サントリーグループのサステナビリティ・ビジョン


 「サステナビリティ・ビジョン」も、「企業理念体系」も海外の事業所、従業員に伝えるため、全て英語に翻訳しています。翻訳する際には、単純に日本語の言葉を英語に直訳すると意味が通じない。その言葉が意図することを翻訳しないと、正しい理解にはつながりません。「企業理念体系」とその解説文については英語から作り、それを日本語にするという手順を採用しました。
 経営に関わる理念や哲学があっても、それを単に言葉として翻訳すれば良いというわけではなく、正しい理解につなげることが必要です。なので、しっかりグループ内の外国籍の従業員に落とし込むことを想定して、整備しなければなりません。ビジョンや理念を浸透させるインナーコミュニケーションも重要なので、時間もかかります。私たちの海外のグループ会社も、多くはM&Aなどで仲間になったケースがほとんどなので、そもそも企業文化も異なっていました。ただ、時間をかけて少しずつ企業理念を共有し、コミュニケーションを深めることで少しずつ理解が進んできたと感じています。「One Suntory」になることを掲げて取り組んできましたが、コミュニケーションを重ねることでようやく形になってきました。


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堀:SDGsやCSRの活動はコミュニケーションの方法によっては「偽善」と捉えられる危険性もあります。御社のように注目される前から取り組んでいることで違いは生まれるのでしょうか。多くの企業がいかに取り組むのか、悩んでいるという声もあります。

内貴:そうした要素はあると思います。日本では2003年が「CSR元年」と言われています。サントリーにCSR推進部ができたのが2005年なので、時流に沿っていたとも言えます。それが今はSDGsに置き換わった形です。ただ、CSRやSDGsといった言葉の意味にこだわっていてもしかたがないと思います。自分たちのビジネスが社会にどんな影響を与えているのかを認識し、もしネガティブな影響を与えているのであればそこをいかに改めていくのかを考えるのは当然のことでなければならない。こうした考えに立てばやるべきことは見えてくるのではないでしょうか。

 視点の持ち方としては、従来型、つまり昭和の高度経済成長期と同じような感覚では問題は見えてこないと思います。かつてはサプライチェーン全体で物事をとらえる発想はあまりなかった。私たちもものづくりメーカーとして、原料にこだわっています。ですが、例えばコーヒー豆にこだわっても、それを誰が、どのような生活を送りながら作ってくださっているのか、ということまでを課題だと認識することはなかった。
 高度成長期的価値観の時代、企業はみなそうしていましたし、それで問題はなかった。これからの時代、グローバル化が一層進んで行くとき、従来通りでは通用しなくなります。私たちも2010年代にグローバル化して、そのことに気づかされました。より意識の高いグローバル・プレーヤー各社と競争しようとするとき、従来型の発想では勝負にならない。私たちも日々勉強しながらここまできました。

ペットボトルの正しい理解促進も重要な課題

堀:19年5月に「プラスチック基本方針」を策定(発表)されています。現在の取り組みを教えてください。

内貴:私たちの事業において、プラスチックを使うシーンはいろいろあります。なかでもグループで一番多く使っているプラスチックといえばペットボトルです。ペットボトルがここまで広まった理由はいくつかあります。まずは軽さ。そして落としても割れないこと、開封後、再度栓をすることができる。さらには中身が見えるので品質保証上のメリットもあります。
 そのペットボトルの良さを活かして使い続けるためにはどうすればいいのか、そのための「プラスチック基本方針」です。原料をバイオマスにする、使用したものをリサイクルする。リサイクルしながらサステナブルに、という全体を見た活動にグローバルで取り組んでいきます。


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サントリーグループ「プラスチック基本方針」イメージ


 清涼飲料事業ではペットボトルのリサイクルに積極的に取り組んできており、我が国のペットボトルリサイクルの先頭を走ってきました。さらに、この夏から720mlワインのペットボトルを再生素材100%に切り替えます。該当する商品には「Pet to Pet」というマークが印字されます。

堀:世界的には「脱ペットボトル」という流れもあります。

内貴:ペットボトルそのものが悪いというわけではないと考えています。海洋プラごみの問題があるからといって、それがそのままペットボトルの否定にはならないはず。でも、ペットボトルは使わない方がよいのでは?と思われる方々もいらっしゃいます。ただ、そこには誤解があると思っています。

 東南アジアやアフリカで清潔な水が調達できない地域で、ペットボトルがどれだけの人に恩恵がもたらしているか、あまり知られていません。そこは私たちだけではなく、業界全体で単純に「ペットボトルは全部ダメ」というわけではないと理解を深めることがグローバルでの課題です。


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再生PET樹脂100%を飲料業界で日本で初めて達成


 ペットボトルはボトルからボトルにリサイクルするためには、きれいな状態で回収しないといけません。これは消費者の皆さんにご理解・ご協力いただきたいところですが、回収の方法や場所など、業界や行政機関との協力も必要です。分別回収の進み具合など、現時点でも日本のペットボトルのリサイクル状況は、世界でもかなり進んでいます。これをもっといい状態にして、世界からペットボトルの扱いに関しては日本の方法を見習おうと言ってもらえる状況を作りたい。そのために私たちも情報発信をしていかなければならないと感じています。


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堀:これからサステナビリティに取り組む企業は、何を意識することが大事だと思いますか。

内貴:まずは、サステナビリティに関するどの活動が自社の事業や理念に関連するのか、親和性があるのかを考えることが最短で唯一の方法だと思います。どのようなビジネスでも、一定の歴史を持って続いているということは、やはり何かしら社会に必要とされているからです。世の中に必要だと認められなければ、市場からは退場させられてしまいます。企業の歴史を振り返り、自社のビジネスの社会的な価値は何かを考え、それに関連する分野へ貢献することが必要だと考えています。
 私たちも「利益三分主義」を根底に持ちながら、酒類や清涼飲料水を扱う企業として水に関する活動を続けているので、社内外で理解を得られているのではないかと思っています。

取材後記「インサイトスコープ」

SDGsやCSRの活動を偽りや違和感のないコミュニケーションを行えるサントリー。その裏には地道で真面目な活動の支えがある。
社会のためにより商品を作り豊かな生活を送ってもらいという想いを実現するための文化がサントリーには創業時からあった。そしてその価値観を社員に共有するための仕組みもある。そのことによって社会、生活者がサントリーのSDGsやCSRの活動を自然と体感している。

社会のためによい商品を作り豊かな生活を送ってもらいたいと思っている企業がほとんどだと思う。 しかし、企業からの一方的なSDGsは共感されない。想いの共感を得るには、企業そのもの価値から考えなければならない。

堀 好伸(株式会社クロス・マーケティンググループ)

内貴 研二
サントリーホールディングス株式会社
コーポレートサステナビリティ推進本部 専任部長

内貴 研二

堀 好伸
株式会社クロス・マーケティンググループ
リサーチ・コンサルティング部 コンサルティンググループ コンサルティングディレクター

堀 好伸


<プロフィール>
生活者のインサイトを得るための共創コミュニティのデザイン・運営を主たる領域とする生活者と企業を結ぶファシリテーターとして活動。生活者からのインサイトを活用したアイディエーションを行い様々な企業の戦略マーケティング業務に携わる。「若者」や「シミュレーション消費」を主なテーマに社内外でセミナー講演の他、TV、新聞などメディアでも解説する。著書に「若者はなぜモノを買わないのか」(青春出版社)、最近のメディア出演「首都圏情報 ネタドリ!」(NNK総合)、「プロのプロセスーアンケートの作り方」(Eテレ)

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