Future Marketing

【後編】時代をしっかり捉えれば、東京か地方かは関係ない

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データに基づいた業務改革を行い、事業を拡大、売り上げを伸ばしたゑびや。集めたデータをオペレーションにつなげることは多くの組織にとって課題となっている。事業改善のためのデータとはどんなものか、データは何のために集めるのか、前回に引き続きゑびや代表の小田島春樹氏に聞いた。

データは数字の集まり。実行をより良いものにするための指標

中村:何のためにデータを取るのかというと、現場の改善ありきです。データを集めることに注目されがちですが、オペレーションに落とし込めているから意味がある。

小田島:本当に「DO」ができていないと思います。PDCAでいうところの「PLAN」までは考えても「ACTION」までできているパターンは非常に少ない。私たちは現場で活用する、実行するためにデータを集めています。
 データはあくまでもツール。私は、日本の生産性を上げるためにはエクセルとパワーポイントを不要にすればいいと思っています。みなさんこれを作ることが仕事の9割になって、アクションにならない。私たちのツールはエクセルとパワーポイントを不要にしようというものでもあります。

堀:現場が近い商店なので活用しやすいということもありますね。データを集めて、分析して、共有まではできても、結局アクションにつながらない。

中村:大きな会社だと部門が分かれていて、マーケティングがデータを集めてもアクションは別の部門という課題もあります。

小田島:セクショナリズムで動いている会社には無理かもしれません。データがいらないと思っている人が多ければできませんし、今までのエクセルが全部いらなくなるよといっても、エクセルをつくる生活残業をしていた人たちは絶対的にノーと言うでしょう。
 大きな組織でやる場合は、ある程度の権限と権力を持った人間が旗を振ってやること以外にうまくいくことはないと思います。

どういう風にデータを使うのかは単純な話で、自分たちのお店やマーケットを見て、違和感や疑問を持って、チャレンジすることが好きな人はデータという「武器」を装備することで変わると思います。
 例えば、2019年の2月25日のデータ。街を見るとちょうど大学生が春休みに入って最初の月曜日で、外を見たら学生がすごく多かった。でも、うちのお客さんに学生は4.59%しかいなかった。この状況を見て、学生証の提示で10%引きにする学割はどうかということで翌日からやりました。すると学生の比率が18.4%と3倍以上になりました。キャンペーンをやって、ちゃんと効果が出た。これもデータがあるからわかる。

中村:本当の気づきはデータにないところにある。学割もデータだけを見ているのではなく、リアルの街を見たからわかった。それができる優秀な人材はなかなかいない。


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小田島:優秀さよりも、仕事に向き合っているかどうかだと思います。言われたことをやるだけなら作業です。特に日本はこれまで作業者であれば良かった。自分で商売をやっている人間なら、例えば有田焼の売り上げ悪いから商品開発で何とかしようと考えますよね。そこが自分ごとになっていればできると思う。
 とりあえずチラシ配ってみよう、広告出してみようというような、効果があるかないかも検証せずにいろんなことをやる人が多すぎるのではないでしょうか。
 その効果を可視化する。データは所詮ただの数字の集まりなので、日々やっている自分たちの仕事の結果、成果をデータで照らし合わせるという使い方が正しい気がします。

 例えば、店頭ディスプレイを作って、設置した一カ月と撤去した一カ月の入店率を算出します。やっぱり人目をひくディスプレイがあると入店率が伸びるわけです。次の季節にディスプレイを作るときに、どんな予算でやりましょうかというのは、データから簡単に導き出せる。結局こういう考え方がないだけで、今、お金あるから作ってみようよという世界観がサービス業ではよくある。
 もう一個大事なのは、ディスプレイを置くことによってそこで訴求している商品ばかり売れて単価が下がるのではないかと思うとします。でも、クロスセルのデータを見てみると、それ以外も買っているとわかる。そういうことだと思います。


【ディスプレイによる変化を数値で測る】

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客観的なデータがあるからこそ「退く」という判断ができる

中村:特に施策をひらめく人は思い入れもあるし、一度投資をはじめてしまうと途中でやめられなくなりがちです。結果が思っていたものと違うときに、自分の方を修正できるか。これはなかなかできない。うまくいかないときに、撤退する選択肢を客観的に判断するための使い方。そんな風にデータを見られる人も必要ですね。

小田島:私もデータがなかったら実際にやめられない。ある程度の規模の投資になると、期待もあるのでなおさらバイアスをかけて見てしまいがちです。そんな時に「退く」判断ができるのは、データを見て「このまま続けても損失が増えるだけだな」と、冷静になることができるからです。


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取材や商談は、基本的にテレビ会議で実施している


中村:失敗を見越して施策をうつと保守的になるリスクもありますが、失敗からしか学べないということもある。その失敗も、属人的になると後に続く人に引き継がれない。データを使って何をするかというと、個人の考えを客観視できるようにして、組織の財産にしていくことかなと感じます。

小田島:そうですね。あまり、自分を優秀だと思ってはいけないのだと思います。野球でも、3割ヒットが打てれば成功です。大事なのは打席に立ってバットを振ること。当たらなくて当然で、当たればラッキー、当たらなければすぐに修正して、次のことをするマインドを持っていることが大事だと思います。

中村:マーケティングにも通じる話だなと感じました。どこからデータを集めて、KPIは何で、何の目的でそのKPIを追い続けるのか。結局、上流から下流まで、そこにロジックが通っていないと、データの算出も分析の仕方も一気通貫しない。ただデータをとってもダメ、目的に対してデータを取って、その計算も合わせて作って、というのが「マーケティング×データ」の活用だと思いました。これから同じような取り組みを考える企業は、何からはじめればいいでしょうか。

小田島:私たちはツールも販売しているので、それを使ってもらいたい。特にサービス業ってエクセルすらまともに使えていない状況なので、ひとつとばして、全部データを自動で集めて集積する世界へ連れて行きたい。
 中小企業が一からツールを作るのは不可能なので、あるものを使ったほうがいい。僕らも最初の頃はそうでしたが、既存の仕組みを使った方が安いので、無理せずにあるものをいろいろ試して、無理だったらやめてという方がリスクも少なくなる。

 人件費にお金をかけることに抵抗はなくても、こうしたツールにお金をかけることに抵抗を感じる経営者はなぜか多い。効果が出る可能性を秘めているのに月額1万円が高いというのは、何との比較かという話。なので、まずは一回使ってみるのがいいと思う。
 この先、地方の企業が生き残っていくために、時代をしっかり捉えて、与えられている武器をちゃんと選んで戦えば、東京とか地方とかは関係なく戦っていけると思っています。我々も伊勢で、人口が11万人くらいしかいないところですけど、ここで作ったものを都市圏で販売することができているので、生き残っていくために何をするのか考えることが一番だと思います。

取材後記「インサイトスコープ」

本来あったはずの目的が、データを集め分析を進めるうちに分析自体が目的にすり替わっていることが多いのではないでしょうか? 小田島さんは「現場で活用する、実行するためにデータを集めています」とその目的はいつもブレていません。老舗の勘と経験がテクノロジーによって再現性のあるサービスとなり、より進化し、今の時代の老舗を創りあげています。「伝統と革新」がこれからも続く老舗のキーワードかもしれません。

堀 好伸(株式会社クロス・マーケティンググループ)

小田島 春樹
株式会社EBILAB
代表取締役

小田島 春樹

堀 好伸
株式会社クロス・マーケティンググループ
マーケティング本部 プランニングディレクター

堀 好伸

中村 勝利
株式会社クロス・マーケティンググループ
マーケティング本部 データマーケター

中村 勝利

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