Future Marketing
【前編】テクノロジーに裏付けられたサービス業で今を生き抜く
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三重県伊勢市で商業施設「ゑびや」を運営するゑびやは、データに基づいた業務改革を行い、事業を拡大、売り上げの伸長、従業員の給与も向上させた。現在は、自社でも活用するデータ収集と解析ツールを開発・販売する「EBILAB」も立ち上げ、サービス業をテクノロジーで支援する活動も行っている。両社で代表取締役を務める小田島春樹氏に、データを集める意味とその活用について聞いた。
人口減少時代には「勘と経験」では生き残れない
堀:ゑびやさんがデータに基づいた事業展開をはじめた背景には何があったのでしょうか。小田島:ゑびやは、伊勢市で長く続いている飲食店です。事業改革に取り組みはじめた2012年までは、手切りの食券と番台のおばちゃんがそろばんで会計をするアナログな店舗運営でした。
私はもともとAIや機械学習に興味を持っていて、これをサービス業に活用する方法を考えていました。2012年に妻の家業を継ぐために、ゑびやに来て、その実践を行った形になります。
実はその頃、飲食事業を縮小し、テナントへ移行することも考えていました。しかし、そのプランは実現せず、もう一度事業をやり直そうということで今回の改革がはじまったというのが背景です。
結果的に2012年から2018年の6年間で売り上げは1億円から4.8億円になりました。従業員数は42名から44名で2人しか増えていませんが、その分一人当たりの売り上げは飛躍的に向上しています。かつては飲食店だけでしたが、現在はお土産販売や卸売も加わり、3業種を展開しています。
これは、インバウンドによるものではありません。伊勢神宮周辺の観光客は2013年をピークに減少を続けています。私たちは観光客の増加によって成功したわけではなく、テクノロジーによる業務改善で現在の結果を残しているのです。
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堀:「老舗」と呼ばれるような事業者であればあるほど「勘と経験」に頼る部分は多い。テクノロジーによってそこを可視化したことが結果につながっているように感じました。
小田島:日本人は昔から、データに基づいた客観的な根拠で何かの意思決定をしてこなかったと思っています。多くの職場で仕事が属人化していて、再現性のない「勘と経験」で進められているために、その人が辞めると、次の人がその業務を引き継げないということは起こっているのではないでしょうか。
「勘と経験」に頼っているのは老舗だけではなく、どの企業・業界でも同じでしょう。事業として、サービス業は特に仕事の体系化が進んでいないというのが実情だと考えています。
もう一つ、私たちがテクノロジーの活用を決めた背景には、時代背景があります。経済が成長するのは人口が増加していくからです。今、中国経済が活発なのも、人口規模があるからです。
人口が増えれば、マーケットができるのでどんなものでも売れて、ある程度何をやってもうまくいきます。しかし、日本は2008年を境に人口減少フェーズに入っています。マーケットが縮小していくなかで商売をしていくと、うまくいくことは少なくなります。そうした時代を勝ち抜くためには、「勘と経験」ではなくデータやテクノロジーを使って、アクションに対して効果を検証し、ブラッシュアップしていく、そのスピードを上げていかなければならないと思っています。
従業員の生活が変わらなければ、それは経営者の自己満足
堀:ゑびやさんでは、どのような段階を踏んで業務改善をしたのですか。小田島:まずは食券とソロバンからExcelへの移行です。これによってデータベースができるようになりました。その後、POSレジも導入し、そのデータも蓄積し、ある程度データが取れた2016年ごろから機械学習で翌日の来店予測をはじめました。
次に、来店予測をするために、お店に来た人の属性を知ろうということで画像解析AIを使ってデータ収集に着手しました。ここまでデータの種類が多くなると、Excelでまとめることが難しくなったのでRPA(Robotic Process Automation)による処理をするようになりました。
最終的には、そうしたデータを全てクラウドのデータベースに集めて、必要なものが抜き出せるようになればExcelすらいらないのではと考え、今の仕組みになりました。なので、今からEBI LABのサービスを導入する事業者さまはExcelやPowerPointの段階を経ずに、データを収集し、事業改善が可能になっています。
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小田島:テクノロジーを入れて業務を改善しても、従業員の生活が変わらなければ、それは経営者の自己満足です。従業員の意識が変わったというよりも、給与や賞与などの待遇が変わったことで、意識も変化していったという話です。モチベーションについては個人差があるのですが、働いていてどんな時に幸せを感じるかというと、お客さんからの評価だと考えています。そこで、来店者に二次元コードを使ったアンケートに回答をもらっています。項目は接客やメニューなど多岐にわたりますが、その結果を共有しています。
集まった意見を元に、一日ひとつ改善する「一日一善」という活動を行っています。お客さんからの声が部門をまたいで従業員にすぐ伝わり、反応できるというコミュニケーションツールではありますが、取ったデータに対してすぐにアクションを起こす体制ができたことはポイントだと思います。従業員間でも、良いものについては評価する。お互いに称え合う文化ができてきたと感じています。
一日一善で改善したことは、お茶を変える、寒いからブランケットを配るといった些細なことがほとんど。ですが、飲食事業はどうやってお店に入ってもらうか、サービスを受けた人に良かったと思ってもらい、もう一度きてもらうためのことがしかできません。来客予測も、予測に基づいて、そのメニューが何食出るのか、それに合わせられるメニューを考える。その数量を機械に提示させると、勘と経験で決めるときに生まれる人による作業の時間や無駄をなくすことができます。そうしたテクノロジーによる仕組み化は、現場でのオペレーションにも生かされています。
~後編に続く(4/19公開予定)~