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ビジネスリーダーの洞察力

話題のヒット商品やサービスを送り出したビジネスリーダーへのシリーズインタビュー。
成功の裏側にある戦略やマネジメントについて『洞察力』という切り口から掘り下げ、ビジネスを成功に導く本質に迫ります。

デジタル時代にアナログカメラが世界中の若者から支持されるわけ 高井隆一郎の洞察力(後編)

たどり着いた深層心理に固執せず、日々アップデートすることが重要

富士フイルム株式会社

写真左)富士フイルム株式会社 イメージングソリューション事業部 コンシューマーイメージンググループ 統括マネージャー 高井様
写真右)弊社 コンサルティング本部 インサイトコンサルティング部 コンサルティングディレクター 堀

2018年から世界でブランディングの統一を進め、ブランド強化を推進してきた富士フイルムの「INSTAX/チェキ」。世界共通のマーケティングガイドラインを作成する際は、ターゲットとするZ世代のペルソナを詳細に設定したという。多くの企業が課題とする消費者、ターゲットの理解はどのように行われているのか、高井隆一郎氏に伺います。

高井隆一郎様

富士フイルム株式会社

高井隆一郎様

イメージングソリューション事業部 コンシューマーイメージンググループ 統括マネージャー
2001年入社。2009年からの8年間はドイツに駐在。帰国後、INSTAX/チェキブランドの商品企画とグローバルプロモーションを担当し、2021年から現職

ターゲットを「Z世代」と一括りにせずペルソナを設定

 ターゲットを調査してペルソナを設定したと話されていましたが、具体的にZ世代の深層心理を知るために、どのようなことをされたのでしょうか。

高井様 わかりやすいように「Z世代」と表現していますが、実際はあえて世代を一括りにしないように、かなり気を使いました。まずはZ世代を定義するために、人の一生を分解することから始めました。0歳から100歳まではやりすぎなので、初めてINSTAXを手にするくらいの年齢から、80歳くらいまでを並べて、そこに男女や人生設計を想像します。そこから小学生から大学生くらいまでをZ世代とした場合、なかでもどれくらいの年齢層をターゲットにするべきか、その年代の趣味趣向、その人の行動傾向は、と分解していき、ペルソナ像を作り上げて行きました。この行為を私だけではなく、チーム全体ができるように足並みを揃えることが重要でした。

 そうした作業は定量・定性、インタビューなどの調査をもとに進めていくのでしょうか。

インタビューの様子7

高井様 定量調査は世界数千人規模で毎年行っています。国によっては独自の調査も行っています。対面のインタビューも重視しています。

 調査の結果はどうしても書類上の数字で理解、判断してしまうものだと思います。データから深層心理を読み解くためのポイントはありますか。

高井様 当たり前のことですが、数字を鵜呑みにせずに大きなトレンドをとらえるようにしています。インタビュー調査では対面でもオンラインでも行間を読むことをとても注意しています。新しい商品を見たときの反応、表情やそれが生まれるタイミングなど、小さなことを見逃さないように気をつけました。

 私たちもデータの背景を考えてインサイトを導き出すように心がけているので、共通点を感じます。背景の情報は調査結果には数字として出てきません。なぜその数字が出ているのかを調査対象や社会状況と照らし合わせて考えて初めて解釈ができるようになる。その意識は大切だと考えています。

高井様 ひとつの情報だけを信じないことも大事です。当社は商品企画もプロモーションもグローバルでチームを組んで進めています。新商品のデザイン検討は、複数の候補を見せてインタビューで絞り込みを行いますが、事前にチームである程度の候補を決めます。候補が選ばれても、選ばれなくても、理由を突き詰めていきます。インタビューの結果から、さらに理由を深く考えて決定を下すので、得票が多いものが単純に採用されるわけではありません。
私たちがそのようにしている理由は、社内で行う調査でも、社外に依頼して行う調査でも、インタビューの場で話すことが“本音”かどうかがわからないからです。対面だとやはり皆さん良いことを言おうとするものですが、そこで「なぜですか」と聞くと答えに詰まることも多くあります。インタビュー調査というものは表面的になってしまうこともあるので、なぜ表面的になるのかを考えるようにしています。

 私たちもインタビュー調査の依頼を受けて、クライアントから発言録のご納品だけで良いと言われることがありますが、それで良いのだろうかと思うことがあります。インタビューの「場」にいることは重要です。

インタビューの様子8

高井様 今は、チームがしっかり対応してくれるようになっているので任せていますが、いまだに調査現場には自分で行きたいと思っています。

 高井さんは今、未来を見据えた上で今後のINSTAXブランドの成長に向けて何が必要だと考えていますか。

高井様 当社はグループパーパスとして「地球上の笑顔の回数を増やしていく。」を定めています。これはINSTAXブランドが目指しているもので、ブランドと関わる人の笑顔を増やすために何ができるのかを追求していきたいと考えています。タグラインでも語っているように、写真をただ撮る(take)だけではなく、撮ることが与える(give)に直結しているのがINSTAXの特徴です。今後もブランドや商品を通じてどのような価値を与えられるかを考えていきたいです。

未来のビジョンを描き、その途上にある近未来を明確にして共有すればチームは動く

 高井さんはブランディングの統一など、リーダーとして活躍されています。チームや組織を円滑に運営していくために意識していることは何でしょうか。

高井様 心がけているのは、ブランドでも商品でも、過去から現在までの状況をふまえて、未来へのビジョンを明らかにすることです。それを曖昧ではなく、明確な形で伝えることを非常に重視しています。伝える場では、メンバーと会話をして疑問を一つひとつ解消しながら進めるとよりチームとしては強くなると思います。

 ビジョンは多くの企業やチームで共有していますが、どれくらいの未来を見ていますか。

高井様 理想としては10年単位で考えるように言われています。正直なところ、10年先の世の中がわかるはずもありません。ただ、頑張って10年先を想像すると、そのための5年先、3年先にどうあるべきかが具体性を持って見えてくるようになります。その作業で一番重要なことは、想像した10年先へ向けた広い道のイメージをつくることです。その道が向かう方向が定まっていれば、たとえ途中で歩く向きが少し変わっても、その道から逸脱しなければ問題ありません。広い幅の道でつくった軸をベースにして、3年先のビジョンを具体的に伝えられれば、チームも動きやすくなるのではないでしょうか。

インタビューの様子9

 単純に3年先の未来だけを提示されると、そこへ向かう日々の仕事はタスクでしかなくなってしまいます。今見ている3年先は、さらに10年後のためにあると思えるようになるとチームもうまくいくのでしょうね。

高井様 チーム全員で10年先に目指すもの、提示した3年先の背景を共有して、近未来に向かうようになれば日々の議論も濃いものにできると思います。私は、背景を共有するために、経営層や上司にも、新入社員にも常に丁寧に説明することを心がけています。

 この連載では皆様にビジネスリーダーの洞察力を伺っています。高井さんも洞察力を使ってターゲットの深層心理を知ろうとされていると思いますが、ビジネスリーダーとして重要な洞察力とは何でしょうか。

高井様 心がけているのは本質を見抜くこと。いつも深層心理は何か、本音は何かを考え続けることです。そこで重要なのは、考えてたどり着いたものを日々アップデートしていくことです。答えにたどり着いたと思っていても、それに固執してしまうことが一番危ない。世代を一括りにしないという話と同じです。ターゲットとするZ世代にAさんという人がいるとして、ペルソナとして人物像を立ててその人にあった商品を考えます。ですが、AさんはずっとそのときのAさんのままでいるわけではありません。年齢を重ねながら生活や趣味、嗜好も変わっていくはずです。そうなると最初に提案した商品と5年後にAさんに提案すべき商品は違うはずなので、こちらが決めつけてしまうと変化に対応できなくなってしまいます。

 アップデートし続けなければならないと気づくきっかけのようなことはあったのですか。

高井様 中国でユーザー調査をしたときにピンク色のチェキの話になったことがあります。私はかわいいと思っていたのですが、中国の複数の若者からいやなピンクと言われました。そこでピンクという色ひとつをとっても、非常にたくさんの種類があると改めて気がつきました。それからは自分には固定概念があるという前提で考えるようにしています。

 高井さんをはじめINSTAXブランドが消費者の背景まで考えて日々の活動をされていることがよくわかりました。私たちもクライアントから調査依頼を受け背景をしっかり説明していただいたときの方が、出てきた結果に必要な要素を加えた解釈を提示できます。より良いデータを提供するためにも、クライアントから背景を引き出していくことも大事なのではないかという気づきも得られました。今日はお時間いただきありがとうございました。

インタビューの様子10

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