デジタルマーケティングコラム
生成AIは著作権侵害になるのか?AIと著作権の関係を解説
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カスタマーソリューション本部 デジタルソリューション部 デジタルソリューショングループ
マネージャー
IT技術の目まぐるしい発展により、2022年に登場したChatGPTをはじめ、高精度な生成AIが近年続々と登場しています。これにより、短時間でアイデアを創出できるようになったため、ビジネスシーンでも生成AIが作成した制作物が活用されるようになりました。一方で、AIはネット上のあらゆるデータを学習して創作するため、著作権の問題も懸念されています。生成AIを社内で利用する際、著作権についてよく理解しておかなければ、最悪の場合訴訟などに発展してしまう可能性も考えられます。今回はAIと著作権の関係や利用時の注意点などを詳しく解説します。
松本 啓民
そもそも著作権法とは?
著作権法は、著作物の創作者の権利を保護しつつ、その著作物の利用もある程度確保することを目的としています。そのため、この法律の各種規定は「著作者の権利や利益を保護すること」と「円滑に著作物を利用できること」のバランスが保てるよう設計されています。著作権法の対象物や対象者
著作権法を理解する上で把握しておきたいのが、この法律が定める対象物と対象者です。まず、著作権法の対象物は「著作物」となります。著作物とは、創作した人の思想や感情が含まれている文芸、学術、芸術、音楽を指します。
しかし、作風や画風など、同じ作者の作品にみられる傾向や特色などは著作物に該当しません。このような抽象的なアイデアが著作権法の対象から外されているのは、創作活動を妨げる可能性があるためです。そのほか、単に事実を示したものやごく一般的な表現も著作物の対象外となります。
著作権は著作物を創作した人が持ちます作品ができた時点で自動的に著作者となり、著作物の利用形態ごとに定められた権利を得ることができます。例えば絵画の場合、作品の画像化や印刷、コピーなどの行為は複製権、それらをネット上にアップロードする行為は公衆送信権が該当します。このような具体的な権利を「支分権」といいます。
なお、著作者が得られる権利は支分権として定められているものに限られます。そのため、著作物を他の人に閲覧されたり、記憶されたりする場合は著作権法の対象外です。
著作権侵害になるケース
前述したように、著作物を印刷・コピーしたり、ネット上にアップロードしたりするときは、原則として著作権を持っている人から許可を得ることが必要です。万一これを怠った場合は著作権侵害に該当します。ただし利用方法が公益性などを求めるために定められた「権利制限規定」に該当する場合は著作権法の対象外になります。著作者の許可を得なくても自由に著作物を利用することができます。次のような場合が該当します。
・プライベートな利用で著作物を複製(コピー)する場合
・報道や研究など正当な範囲内で自身の著作物に引用する場合
・学校教育の目的上必要な範囲で著作物を教科書に掲載する場合
・授業の過程で著作物を複製する場合
・著作物を試験問題として複製またはインターネット上で送信する場合
・営利目的でなく(料金を受け取らず)著作物を上映する場合
・屋外設置の美術品や建築物を利用する場合
など
※一部例外や、許諾不要でも通知や補償金の支払いが必要なケースがあります。
なお、著作物を無断使用した場合や権利制限規定に該当しなかった場合は、著作者から訴えられ、裁判に発展する可能性があります。その際争点となるのが類似性と依拠性の有無です。
類似性とは、「他者の著作物と自己の著作物の具体的な表現(創作的表現)が共通していること」です。ただし、共通する点がアイデアをはじめ表現以外の部分や、ありふれた表現である場合は類似性が否定されるため、著作権侵害とはなりません。
依拠性とは、「他者の著作物に影響を受けて自己の作品に用いること」です。これを明らかにするために、制作時点で著作物を認識していたか、作品がどの程度似ているかなどが問われます。これらを踏まえた上で偶然に一致したと判断された場合は依拠性がないとされ、著作権侵害にはあたりません。
生成AIと著作権に関する疑問
著作権法の基本を押さえた上で、生成AIと著作権の関係について検討します。この問いに関しては生成AIの学習段階と、制作物作成・利用段階に分けて考えなければなりません。さらに、AI生成そのものの著作権についても別で検討していく必要があります。AIの学習段階で著作物を使うと著作権侵害となるのか?
AIの学習段階とは、膨大なデータを収集・加工して学習用データセットを作成し、学習用プログラムに入力する工程です。学習用データには著作物に該当するデータも多数含まれており、AIの学習段階におけるこれらの扱いも複製権や譲渡権・公衆送信権などに該当するとして、原則著作者の承諾が必要とされていました。しかし、学習データに含まれる膨大な著作物について個別に許諾を得るのは現実的でない、入力段階では著作者の不利益は生じないなどの理由から「著作権法第30条の4」を導入し、学習段階では基本的に著作者の許可なく著作物を利用できるようになりました。
著作権法第30条の4とは、著作物の非享受利用(著作物に表現された思想または感情の享受を目的としない利用)では、必要と認められる範囲を限度に著作者の許諾を必要としないことを規定したものです。
ただし、非享受利用に該当するための条件も規定されており、それらに該当しない場合の無断利用は著作権侵害と判断されます。
生成AIを使って制作したものは著作権侵害になる?
生成AIでは利用者から得た指示をもとに画像などを作成することができます。生成AIによる創作物も、人が制作したものと同様に扱われる点に注意しましょう。生成AIによって作成したものは上記で解説した基本的な著作物と同じく、類似性や依拠性が認められれば著作権侵害になる可能性があります。ただし先述した「権利制限規定」に該当するときは著作権侵害の対象外です。
また、利用者の意図に反して、既存の著作物と似た作品が生成される場合もあります。生成AIユーザーの指示内容に著作物が含まれていないにもかかわらず偶然似た作品が作られたようなケースでは著作権侵害にはなりません。
生成AIを利用するときは通常の著作権が適用されるものと考え、権利制限規定内で利用しているか、規定外の利用のときは既存の著作物と類似性や依拠性がないか注意する必要があります。
AIの生成物自体に著作権はあるのか?
コンピューターで創造した作品の著作権については昭和の時代から検討されており、人の細かな指示なしに、AIが自律的に生成したものは著作物に該当しないと考えがまとめられています。これにより、人の指示なし、もしくは簡単な指示のみでAIが作成したものについては、基本的に著作物に当たらないと捉えることができます。一方、人が創作意図を持ってAIを創作の道具として利用した場合(創作的寄与と認められる場合)は、AIが作成したものであっても著作物の対象となり、AI利用者が著作者となります。
生成AIと著作権について指摘されている問題
生成AIの登場により、作品を短時間で大量に生成することが可能になりました。生成AIで制作した創作物の法律上の取り扱いはここまで説明したとおりですが、広く利用されるようになったことで、生成AIと著作権にかかわる課題も提起されています。例えば、一般的な制作物同様、AI創作物においても裁判所でしか著作権侵害か否かを判断できない問題です。争点となる類似性・依拠性については専門家でも意見が割れやすく、著作権侵害が成立するかどうかを法廷で即座に決定することが難しいとされています。
しかし、判決が出るまでは著作権侵害かどうか判断できないため、課題として指摘されています。個別に判断するのが難しい点も指摘されているところです。
以上のことから、AIと著作権については今後も注視していく必要があります。企業で生成AIを利用する場合、現時点での取り扱いとしては、著作権違反にならないように運用することが大切です。