若い世代のオーラルケアのモチベーションをあげるためにどんなリサーチが必要か 相談しながら見えてきた突破口「セルフケア」
お口の健康や美を追求する商品を開発、販売しているサンスター株式会社(以下、サンスター)。主力製品である「オーラルケア」領域では、「若い世代の意識、関心の低さ」を課題としていました。その課題を打破するために実施したのが、「オーラルケア」ではなく、「セルフケア」をテーマにした調査でした。今回は、若年層のライフスタイルを探ることで、将来の製品開発に役立てるために尽力した2名の方に、調査の目的、成果についてお話を伺いました。
(後編の記事はこちら: セルフケアの“新たな習慣”を作るという挑戦。顧客起点のマーケティングで、時代にマッチした事業を展開し続ける)
ご相談企業様のご紹介
- サンスターグループ
サンスターグループは、持株会社サンスターSA(スイス・エトワ)を中心に、オーラルケア、健康食品、化粧品など消費者向けの製品・サービスをグローバルに統括するサンスター・スイスSA(スイス)と、自動車や建築向けの接着剤・シーリング材、オートバイや自動車向け金属加工部品などの産業向け製品・サービスをグローバルに統括するサンスター・シンガポールPte.Ltd.(シンガポール)を中核会社とする企業グループです。
マーケティングインテリジェンスグループ スペシャリスト
マーケティングのプロフェッショナルとして、これまでさまざまなブランド、商品の市場調査などを担当。「20~30代のオーラルケアの行動変容のヒントを探る調査」でも、プロジェクト推進者の中核として活躍。
マーケティングインテリジェンスグループ長
マーケティングに関する全般的な企画や戦略などを主な業務とする、マーケティング統括部のマーケティングインテリジェンスグループを統括。
プロジェクト概要
課題
- 若い世代の「オーラルケア」に対する意識の低さを懸念。モチベーションを上げるためのヒントを模索
- 「セルフケア」という広い視点で若い世代の意識を調査し、「オーラルケア」の意識向上へつなげたい
取り組み
- 「20~30代のオーラルケアの行動変容のヒントを探る調査」として、若い世代の「セルフケア」に対する意識を調査
-
「セルフケア」という漠然としたテーマを、クロス・マーケティングとともに具体化
効果
- 「セルフケア」の調査結果から「オーラルケアのモチベーションアップ」のヒントを発見
- その後も「セルフケア」をテーマにしたワークショップを継続して実施
Interview
差別化のために「オーラルケア」に限定せず、「セルフケア」という広い視点での調査へ
――今回行った「20~30代のオーラルケアの行動変容のヒントを探る調査」の目的、背景について教えてください。
佐藤 祐子様(以下、佐藤様) サンスターは「健康」に関連する商品、中でも「オーラルケア」、つまりハミガキやハブラシなどの領域に強みを持っていますが、市場が激化する中で「機能性の差別化」だけでは選んでいただけなくなってきている点を課題に感じていました。例えば、店頭でオーラルケア商品の棚を見たときに「どれもあまり違いがないかも」と思ったことがあるのではないでしょうか。そういった場面で、「この商品を使ってみたい!」と感じてもらうにはどうすればいいのかと悩んでいたのです。
以前からサンスターでは、新商品の発売前にニーズや要望に関する調査をたびたび行ってきました。しかし、一つの商品に限定した調査も大切ですが、生活者の価値観をより深く知るための「広い視点での調査」も重要ではないかと考えるようになりました。
そこで今回「オーラルケア」よりも視点を広げ、自分の心身を自分で世話するという「セルフケア」をテーマに掲げた調査を実施しました。「セルフケア」を正面から調査しようという試みは初めてと言えます。
「同じ課題感を持って一緒に悩んでくれる」クロス・マーケティングの姿勢を評価
――長年にわたりクロス・マーケティングをご利用いただいていますが、その理由をお聞かせください。
佐藤様 調査を行う以上、企画力が高い会社、調査結果の解釈をお手伝いいただける会社にお願いしたいと考えてきました。クロス・マーケティングとの付き合いはその前身も含めると30年以上になりますので、そのこと自体が信頼の証しと言えるでしょう。
クロス・マーケティングは、弊社がこれまで何を課題として、どう解決してきたかなども熟知しています。新しく調査をしたいと相談するときも、過去の課題感を把握した上で、「一緒に取り組みましょう」という伴走型のスタンスで提案してくれるので、非常に頼りになるパートナーです。
和田 隆志様(以下、和田様) 製品開発、ものづくりは、市場やニーズの分析、企画、開発、製造、販売、マーケティングとさまざまな領域にまたがります。クロス・マーケティングは、弊社の製品づくり全体を把握したうえで、かつメーカー視点に偏ることなく、消費者視点を持って客観的に調査、分析をしてくれます。それが長いお付き合いを続けてきた要因です。
――クロス・マーケティングとしては、サンスター様のニーズに応えるために何を意識していますか。
クロス・マーケティング(以下、CM)金光 「現在、お悩みの課題」「調査を依頼する背景」などを毎回しっかりと確認させていただいています。そして「本当に知りたいこと」は何か、「どこが判れば役に立つか」を自分ごととして理解し、お客様にとって有意義な調査になるように努めています。
CM柴 多くの調査対象者から話を聞いていると「全員に共通する考え」が見えてくる一方、「斬新なアイデア、尖った意見」が出てくることもあります。いろいろな意見を見落とすことなく、柔軟に受け止めることがとても重要です。そういうところから次の商品開発に生かせるようなヒントが生まれると考えて、お客様に役立つ調査、分析、そしてアドバイスできるようにと心がけています。
若い世代のオーラルケア意識の引き出し方は?
――なぜ「セルフケア」をテーマにした調査を行ったのですか?
佐藤様 従来の調査では「オーラルケア」に焦点を当てることがほとんどでした。ところが「歯」「口腔」の健康に関心を持つのは、おおむね40歳以上の方、歯周病などの問題を感じ始める年代がほとんど。若い方は自分の歯や口にそれほど関心を持っていない傾向が見えていました。
ではどうすれば若年層の「オーラルケアに対するモチベーションを高められるのか」と考えたときに、「オーラルケアは、セルフケアの一環」と気づきました。オーラルケアを意識していない若い方たちも、自分のためのセルフケアには取り組んでいらっしゃるはず。であるなら「セルフケアへの意識の高まりを理解することで、オーラルケアへの意識を変えるきっかけが探れるのでは」という新しいアプローチが見えてきたのです。
とはいえ、実のところ最初から「セルフケア」という方向性がハッキリと決まっていたわけではなく、クロス・マーケティングと相談しながら企画を進めていく中で見えてきたことでした。
和田様 若い世代を対象とするにあたって、時代の移り変わりも考慮したいと考えていました。若い世代の意識も時代によって変わっていくものです。クロス・マーケティングは、「CORE」という30年以上にわたる生活者のライフスタイル調査による知見を持っていますので、その知見を今回の調査に生かしてもらえるのではと期待していました。
――そのような課題を提示されて、クロス・マーケティングとしてはどのように考えたのですか。
CM金光 今回のようにブランドに関係なく、若い世代の思いを知りたいというサンスター様からの依頼はレアでした。相談を受けたときは「サンスター様が新しい一歩を踏み出そうとしている」と強く感じ、何としてもこの調査を成功させたいという気持ちを持ちました。
熟練モデレーターによる充実したオンラインインタビュー
――この調査はどのような形で進めたのですか。
佐藤様 今回の調査のポイントは、「健康を目的に置いていない20代、30代の方たちのモチベーションになる要素を、どうやったら引き出せるのか」でした。弊社の企画書にまとめた仮説に対して、クロス・マーケティングと一緒に「もっと違う観点もあるのでは」と議論を重ねていきました。
CM金光 一口にセルフケアといっても、カラダの問題、ココロの問題といろいろな範囲があります。「海外旅行のための英会話」など、自分磨きのようなところまで広げながら議論を深め、最終的に今回のようなテーマに落ち着いたのです。
佐藤様 一番苦労したのは、その後の調査対象者を決めるスクリーニング、集めるリクルートでしたね。
CM金光 普通の調査ではあまりないことですが、リクルートに入る直前に「一回条件を整理したほうがいい」と、対象者をカテゴリ分類した表を作って、「このカテゴリに属する人の話を聞きたい」と絞り込んでいきました。
――実際のインタビューはどのように進めたのですか。
CM金光 インタビューに答える対象者と、質問をするモデレーターがオンライン会議システムを使って行いました。
その裏側では別のオンライン会議システムを使って、スタッフ同士が連絡を取り合いながら、「こういう質問を追加してください」とモデレーター に指示を出したりしていました。
佐藤様 実際にインタビューで話を聞くモデレーターとしてはクロス・マーケティングの橋本さんにお願いをしました。他の案件も担当していただき、弊社としてもとても信頼しているモデレーターです。事前に意識合わせをしていたこともあり、「そこを深く聞きたい」と思ったときは、わざわざ指示を出さなくても掘り下げていただけましたし、現場で追加質問をお願いしたときもスムーズに対応していただきました。
和田様 実際に対面するのと違って、オンラインでは答えにくかったりするのではないかと懸念もしていたのですが、モデレーターの橋本さんの雰囲気づくり、進め方が上手で、直接あってインタビューするのに近い感覚でお話を聞けました。
――インタビューの雰囲気はいかがでしたか。またどのような気づきがありましたか。
佐藤様 答えていただいた方々がみなさんリラックスして、いきいきと話していただけたのが新鮮でした。質問に答えていただくというより、「話したいことを聞かせていただく」という雰囲気で、私たちにとってもたくさんの発見がありました。
いつもの「オーラルケア」に限定した話を行うインタビューではどうしても「歯や口に関する悩み」といった話が多くなりがちですが、今回はそれぞれの生活上の出来事やライフイベントにからめてセルフケアについても話していただけて理解が深まりました。
CM金光 「ある出来事がきっかけで新しいことを始めた」「健康にいいことを継続するために、こういう工夫をしている」というような話は、聞いている私も楽しかったです。
インタビュー後のディスカッションが、その後の社内全体の共通認識を生み出した
――インタビュー後の対応を聞かせてください。
佐藤様 インタビューは3日にわたって実施し、その日の最後にデブリーフィング(振り返りのミーティング)を実施し、「想定通りのフローだったか」「足りない点はなかったか」などを相談しました。
CM金光 インタビューはナマ物なので、終わった直後の気持ちが温まっているうちに「どんな感触を持ったか」を共有することが大事です。参加したみなさんの思いを熱いうちに聞かせてもらうのが、次の日のインタビューに役立ちます。
――最後に発言録、報告書という形で成果がまとめられたわけですね。
佐藤様 インタビューの発言録、報告書を受け取りました。今回で言えば、「何がモチベーションアップにつながるのか」「オーラルケアに還元できそうな話」などをまとめていただきました。
オーラルケアだけに着眼していたら気づかなかったような話も見えてきましたし、セルフケアとオーラルケアを比較して見えてきた相違点もあります。それが次のステップにつながる突破口になるのではと期待しています。
そして特別にお願いして、報告会の後に意見交換会も開いていただきました。今回の調査は、今までに実施した調査とタイプが異なりますので、参加したメンバーがそれぞれ違った発見、気づきがあったと思います。それを話し合って共有し、次の展開に向けて意識を合わせておきたいと考えたのです。
CM金光 説明するだけの報告会は珍しくないのですが、今回はサンスター様から「最後にしっかりディスカッションしたい」というお話をいただき、「将来を見据えて、今回の調査を実施したんだな」という本気度が伝わってきました。
和田様 弊社のメンバーだけでディスカッションしても、バイアスがかかってしまいます。クロス・マーケティングを交えて意見を言い合うことで、客観性のある意識合わせができました。
CM金光 意見交換会では、和田さん、佐藤さんの所属するマーケティングインテリジェンスグループだけでなく、各ブランドの担当者の方などいろいろな方にも参加していただきました。サンスター様という会社全体の共通認識を生み出す機会を作る一助になれたのは、クロス・マーケティングとしてもうれしいことです。
調査報告をもとにワークショップを開催。次のステップへ向けた新たな一歩を
――今後の展望やクロス・マーケティングのご評価についてお聞かせください。
佐藤様 その後もセルフケアというテーマに継続して取り組んでいます。例えば、意見交換会に参加した社内メンバーが中心になりワークショップを行い、次のステップに向けた取り組みを始めています。
ワークショップには、インタビューや意見交換会に参加していないメンバーも加わり、新しい気づきや発見が生まれています。会社としても得られたものが大きい調査となりました。
和田様 クロス・マーケティングは全員が一丸となって、調査の対象者だけでなく、弊社の意見まで丁寧に引き出そうとしてくれるので、こちらとしてもすごくやりやすかったです。
佐藤様 今回のセルフケアに関する調査は、生活者のみなさまにとって「気持ちが明るくなる」という方向に関与できるような商品づくりにも生かしていければと考えています。これからもクロス・マーケティングには、次のビジネスにつながるような調査、サービスで支援していただければと思います。
CM柴 調査会社として「お客様のためを思って、どう寄り添えるか」を求められていると思います。ただ単に「発注者と受託者の関係」ではなく、「一緒に寄り添い、同じ課題感を持ち、調査に取り組む」という関係を目指していますので、これからもサンスター様の目的、意図を尊重した提案ができればと考えています。