デジタルマーケティングコラム

生成AIは著作権侵害になるのか?AIと著作権の関係を解説

Facebook X
20231003_matsumoto-Dec-13-2024-01-17-11-4814-AM
株式会社クロス・マーケティング
カスタマーソリューション本部 デジタルソリューション部 デジタルソリューショングループ
マネージャー

松本 啓民

IT技術の目まぐるしい発展により、2022年に登場したChatGPTをはじめ、高精度な生成AIが近年続々と登場しています。これにより、短時間でアイデアを創出できるようになったため、ビジネスシーンでも生成AIが作成した制作物が活用されるようになりました。一方で、AIはネット上のあらゆるデータを学習して創作するため、著作権の問題も懸念されています。生成AIを社内で利用する際、著作権についてよく理解しておかなければ、最悪の場合訴訟などに発展してしまう可能性も考えられます。今回はAIと著作権の関係や利用時の注意点などを詳しく解説します。

そもそも著作権法とは?

著作権法は、著作物の創作者の権利を保護しつつ、その著作物の利用もある程度確保することを目的としています。そのため、この法律の各種規定は「著作者の権利や利益を保護すること」と「円滑に著作物を利用できること」のバランスが保てるよう設計されています。


20231219_02

著作権法の対象物や対象者

著作権法を理解する上で把握しておきたいのが、この法律が定める対象物と対象者です。
まず、著作権法の対象物は「著作物」となります。著作物とは、創作した人の思想や感情が含まれている文芸、学術、芸術、音楽を指します。

しかし、作風や画風など、同じ作者の作品にみられる傾向や特色などは著作物に該当しません。このような抽象的なアイデアが著作権法の対象から外されているのは、創作活動を妨げる可能性があるためです。そのほか、単に事実を示したものやごく一般的な表現も著作物の対象外となります。

著作権は著作物を創作した人が持ちます作品ができた時点で自動的に著作者となり、著作物の利用形態ごとに定められた権利を得ることができます。例えば絵画の場合、作品の画像化や印刷、コピーなどの行為は複製権、それらをネット上にアップロードする行為は公衆送信権が該当します。このような具体的な権利を「支分権」といいます。

なお、著作者が得られる権利は支分権として定められているものに限られます。そのため、著作物を他の人に閲覧されたり、記憶されたりする場合は著作権法の対象外です。

著作権侵害になるケース

前述したように、著作物を印刷・コピーしたり、ネット上にアップロードしたりするときは、原則として著作権を持っている人から許可を得ることが必要です。万一これを怠った場合は著作権侵害に該当します。

ただし利用方法が公益性などを求めるために定められた「権利制限規定」に該当する場合は著作権法の対象外になります。著作者の許可を得なくても自由に著作物を利用することができます。次のような場合が該当します。

・プライベートな利用で著作物を複製(コピー)する場合
・報道や研究など正当な範囲内で自身の著作物に引用する場合
・学校教育の目的上必要な範囲で著作物を教科書に掲載する場合
・授業の過程で著作物を複製する場合
・著作物を試験問題として複製またはインターネット上で送信する場合
・営利目的でなく(料金を受け取らず)著作物を上映する場合
・屋外設置の美術品や建築物を利用する場合
など
※一部例外や、許諾不要でも通知や補償金の支払いが必要なケースがあります。

なお、著作物を無断使用した場合や権利制限規定に該当しなかった場合は、著作者から訴えられ、裁判に発展する可能性があります。その際争点となるのが類似性と依拠性の有無です。

類似性とは、「他者の著作物と自己の著作物の具体的な表現(創作的表現)が共通していること」です。ただし、共通する点がアイデアをはじめ表現以外の部分や、ありふれた表現である場合は類似性が否定されるため、著作権侵害とはなりません。

依拠性とは、「他者の著作物に影響を受けて自己の作品に用いること」です。これを明らかにするために、制作時点で著作物を認識していたか、作品がどの程度似ているかなどが問われます。これらを踏まえた上で偶然に一致したと判断された場合は依拠性がないとされ、著作権侵害にはあたりません。

生成AIと著作権に関する疑問

著作権法の基本を押さえた上で、生成AIと著作権の関係について検討します。この問いに関しては生成AIの学習段階と、制作物作成・利用段階に分けて考えなければなりません。さらに、AI生成そのものの著作権についても別で検討していく必要があります。


20231219_03

AIの学習段階で著作物を使うと著作権侵害となるのか?

AIの学習段階とは、膨大なデータを収集・加工して学習用データセットを作成し、学習用プログラムに入力する工程です。学習用データには著作物に該当するデータも多数含まれており、AIの学習段階におけるこれらの扱いも複製権や譲渡権・公衆送信権などに該当するとして、原則著作者の承諾が必要とされていました。

しかし、学習データに含まれる膨大な著作物について個別に許諾を得るのは現実的でない、入力段階では著作者の不利益は生じないなどの理由から「著作権法第30条の4」を導入し、学習段階では基本的に著作者の許可なく著作物を利用できるようになりました。

著作権法第30条の4とは、著作物の非享受利用(著作物に表現された思想または感情の享受を目的としない利用)では、必要と認められる範囲を限度に著作者の許諾を必要としないことを規定したものです。

ただし、非享受利用に該当するための条件も規定されており、それらに該当しない場合の無断利用は著作権侵害と判断されます。

生成AIを使って制作したものは著作権侵害になる?

生成AIでは利用者から得た指示をもとに画像などを作成することができます。生成AIによる創作物も、人が制作したものと同様に扱われる点に注意しましょう。

生成AIによって作成したものは上記で解説した基本的な著作物と同じく、類似性や依拠性が認められれば著作権侵害になる可能性があります。ただし先述した「権利制限規定」に該当するときは著作権侵害の対象外です。

また、利用者の意図に反して、既存の著作物と似た作品が生成される場合もあります。生成AIユーザーの指示内容に著作物が含まれていないにもかかわらず偶然似た作品が作られたようなケースでは著作権侵害にはなりません。

生成AIを利用するときは通常の著作権が適用されるものと考え、権利制限規定内で利用しているか、規定外の利用のときは既存の著作物と類似性や依拠性がないか注意する必要があります。

AIの生成物自体に著作権はあるのか?

コンピューターで創造した作品の著作権については昭和の時代から検討されており、人の細かな指示なしに、AIが自律的に生成したものは著作物に該当しないと考えがまとめられています。

これにより、人の指示なし、もしくは簡単な指示のみでAIが作成したものについては、基本的に著作物に当たらないと捉えることができます。一方、人が創作意図を持ってAIを創作の道具として利用した場合(創作的寄与と認められる場合)は、AIが作成したものであっても著作物の対象となり、AI利用者が著作者となります。


20231219_04

生成AIと著作権について指摘されている問題

生成AIの登場により、作品を短時間で大量に生成することが可能になりました。生成AIで制作した創作物の法律上の取り扱いはここまで説明したとおりですが、広く利用されるようになったことで、生成AIと著作権にかかわる課題も提起されています。

例えば、一般的な制作物同様、AI創作物においても裁判所でしか著作権侵害か否かを判断できない問題です。争点となる類似性・依拠性については専門家でも意見が割れやすく、著作権侵害が成立するかどうかを法廷で即座に決定することが難しいとされています。

しかし、判決が出るまでは著作権侵害かどうか判断できないため、課題として指摘されています。個別に判断するのが難しい点も指摘されているところです。

以上のことから、AIと著作権については今後も注視していく必要があります。企業で生成AIを利用する場合、現時点での取り扱いとしては、著作権違反にならないように運用することが大切です。

まとめ

AIの著作権の問題について考えるときは、学習段階と、生成・利用段階の2つに分けて考える必要があります。学習段階では基本的に著作者の許諾なく著作物を利用できますが、AIによって生成された作品が著作権侵害にあたるかどうかは、人の創作物と同じように判断されますので、社内でAIを運用する場合は十分留意しましょう。

関連コラム

マーケティングコラム
人工知能(AI)とは?活用方法や機械学習・ディープラーニングとの違い
テクノロジーの伸展により、ビジネス分野に人口知能(AI)を活用するケースも増えてきました。人口縮小によって働き手が減少するなか、効率的なマーケティングや販売促進を行うため、AIの活用に注目が集まり始めています。今回は、AIの定義や仕組みのほか、マーケティング分野における活用方法を解説します。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
マーケティングコラム
メタバースとは?流行している背景や活用事例をご紹介
2021年現在、デジタル業界で「メタバース」という言葉がひときわ注目を集めています。海外ではフェイスブックやBMWが参入を表明し、日本でもメタバースを活用したビジネスが主流になり得るかもしれません。今回は、メタバースの特徴や流行の背景、ビジネス領域での活用事例をご紹介します。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
マーケティングコラム
デジタルウェルビーイングが企業にもたらす影響とは?DXとの関係性も合わせて解説
デジタルウェルビーイングは、心身共に健康で満たされた状態を表す「ウェルビーイング」に「デジタル」を加えた言葉で、デジタル端末と共生しながら幸福を実現しようとする概念を指します。最近は日本でもウェルビーイング経営に注目する企業が増えており、デジタルウェルビーイングも同様に注目度が高まる可能性があります。今回は、デジタルウェルビーイングが企業にもたらす影響や活用方法について詳しく解説します。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
デジタルマーケティングコラム
IoTとは?2010年代~現在にかけてのIoTトレンドを解説
最近では自宅にスマートスピーカーやセンサー付きの家電を取り入れる人が多くなりました。また、街中でスマートウォッチを着用している人を見かけることも増えてきており、「IoT」は珍しい存在ではなくなりつつあります。これから2回に分けて、IoTとは何かおさらいするとともに、IoTとマーケティングの関係性やビジネスの活用方法について解説します。まず今回は、IoTの言葉の意味・仕組みの解説と、2010年代~現在にかけてのIoTトレンドをご紹介します。
# デジタルマーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
デジタルマーケティングコラム
IoTの最新トレンドとマーケティングとの結びつきを紹介
ビジネスの現場では製造業を中心に活用されることが多い「IoT」ですが、家電や時計といった消費者向けのIoTデバイスが増えたことで、今後はマーケティングや商品開発の分野で注目される機会が増えていくことでしょう。そこで今回は、2022年最新のIoTトレンドをご紹介するとともに、IoTとマーケティングとの関係性やビジネスへの活用方法について詳しく解説します。
# デジタルマーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
デジタルマーケティングコラム
メタバースを用いたビジネス展開は可能!?活用事例の紹介
最近になって耳にすることの多いメタバースは、ユーザーがゲームのように楽しむだけではなく、企業が新たなビジネスを創出する機会としても注目を集めています。早いタイミングでメタバースを用いたビジネス展開を考えておけば、競合との差別化や先行者利益などの恩恵が生まれるでしょう。本記事では、ビジネスにおけるメタバースの有効性や企業の成功事例をご紹介します。
# デジタルマーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
デジタルマーケティングコラム
人工知能(AI)を活用した身近な事例は!?
一般家庭を中心に普及が進んでいる人工知能(AI)。AI搭載型の家電やスマートフォンなどが代表例で、この先ますます人工知能の商品やサービスが手放せなくなる可能性も考えられるでしょう。では具体的に、人工知能はどのような場面で活用されているのでしょうか。本記事では、家電やスマートフォンなど、人工知能を活用した身近な事例をご紹介します。ビジネスに人工知能を活用したいとお考えの方は、事例を知っておくとスムーズな導入へと結び付きます。
# デジタルマーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
デジタルマーケティングコラム
AIを用いた音声認識の仕組みとは?活用事例も併せて紹介
機械学習や自然言語処理などの技術が発展し、現在はさまざまなシーンでAIが活用されています。その中でも、ビジネスシーンの業務効率化につながると期待されているのが、今回ご紹介するAI音声認識です。AI音声認識とは、機械に入力された音声を自動的にテキストデータへと変換する技術です。最近では、主に議事録の作成やコールセンター業務を効率化するために活用が進んでいます。本記事では、AI音声認識の仕組みや活用事例について詳しく解説します。
# デジタルマーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
マーケティングコラム
ChatGPTの便利な活用事例|ビジネスの効率化が期待できる!
2022年11月のリリース以来注目を集めている「ChatGPT」について、「ChatGPTを仕事に活かす方法が知りたい」「実際の活用事例を見てみたい」興味を持っている方も少なくでしょう。この記事ではChatGPTでできることを見たうえで、実際の活用事例を紹介します。話題のChatGPTを仕事へ活かしたいと思っている方にとって、ヒントになる内容となっているため、ぜひ最後まで読んでみてください。
# マーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
データマーケティングコラム
指標化が難しい顧客の声をどう活かす?AI時代到来の前にスタートダッシュできること
近年、自然言語処理はAIの活用で急速に発展しています。OpenAIの人工知能チャットボット「ChatGPT」はその成果の1つと言えるでしょう。このような技術発展によって、今後マーケティングに有益な情報源は増加するでしょう。例えば商品レビューやSNS投稿といった「顧客の声」はこれまで活用が難しかったですが、今後は活用が進むことが予想されます。本記事では、AI時代の到来に向けて、指標化が難しい「顧客の声」をどのように活用すれば良いかを詳しく解説します。一般的な解説についてはデータマーケティングコラム
# データマーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
デジタルマーケティングコラム
人工知能(AI)で未来はどう変わる?人工知能の現状と予測される変化
まるで人間のように何でも質問に答えてくれる対話型AI「Chat(チャット)GPT」の出現に世界が揺れています。人工知能とは、人間のような知能を持つコンピュータシステムのことで、AIとも呼ばれます。例えば、スマートスピーカーやスマホの顔認証システムなどは人工知能の一種です。スマートスピーカーなら人間の声から話している内容を理解して、その対応まで行います。顔認証システムなら、顔から同一人物かどうかを判断するでしょう。近年は、「Chat GPT」のような人工知能がめざましく発達しています。この調子で人
# デジタルマーケティングコラム
業界/業種
支援領域
開催日:-
受付終了
ご相談・お見積もり依頼
【法人・個人様】
フリーダイヤルでのお問い合わせ
0120-198-022
※ モニター様からのお電話でのお問い合わせは受け付けておりません。
資料ダウンロード