デジタルマーケティングコラム
ARとは?VR・MRとの違いと活用事例を解説
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XRエンジニア・VRゲームディレクター
大学時代からVRコンテンツを開発、他にも武道や演劇などの空間表現に携わる。デジタルな立体空間における身体性を意識した体験設計を得意とする。東大VRサークルUT-virtual共同創設。現在はイマクリエイト株式会社にて主にXRシステム開発を担当し、VRゲーム「Groove Fit Island!!」のディレクションも行う。
松迫 翔悟
ARとは現実世界を仮想的に拡張する技術を指し、「Augmented Reality(アグメンティッド・リアリティ)」の略です。スマートフォンやアプリの機能としても活用されているため、耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。この記事では、ARの意味やVR・MRとの違い、さらにARの活用事例をわかりやすく解説します。
ARとは
ARは「Augmented Reality」の頭文字をとった略称です。「Augment」は「付け足す」「拡張する」といった意味の英単語なので、日本語にすると「拡張現実」と訳されます。具体的には実際の物理世界にバーチャルな情報を重ねて、物理世界の情報を「拡張する」技術を指し、ARという名前はボーイング社のTom Caudell氏によって名付けられたといわれています。
昨今では、スマートフォンを用いるAR技術やウェアラブルなヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用いるAR技術なども、総じてARと呼ばれることが増えています。スマートフォンでは二次元のディスプレイ、HMDでは360度3D映像と、拡張現実を表示する出力形態に違いがありますが、カメラなどのセンサーからコンピュータが外の物理現実を認識し、デジタルオブジェクトを重ね合わせて出力しているという意味では仕組みは同じです。
また、ARと聞くと視覚的にバーチャル世界が拡張されたものをイメージすることが多いですが、ARは視覚に限った技術ではありません。聴覚などその他の五感についても「物理現実にデジタルな情報を重ね合わせる」ことで、新しい感覚を提示することができます。
ARが身近に利用されている例として、「ポケモンGO」が挙げられます。ポケモンGOの「AR+」モードを使えば、ポケモンが現実世界の特定の位置に固定されて表示され、あたかもプレイヤーの目の前にポケモンが現れたかのように見えます。プレイヤーは歩いてポケモンに近づいたり、後ろに回り込んだりすることができるため、リアルな感覚でゲームを進めることができます。
VRとの違い
VRは「Virtual Reality」の頭文字をとった略語で、「人工現実感」と訳されます。実際には「仮想現実」と訳されることも多いですが、「Virtual」は「実際の、実質的な」という意味を持つため、VRは「実際には存在しないが、実質的に現実と同等の環境を提示する技術」といえるでしょう。VRデバイスの代表格は「Meta Quest」や「Valve Index」などのHMD(ヘッドマウントディスプレイ)です。これらは「VRゴーグル」とも呼ばれ、体験者の頭につけることで主に視覚と聴覚について人工現実感を提示します。手に持つコントローラの振動などと合わせて、触覚提示をするHMDも多いです。
ARとVRの違いは、現実世界とバーチャル世界の「混合度」にあります。ARは「現実に少しバーチャルが混入した世界」である一方、VRは「完全にバーチャルな世界」を提示します。
MRとの違い
MRは「Mixed Reality」の頭文字をとった略語で、カナダ・トロント大学のPaul Milgram教授が提唱した「物理現実の世界」と「バーチャルな世界」の連続体を指す言葉です。「複合現実感」と訳されることもあり、昨今では物理現実とバーチャル世界を融合させる技術そのものをMRと呼ぶことも増えています。MRを用いた代表的なものとしては、マイクロソフトが開発した「Microsoft HoloLens」という、ホログラフィックコンピューターのデバイスが挙げられます。ARは、この連続体の中では「現実の世界」寄りで、リアルとバーチャルの複合度の概念といえます。「現実をベースにバーチャルが少し混入した世界」をARと呼ぶ一方、「バーチャル世界をベースに少し現実が混入した世界」のことをAV(Augmented Virtualty)と呼びます。
ARとMRの違いは、「どこが主体になっているか」です。ARが「現実に少しバーチャルが混入した世界」であるのに対して、MRは「バーチャル世界に少し現実が混入した世界」であり、バーチャル世界が主体になっています。
SRとの違い
SRは「Substitutional Reality」の頭文字を取った略称で、「代替現実」と訳されます。文字通り、現実世界の一部を過去の世界やバーチャル世界に「代替」する技術のことです。「目の前に、限りなく現実に近い虚構を見せたら、人はどう認知するのか」という、人間の認知や心理にかかわる疑問を解き明かすべく発案されました。SR技術の最大の目的は「体験者にバーチャル世界を現実のものと錯覚させる」ことです。AR技術やVR技術を使用して、錯覚を起こすための体験設計の工夫をすることにより、SR体験が実現します。
ARとSRの違いは、「リアリティ」を感じさせられるかどうかです。私たちにとっては「主観的な世界」こそが「現実」ですが、VRやARは体験者に「リアリティ」を感じさせるというアプローチが工学的に不可能でした。しかし、SRはそれが可能であり、体験者の主観的な現実を提供するものといえます。
ARの種類
ARは、「マーカー型」「GPS型」「空間認識型」「物体認識型」の4つに分類されます。それぞれの特徴について紹介していきましょう。マーカー型
「ARマーカー」と呼ばれる特定の画像や写真をカメラで認識し、バーチャルな3Dオブジェクトを重ね合わせて登場させる方法です。従来はQRコードのような白黒画像をマーカーとして使うことが多かったですが、認識技術の向上によって、近年は写真やイラストをマーカーとして使用することができるようになりました。
例として、商品パッケージやトレーディングカードなどをそのままARマーカーにして、スマホのアプリで読み込むことでバーチャルオブジェクトを重ね合わせるコンテンツが登場しています。
GPS型
主にスマートフォンのGPS機能や、磁気センサー、加速度センサー、ジャイロセンサーなどを組み合わせて算出した、体験者の位置情報を使ってAR体験を作る方法です。「ロケーションベース型」と呼ばれることもあります。GPS型は「ポケモンGO」が有名な例ですが、「Googleマップ」にもこれを活用した高精度なARナビゲーション機能が搭載されています。
空間認識型
カメラやセンサーで現実空間を認識し、物理現実の床や壁に正確に配置されるようにバーチャルなオブジェクトを彫像する方法です。最近は「LiDAR」などの光検出と測距の新しい技術によって、通常のカメラでは把握しきれなかったような空間の細部まで、はっきりと認識できるようになっています。
空間認識型の活用例としては、部屋の間取りを空間として認識し、バーチャルな家具を置いて購入前にシミュレーションできるアプリなどがあります。
物体認識型
特定の物体の特徴点をカメラで認識し、コンピュータで3Dオブジェクトとして処理し、バーチャルな情報を重ね合わせる方法です。物体認識型の例として、InstagramやTikTokで使用されている「フィルター」が挙げられます。フィルター機能で顔や体、手などの特徴点を検出し、それに合うようにバーチャルなメイクやエフェクトを重ね合わせることができるものです。
昨今ではオンラインミーティングが一般化していますが、ミーティング時にバーチャル背景を設定するときの体の輪郭の検知や、エフェクトの重ね合わせにも、物体認識型のAR技術が使われています。
ARの活用事例
ARは近年、さまざまな分野の企業で活用されています。ARの技術を使って実際にサービスを展開している企業の例をいくつか紹介しましょう。IKEA
世界的大手家具メーカーIKEAのスマホアプリ「IKEA Place」は、スマホのカメラを室内にかざすことでCGの家具が現れ、実際に設置した場合のイメージを実物大で確認することができます。ソファー、サイドテーブル、棚など、IKEAのカタログに掲載されている膨大な3Dモデルのデータを扱うことができるため、購入を検討している際に役立ちます。
参照:IKEA「Ikea App Page」
https://www.ikea.com/au/en/customer-service/mobile-apps/say-hej-to-ikea-place-pub1f8af050
LIFULL HOME'S
株式会社LIFULLが提供する、賃貸・不動産検索アプリ「LIFULL HOME’S」は、ARを使った機能を3つ搭載しています。物件情報やお店の情報が表示される「かざして検索」は、街中を歩きながら気になる物件にスマートフォンをかざすだけで、物件の空室状況や周辺のお店情報を気軽に調べることができます。
内見先の部屋で自動的に壁の長さや窓の高さを計測してくれる「AR間取り作成」機能は、部屋を一周するように角に沿って歩くことで、間取りが計測されるという仕組みです。
内見先の部屋の気になる設備に評価をつける「AR評価作成」機能では、評価したい箇所にカメラをかざしてボタンをタップするだけで、簡単に評価をつけることができます。
参照:App Store「賃貸物件検索 ホームズ 不動産・部屋探しHOME'S」
https://apps.apple.com/jp/app/id342650611
東京メトロ
東京メトロは、社員研修向けにトンネル等の土木構造物の検査業務で使用する教育用ARアプリを開発・運用しています。総合研修訓練センター内の模擬トンネルや模擬橋梁にiPadをかざすことで、実際のトンネルや橋梁に存在する形状を再現するため、実際の検査業務と同じ手順・手法の模擬体験ができ、安全な環境で効率的に研修を行うことが可能です。参照:東京メトロ「AR(拡張現実)技術を活用した土木構造物の維持管理教育用アプリの使用を開始しました」
https://www.tokyometro.jp/news/2017/189011.html