Future Marketing
【後編】データはセンスに頼らずアイデアを生むためのツールである
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クロス・マーケティングとDatactのインターンシッププログラムは、主催側にとっても、参加した学生にとっても学びのあるものになった。日々企業の課題に向き合っているクロス・マーケティングが感じるマーケティングへの課題感は、次世代のマーケティングを、データを背景に変革しようとするDatactの二人にはどう見えているのか。
マーケティングでデータを使う二つの意味
樋口:私はマーケティングにおけるデータ分析には二つの意味があると考えています。まずは意思決定の根拠になること。マーケティングに限った話ではないかもしれませんが、ビジネスにおける意思決定のときに、それがデータに基づいていれば、経営者が感覚や経験値で決定するよりも、客観的に正しいかどうか判断できます。
もうひとつは、顧客のインサイトを抽出するときに使えることです。今は消費者をかなりの範囲で、データで語ることができるようになっています。マーケティングデータだけではなく、生体データなども含めて、さまざまな側面のデータから見ることができます。
「消費者がいま何を求めているのか、データをもとにインサイトを深掘りすることがデジタルマーケティングです」というとふわっと聞こえますが、結局やっていることは意思決定と顧客理解をデータに基づいて考えることじゃないかなと思っています。
中村:集めたデータの中に求める回答があると考えると、分析すれば自動的に答えが得られると思ってしまう。本当はそうではないので、想像と異なる結果を突きつけられると、戸惑ってしまう。
湯川:持っているデータから演繹的に出すことができないだけだと思います。データは、この範囲が面白そうだなとあたりをつけることや、自身のもっている仮説の検証に使えるというケースがほとんどで、基本的にはそれ以上のものは出ないのかなという気がしています。
取りたい形で集めたデータが積み重なっているだけなので、そうではない、こぼれ落ちたところのデータに実はインサイトがあるのではないかと感じています。
顧客や商品と向き合うことで、インサイトが見えてくる
本当は、仮説を立てて、そこに対する分析を積み重ねていくべきなのに、明確な目的もなくとりあえず膨大なデータから何かを見つけてというのが先行してしまっているのはもったいないと思います。
ただデータがあるだけでは、対応のしようがない
例えば、今までの調査は、最低限何人に聞けばいいかという話がありましたが、極論すると、一人に聞けば事足りる時代になってきています。統計としてはダメですが、たとえ一人であってもその人が非常にいい意見を持っていて、そこに問題意識や改善してほしいことがあるなら、そこにビジネスチャンスがある。データから、そういう人が見つけられるのではないかという仮説を立てられるかどうか、それが求められる時代になっていると思います。
とりあえずデータを集めましたという企業に提案することが多いのは、まずどういうデータの集め方をしているのかを聞くことです。健康とかダイエットのために、「今どういう食生活を送っていますか」を聞くことと同じです。日々、なんとなく食べているものであなたの体が作られているのだとすれば、データについても同じで、今までいろいろな部署で事業を回して蓄積してきたデータをどういう風に代謝させてきましたか、ということを聞かないといけない。
データと向き合って対話するというのは、そういうことではないかと思っていて、今まで自分たちのとってきた行動を客観的に見ることからデータ分析を始めるべきじゃないかなと思っています。
データは客観的に事業を見つめなおすきっかけになる
何がしたいのかという目的が定まっていないのに、とりあえずデータがあるから何かしてくれと言われても対応しようがない。これはAIでも同じで、とりあえずデータがいっぱいあるからAIで何かしてくれというのは、結局何も解決しません。目的が先にあって、それに対してデータで何をするのかが大事なのです。目的と手段のところを履き違えているなと感じます。
その理由が不勉強にあって、AIやデータ分析がどういう風に、何につながるのか、何ができるのかというところに関連づけて考えられないからそういう話になるのだと思います。過去のマスマーケティングで成功した人が、その成功体験から抜け出せないことも問題のひとつだと思っています。
中村:データを集めはじめると、集めることが目的になってしまう傾向はあります。
湯川:コストを無限にかけていいなら集めればいいと思います。集めたデータを分析するためのレベルが上がっていくだけです。データそのものはたくさんあれば切り出すことができる部分が多くなるので、いいことだと思います。
お金をかけて集めるデータを増やすくらいなら、分析するマーケターの育成をした方がメリットはあります。せっかくデータをためているのに、分析する人がいなくて、一番重要なナレッジをためないといけないところを外注するのはもったいないのではないでしょうか。
中村:クライアントはデジタルマーケティングで何か驚異的なものが出てくることを期待している部分がありますが、分析の結果は当たり前のことが当たり前に出てくることが多い。当たり前のことがわかったら、当たり前じゃないことがサインになる。そこを認識することがスタート。
インターンシッププログラムのプレゼンテーションでも、開業したい料理人にトレジャーハンティングを、という観光プログラムの提案がありました。これは、実際トレジャーハンティングの現場で現実に起こっていることでもあった。そういうことにデータでたどり着くことは大事だと思います。
データを通じて商品のポテンシャルを知ることができる
ただ、全ての人にそのようなセンスがあるかというとそうではない。ゼロベースから何かを作り出すことは基本的にはできません。なので、どの要素に対して絞り込めばセンスが良いものになるかという、絞り込むところを今回のワークショップでは教えていました。
教えたことを一番忠実にできたチームは、優勝こそできませんでしたが、あと1日2日考えれば、アイデアが見つかって逆転できたかもしれない。
湯川:インターンシップは、どうしても学習プログラムの側面があるので、学んだことを生かそうという意識はあったかもしれない。
中村:一部の優秀な人はひらめきだけで新しいアイデアを思いつくことができる。だけど、みんながそうではありません。凡人でも優秀な人に近づくための方法がデータマーケティングだと思っています。
湯川:誤解を恐れずに言えば、データマーケティングはセンスのない人こそ活用すべきだと思っています。面白いアイデアを出す確率を上げるために、ひたすらデータを集めて、分析し、必要な要素を探っていく。その作業の重要性をこれからも伝えていきたいですし、それができる人材を今回のインターンシッププログラムのようなさまざまなアプローチで増やしていきたいと思います。
取材後記「インサイトスコープ」
技術が進歩しマーケティングの手法も進化しています。扱えるデータ量もスピードも速くなりました。今回学生たちが私たち大人に教えてくれたことは、データの分析方法ではなく分析結果からどうアクションをするかという柔軟なアイデアでした。データに振り回されるのではなくデータをうまく活用するということを再認識しました。
堀 好伸(株式会社クロス・マーケティンググループ)
一般社団法人 Datact Japan Founder/CEO
慶應義塾大学環境情報学部所属
樋口 拓人
一般社団法人 Datact Japan Co-Founder/COO
京大学経済学部経営学科所属
湯川 晟
幸楽窯
代表取締役
徳永 隆信
株式会社クロス・マーケティンググループ
マーケティング本部 データマーケター
中村 勝利